第1話
少女は、急いでいた。赤いランドセルを背負い口にはこんがり焼かれた四角いパンをくわえて、猛ダッシュで商店街を駆け抜けて行く。
茶色がかった髪を二つに縛っていて目をくりくりさせた少女の名は、
現在、小学校に遅刻寸前のタイムレースの真っ最中だった。
心優の家から学校までの距離は、普通にゆっくりと小学生が歩いて十五分ほどで辿り着く距離にある。住宅地を抜け、商店街の大通りを抜け、歩道橋を渡り、小学校に到着となる。
現在時刻は、七時四十分。八時授業開始なのでこのままのペースで駆け抜ければ十分間に合う。過去の彼女の実績からも「これは確実に間に合う」と確信していた。
いつもは素通りしてしまう商店街の横断歩道に老婆が黒猫を抱え立っていた。急いでいた彼女はそのまま一旦は通り過ぎたが振り返るとまだそこに立っていた。信号が切り替わらない。いつからそこに立って居たんだろうか?
「お婆ちゃん、このボタンを押さないと信号は青にならないのよ」
ボタンを押してあげるとすぐに車道側の信号機の青が点滅し赤になり、歩行者側の信号は赤から青に切り替わった。
「まあ、そうだったの。お嬢ちゃんありがとうね」
老婆は、にっこりと笑顔を見せ横断歩道を歩き出すがよたよたと足元がおぼつかない。
見兼ねた心優が、
「お婆ちゃん、私が一緒に渡ってあげるわ」
老婆の手を取り横断歩道を一緒に渡る。老婆が抱き抱えていた黒猫も大人しく二人の後をついて横断歩道を渡った。
「お嬢ちゃん本当にありがとうね」
「いいえ、どういたしまして」
黒猫はじーっと心優の顔を見つめていた。
心優と黒猫は一瞬目があったが、
その時ーー、小学校の始業のチャイムが商店街に響き渡った。
「ああ! やばい、やばい遅刻」
手足をバタつかせ横断歩道のボタンを連打する心優。
「お嬢ちゃんお名前は?」
「心優、
再び、商店街を全速力で駆け抜けて行く。
その後、心優は完全に遅刻し職員室に呼び出されたのは言うまでもない。
☆
「ニコル今の子はどー思う?」
横断歩道から商店街を駆け抜けて行く赤いランドセルを見つめながら黒猫に話しかける老婆。
「どうかにゃ? 確かに今どき珍しいくらい純粋なハートの持ち主ですにゃ」
「あの子で決まりで良いんじゃない?多分この機会を逃したら次にまた適正な子を捜すとなればまた面倒よ」
黒猫はその言葉に顔を歪ませ、
「・・・そうにゃんね。 昔は簡単だったけど今の現代社会に
「じゃあ、あの子で決まりで良いわね?」
「異論なしにゃん」
老婆は、パチンと指を鳴らすと真っ白な煙に包まれ、黒い帽子に黒いローブを纏った女性に姿を変えた。
「ーーさて、報告したら今晩引き継ぎよ」
黒猫は、小さく鳴声をあげた。
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