陽炎の森63   出立の時刻になると伊織が来たので神田橋の屋敷を出て日光街道に向かったのです、その日のうちに杉戸宿に入り旅籠に宿をとり、女将に便利屋の徳之助は知っている、


陽炎の森63

 

出立の時刻になると伊織が来たので神田橋の屋敷を出て日光街道に向かったのです、その日のうちに杉戸宿に入り旅籠に宿をとり、女将に便利屋の徳之助は知っている、

か聞くと、便利屋の武蔵屋徳之助殿で御座いますかというので、そうだと答えると、いい旦那様で今は町名主で御座いまして、人情のあるいいお方ですよと褒めたのです、


笑美姫がまだ善人でいるみたいですねというので、さっそく皆で様子をみに行きましょうと旅籠を出て徳之助の店に出向いたのです、ノレンを潜ると、手代がビックリ、

してこれは真一朗様よくいらっしゃいましたと奥にいくと、徳之助が出て来て、よくお立ちよりくださいました、皆様こちらへと奥座敷に案内したのです、


座ると皆様のおかげで徳之助もすっかり、生まれ変わり町衆の為に働いておりますと畳に頭をつけたのです、まあ頭をあげなさい、ところで商売の方はと聞くと、

真一朗様のおいいつけ通り、便利屋を開きましたところ、世の中には色々な困っている人がいるようで、最近では藩に仕官しているが剣の腕が全然たたない、いまさら、

道場にかようわけにもまいらず何かいい方法はないかとの相談もあります、


ほう、それでどうしたのだと聞くと、腕は立つが用心棒の仕事はあまりないという浪人が沢山おられますので個別指導をお願いしているのです、もちろんその浪人の、

ようになるには何年もかかりますので、そのような指導ではなく剣の形さえ教えてもらえば多少は様になります、そのような指導をお願いしているわけです、もちろん、

斡旋料はいただきますと答えたのです、


なるほど実際に刀で切りあう事などない世だから形だけでも様になるか、なかなかいい方法だな、形さえしっかり覚えれば、相手も容易には打ち込めまいと褒めると、

お褒めいただきありがとうございますといい、私も習いましたのでみていただけますかというので、庭に出て木刀をお互いに構えたのです、なるほど隙のないかまえ、

方です、


打ち込んで来いというと、上段から踏み込みえ~いと打ち込んできたので、かろうじてかわしたのだが、懐にはいられ、切り返せずまいつたと思っていると徳之助が、

これでいいですかと手をゆるめたので体を離し木刀を納めたのです、それを見ていた伊織が徳之助は剣の覚えがあるのであろう、でなければあんな打ち込み方はできまい、

というと、とんでも御座いません、


その浪人から自分が打たれる事を覚悟して踏み込み木刀を振り下ろすのだ、さすればどんな強い相手でも相打ちになると教えてくれたのです、もちろん真剣では恐ろし、

くて出来ないと思います、最初は木刀でも怖かったですが繰り返している内に平気になったのです、まして、真一朗様に勝てるはずがありません、打たれるのを覚悟で、

思い切って打ち込んだのです、


手加減してくだされたのですよと、徳之助が笑ったのです、笑美姫がそうではありませんよ、あまりの踏み込みでかわすのが精一杯だったのですよ、真一朗殿の弱さ、

みたりと笑い、真一朗がいやビックリしたよ一瞬遅ければ、打たれているところであった、手加減などであるものかと笑ったのです、


席にもどり、いやあおどろきました、形を覚えるだけでも違うものですねと徳之助が感激していたのです、ぜひ今宵は我が家に逗留してくださいというので、巡察方は、

町屋にとまる事になっているのでそれは出来ぬ、そなたの活躍ぶりをみに来ただけだ、そなたが町名主であれば掃除の必要もあるまい、そうで御座いますよねと、

笑美姫に話すと、


そうですね必要ないですよ、徳之助これからも精進するのですよと話したのです、それではすこしばかりのもてなしをさせてください、旅籠には連絡しておきます、

杉戸は内陸なので川魚料理しかありませんが、鯉がドロ抜きをしてありますので、鯉料理を作ります、ぜひ召し上がってください、支度が出来るまでゆるりとして、

くださいと言ったのです、


ほうそなたは料理もするのかと聞くと、みよう、みまねでございます、料理の相談もありますので、料理人にすこしばかり習ったのですと答えたのです、それでは、

私がみてあげようと真一朗が話すと、え~、真一朗様は料理もなさるのでと徳之助がいうと、メイが殿様もびっくりするくらいの名人なのですよと笑ったのです、


伊織が私も見聞してもいいですかと聞くので、清之進様に男子厨房に入らずとおこられますよとメイがいうと、構いませぬ料理の流儀を学んできなされと笑った、

のです、台所に入るとタライに鯉が何匹も入れてあります、清流にひと月ほど泳がしていましたのでドロ抜きは出来ているはずですと話すので、いや完全ではない、

のですこし工夫をしょう、


その前にそこの大トックリを紐でしばり井戸水につけておいてくれと頼み、デバはあるかと聞くと徳之助が手渡したので、鯉を一匹取り出しまな板にのせフキンで、

目をおおうと激しく動いていた鯉がピクリともしなくなったのです、伊織どのこうすると武士の切腹と同じで鯉が覚悟するのです、したがってしつかり介錯して、

やらねばなりません、このデバで一刀のもとに頭を落とすのです、


といい一気に頭を落とし、鯉の皮をはいで皿に載せたのです、徳之助が皮は捨てないのですかと聞くのでもったいない、これで別の料理をつくるのだよといい、

そちらの鍋でソーメンを茹でてくれといい、それから七輪に火もおこしてくれと頼んだのです、


鯉を三枚に卸し、薄く切り刺身を作ったのです、このように薄く切るのは味に敏感な人はドロ臭さを感じるのでそれを感じさせない為です、次に七輪に鯉の皮をのせ、

焦げ目がつくくらいにあぶるのです、あぶったら細かく切り、茹で上がったソーメンを井戸水で冷やすとこしがでるので、これを小鉢にいれネギとこの鯉の刻んだ、

皮をのせカッオ節で取った出しをかけます、これでできあがりだよ、


後は小鉢に味噌をいれ少し酢を加えこれでこの、こいこくを食べるとドロくささがなくなり、おいしく食べられるのですと話し、徳之助それではお前の家人も含めた、

人数分作ってくれ、あと座卓はあるかと聞くと、あるというので、それを座敷に運び込みその上にのせて食べるのだといったのです、


徳之助は家人を呼び、真一朗からおそわった通り人数分料理を仕上げ座卓にのせたのです、座敷に行くと、これはいつぞや旅の途中で食べたこいこくですねとメイ、

がいうので、ひと月もドロ抜きしてあるからドロくさくないよと答えたのです、


支度も出来たので清之進様乾杯の音頭をお願いしますというと、座ったままでといい、それでは便利屋のますますの発展と道中の無事を祈ってと乾杯をしたのです、

それでは頂きましょうと清之進がこいこくソーメンを食べこれは美味しいといい、皆も箸をつけてというので、皆が箸をつけおいしい、おいしいと食べ始めた、

のです、


徳之助が真一朗様は名人で御座いますなあ、さっそく、寄り合いで鯉のおいしい食べ方を話し、川越の名産にしますと話すと、伊織がいや~見聞しましたが、

剣の極意と同じなのには驚きました、私も精一杯学んで美味しい料理を作り、清之進殿へ食べてもらいますというと、そんな事をしたら武蔵殿から剣の道は捨てた、

のかと叱られますよと笑ったのです、


手代が私達も同席をお許しいただき、ありがとうございます、本当に皆様気さくな方で家人一同喜んでいますと、皆が頭を下げたのです、まあ、まあ、堅苦しい、

事は抜きにして大いに飲みましょうと、伊織に酌をすると一口飲みこれは上手い酒ですなあと感心するので、清之進がこれも真一朗殿の工夫なのですよというと、

井戸水で冷やしただけでこんなに美味しくなるのですねとしきりに感心したのです、

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