009
家の中はあらかた片付けられていたけど、壁はもちろん崩れたままだ。
マッコイ爺さんが杖をつきながら出てきた。胸に添え木を当てた包帯を巻いている。
「レン、無事だったか」
「爺さん、無理しないで」
「ふん。これしき、なんでもないわい」
爺さんとジェシカは無事に残ったソファに座り、僕とTBはじゃがいもの入っていた木箱を持ってきて腰を下ろした。TBの座った箱がきしむ。
僕がことのあらましを話し終えると、ふたりは考え込んでしまった。
「TB、といったか。あんたは郡保安官からの依頼を受けて正式にそいつらを追っているんじゃな」
TBがうなずく。
「レン、気持ちは分かるが、ここから先はTBに任せたらどうだ。これ以上は危険すぎる」
「でも……」
僕はTBの横顔を見た。彼女はまっすぐ爺さんのほうを向いたまま動かない。
「お前にもしものことがあったら、わしはドクやエレナに顔向けできん」
そういわれてしまうと、何もいい返せない。十六歳の子どもになにができる? 僕は自分のブーツのつま先をじっと見つめた。
突然ジェシカが立ち上がった。部屋の隅に置かれたチェストの引き出しの中から何かを取り出すとTBの前に立った。
ジェシカの手から銀色の鎖のペンダントがこぼれ落ちて、TBの目の前で揺れた。
「あなた、これと同じものを持ってない?」
TBは胸元から同じようなペンダントを取り出すと、チャームの部分をジェシカに見せた。
ペンダントのチャームはふたつとも薬きょうだった。どちらも同じ口径で傷のようなものが付いている。
「やっぱり」
ジェシカがそういうと爺さんが立ち上がりかけて、またソファに座った。
「痛ててて。あんた、あのときの……」
「レン。あなた、どうしたい?」
ジェシカが僕を見た。
「父さんを助けに行きたい」
「わかった。お行きなさい」
「ジェシカ!」
爺さんがまたソファから腰を浮かした。
「この人になら任せても大丈夫よ、ロン。TB――今はあなたたちのことをそう呼んでいるのね」
TBはうなずいた。
「レンのことを守って。昔ハリーがあなたを守ったように」
TBは胸のペンダントを引きちぎると、ジェシカに手渡した。
「そうね。じゃあ、あなたたちが帰ってくるまで預かっておくわ。これを取りに必ず戻ってらっしゃい」
「ジェシカ、どういうこと? TBと父さんは知り合いなの?」
僕には事情がよく飲み込めない。
「ええ。でもその話はお父さんを助けて、ハリーの口から直接聞きなさい。それでいいわね、TB」
TBがうなずく。
「そうか。あんたが、あのときの女の子か」
爺さんが溜息をつきながらTBを見た。
「立派になったもんじゃ」
TBは、はにかむようにうつむくと帽子をまぶかにかぶった。
「いつかこういう日がくるかもしれない。ハリーはそういって私にこれを預けたのよ」
ジェシカは手のひらのふたつのペンダントを見ながら誰にともなくいった。
「ああ、そうじゃったな」
爺さんは崩れた壁の向こうに広がる荒野を眺めている。
「さあ、そうと決まったら準備しなさい。長い旅になるかもしれない。必要なものを用意するから手伝って。ロン、あなたは動いちゃダメよ。ほら、ふたりとも何ぼーっとしてるの!」
僕とTBは慌てて立ち上がった。
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