「ぼくも、ルリに会ってみたいなぁ」

ぼくはふと、寂しい気持ちになった。ルリが元気になって、この地球に来られるようになったとき、ぼくはいくつになっているのだろう。・・・もしかしたら、もうこの世にいないかもしれない。

「そのときは、さぁ。ぼくの子供か、孫に、よろしく」

そう言って、ぼくは少しくすぐったいような気分になった。モエギは、とてもさびしそうに笑った。

「ぜったいに、忘れないよ。たった一度しか会えなくても、ぼくたち大切なともだちだよ」

モエギとあくしゅしたら、てのひらがかぁっと熱くなった。うんとうーんと遠い過去から、ずっとずっと遠い未来へ。二人のてのひらを通して、長い時間がいっしゅんにしてかけぬけて行くのを感じた。じいちゃん、父さん、ぼく・・・そしてぼくの子供たち・・・。ぼくたちの友情は、そうやって、時間をこえて果てなくつながっていくんだ。そう思うと胸がかぁっと熱くなる。

モエギは、とっくに知っているのだろう。この星に来るたびに、ビデオテープの早送りのように流れるこの星の時間をみつめながら、一度きりしか会えないだろう地球人たちとの友情をつなぎながら・・・。いのちや思いは永遠につながっていくのを、何度も何度も感じてきたのだろう。

なんだか、目頭がムズムズして、ぼくはあわてて星空を見上げた。

「プラネタリウムみたいだぁ」

「何? プラネタ・・・リ・・・?」

「プラネタリウムってのはね、星空を、大きな丸い天井に映し出す機械さ。ぼくの住んでいるまちでは、空がにごってしまって、こんなたくさんの星は見えないから、そこで星の名前を覚えるんだよ。・・・ねえ、きみの星はどこらへんにあるの?」

モエギが指さす方向を、ぼくはだまってしばらく見つめた。はるか遠くの星から、ぼくらを見ているかもしれない、ルリのことを考えながら、心の中で、がんばれよ、と呼びかけてみた。まだ会ったこともないルリとも、もうすっかりともだちになった感じがした。


モエギのUFOは、あの、淡い光をはなっていたコスモスの下に小さく小さくしてかくしてあった。リモコンのようなものを、ピピピッと操作して大きくすると、普通の自動車くらいの大きさになる。銀色の、葉巻型っていうやつかな?

東の空が明るくなり始めるころ、モエギはにっこり笑ってさようならを言った。あんまりにもあっさり言うので、びっくりしてしまって、ぼくも全然悲しくなかった。本当にまたすぐ会えるような気がした。

UFOは音もなく、すぅっと垂直に離陸し、またぼくの頭上真っすぐの辺りに昇っていった。そうして、一度だけ、きらっと輝いて、消えた。

それをきちんと見送ってから、ぼくも自転車に乗った。胸が、どきどきする。ハンドルをにぎるてのひらが、じんじん熱い。夜明けの、酸素をいっぱいにふくんだ風を切って、ぼくはぐいぐい自転車をこいだ。

庭先にじいちゃんの姿が見えて、ぎくっとなった。思わず急ブレーキをかけてしまう。

キキィーッ!

鋭い音が静かな朝の空気をさく。わわっ!そうだ。畑仕事でじいちゃん朝早いんだ。しかられるかな・・・。だまって抜け出したの、もうばれてるかな。こりゃあ、しかられちゃうなぁ・・・。

でも、じいちゃんは、ニヤァッと笑ってかきねのほうに歩いてきた。

「モエギに、会ったんじゃろ?」

目が、いたずらっ子みたいだね。ぼくは、ぱぁっとうれしくなった。

「元気だったかぁ?」

「うんっ!じいちゃんによろしくって。あ、父さんにも教えなきゃ!」

「うんうん、だが、女性軍にはないしょだぞ」

「男と男の約束!ひみつだよね」

ぼくとじいちゃんは、にんまりと笑った。

風の強い朝。庭の草木もさわさわ歌っている。モエギが言ってた、花がともだちっていうのわかる気がするなぁ。これからはこの村の草や木々たちは、ぼくたちとおんなじひみつを持った、ともだちなんだね。

〈終わり〉

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ぼくはUFOを見たんだ 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753

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