第2話
「やあ、こんばんは。お邪魔するよ」
心優が部屋に居ると突然、黒猫が窓を開けて入って来た。
「えー! ね、ね、猫が喋った」
「その反応良いわねえ」
「えっ、えっ?だ、誰?」
黒猫に続き黒いとんがり帽子に黒いローブを羽織った女性が窓から入って来た。
余りの突然の出来事に口を大きく開け目を点にして部屋の床に座り込む心優。
「ごめんごめん、驚かせてしまったね。決して怪しい者じゃないよ」
黒猫は、笑顔でニャーとおどけて見せた。
ーーが、
心優は、床に座ったまま首を横に振る。
「もう、ニコルが喋れば怪しまれるに決まってるじゃないの」
黒いとんがり帽子に黒いローブを着た女性が肩をすくめて見せた。
心優に近づき笑顔で、
「ごめんなさいね。本当に怪しい者じゃないのよ」
警戒する心優にしゃがみこみ笑顔を見せる女性。
「お、お姉さんはコスプレの人?何でウチに?」
その言葉に自分の格好を改めて確認する女性はルナに目をやる。
黒猫は、口に両手をやり必死に笑いを
「にーこーる!!」
「にゃにゃっ」
女性は顔を膨らませ黒猫のほっぺたを引っ張る。
「私は、こう見えても正真正銘の本物の魔法使いよ!名前は、シャルル。シャルル・ローランレシアよ」
「僕の名前はニコル。こう見えても魔法省の使者さ」
ニコルは、「えっへん!」と腰に手を当て胸を張った。
「ま、魔法使い?」
心優は、二人が言っている言葉が全く耳に入って来なかった。それもそのはず、いきなり窓から人語を操る猫と魔法使いだと言うコスプレをした女性が現れたのだ。怪しくないので信じろと言う方が無理だ。
心優の冷やかな疑いの眼差しがシャルルに突き刺さる。
「ふーっ、仕方ないわね。ニコル!」
シャルルがパチンと指を鳴らすと、
「はいにゃ!行くよーシャルル!」
ニコルが呪文を演唱すると部屋の床に魔法陣が現れる。部屋一面に立体的な魔法陣が現れるその中心にシャルルが宙に浮いている。
眩い光に包まれているシャルルの服装が変わって行く。黒いとんがりが消え髪の毛がピンク色に変わり頭に二つの赤いリボンが現れる。黒いローブが消え変わり白を基調としたフリルが付いたワンピースが現れる。スカート部分は薄いピンク色。胸元には金色の首飾り、足元にはエナメル質の光沢のある赤い靴。そして、手には先端に輝く宝石が付いた魔法の杖が現れた。
シャルルは地味な黒一色の格好から可愛らしい魔法使いへと変身を遂げた。
心優は、思わず「可愛い」と声が出てしまいそうになるほどのシャルルの変わり様だった。
「これで信じてもらえた?」
何度も頷く心優。自分の目を疑い何度も目を擦ったが目の前で起こった事は現実だった。
「ーーじゃあ、本題に入ろうかしら」
魔法使いに変身したシャルルがウインクしながら喋る。その姿に女の子である心優でもドキッとするほど愛らしい。
「私がここに来た目的は一つ。私の代わりに魔法少女になって」
「・・・はい?」
「要は、魔法使いの代行よ!」
「わ、私が? 他にもいっぱい人がいるのに何で?」
「それは君がピュアハートの持ち主だからだよ」
黒猫ニコルが二人の会話の間に割り込んだ。
「ピュアハート?」
部屋の床に座ったまま心優は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「そう!このピュアハートが魔法使いになるには一番大事な要素なんだ」
ニコルが二足歩行で腕を組んで大威張りで説明を始めた。
二足歩行で人語を話す不思議な黒猫に心優の目は釘付けだった。目の前にあるのは本当に現実なのか?再び目を擦ったがそこにあるのは可愛い服を着た魔法使いと二足歩行で人語を話す黒猫が確かに居た。
「ーーまだ、信じられない?無理もないわよね。だけど、これは現実であなたにしか頼めない事なのよ」
部屋の床に座ったままの心優に手を差し伸べるシャルル。その手を握り立ち上がりながら心優は、
「何で私なの?」
「あなた程のピュアハートの持ち主がいないからよ。本当に捜すのに苦労したんだから」
シャルルの話を聞きながらニコルも「うんうん」と何度も腕を組んで頷いている。
「ピュアハートはそのままの意味。純粋な心が大事なの。大人と子どもの境界線にある少女じゃなければ魔法使いに慣れないわ」
「純粋な心・・・けど、お姉さんは?」
「私?私は本物の魔法使いだもの。本当は変身しなくても魔法は使えるのよ。あなたにこの変身した姿を見せたかったから。けど、私には少し幼過ぎる格好かしらね」
舌をペロッと出し恥ずかしがるシャルル。そんなシャルルに顔を近づけ少し興奮気味に、
「そ、そんな事ないです!!凄く可愛いです」
「あ、ありがとう・・・」
心優の勢いにシャルル一歩後退りした。
☆
「ーーさて、なぜ【魔法使いの代行】を心優、君に頼みたいかと言うと・・・」
ニコルが偉そうに「ゴホン」と咳払いをして喋ろうとした瞬間ーー、
「それは、
シャルルが真剣な表情で心優に説明する。ニコルが今度こそと話に割って入る。
「ーーだから僕たちは人間界でピュアハートの持ち主を探していて君に出逢ったんだ。これは運命だよ!」
ニコルは、両手を広げ目を輝かせる。
「心優、あなたに【魔法使い代行】をお願いしたいわ」
シャルルは真剣な眼差しで心優を真っ直ぐ見つめる。その疑いのない青い瞳に心優の心は吸い込まれそうになる。
「わ、私なんかに魔法使いが出来るのかな?」
シャルルの視線をそらし床を見つめる心優。すかさず、ニコルが自分の胸をドンッと叩きながら、
「心優、安心してよ。僕が付いててアドバイスを送るから大丈夫だよ!何せこのシャルルも僕が育てたようなものだからね」
「えっーー?」と目を細め疑いの表情を浮かべてニコルを見つめるシャルル。
「何だよ、何だよその表情は!!」
ニコルはシャーっと全身の毛を逆立せてシャルルを威嚇した。
「心優、大丈夫よ。あなたには人を守れる強い心と助けたいと思う優しい心があるわ。この二つを同時に持ち合わせている人間はほとんどいないわ。あなたなら立派な魔法使いに慣れるわ」
シャルルは心優の肩にポンッと手を置き微笑んだ。その笑顔で心優の心のモヤモヤは消し去った。
「わ、私、魔法使いやります!」
心優は両拳を胸に当て力強く叫んだ。
「にゃん!」
ニコルとシャルルはその言葉に笑顔を見せてた。
こうして、姫木心優の【魔法使い代行】の物語は始まる。
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