陽炎の森61   ひと月ばかりぶらぶらと江戸見物をして明日公方様に挨拶して明後日江戸を出立っする事になったのです、夕餉をすませいつもの通り寝酒を飲んでいると、メイが、


陽炎の森61

 

ひと月ばかりぶらぶらと江戸見物をして明日公方様に挨拶して明後日江戸を出立っする事になったのです、夕餉をすませいつもの通り寝酒を飲んでいると、メイが、

もう旅立ちですねとつまらなそうな顔をするので、古河につけばまたひと月ゆっくり出来るよと笑うと、そうでしたまだ沢山お情けがいただけるのですね、明日は、

城を下がったら玄庵先生のもとに行き薬を調合してもらいますと言ったのです、


翌日には公方様に拝謁し北の巡察に出かける挨拶をすると、路銀は勘定奉行にいってある、受け取って行くのだぞ、俊隆があんまり受け取らないので、勘定奉行が、

こまっていたぞ、ちっとは面子を立ててやれというと、俊隆がわかりました仰せの通りにしますと返事し、御座所を下がったのです、俊隆が今日は別れの夕餉をともに、

するぞといったので、


まかない方に色々料理を伝授しておきましたから、私がいなくても美味しい物が召し上がれますよというと、そうか、毎日の夕餉がたのしみだな、それでは夕刻にと、

俊隆は自分の部屋に向かい、笑美姫、メイ、尚、真一朗は城を下がったのです、城を出るとメイが私は日本橋の店に行ってきますというので、笑美姫がそうだな、弟に、

あって来なさいと送りだしたのです、


真一朗が美味しいそばやを見つけたので、最後に江戸のそばを食べにいきましょうと、連れ立って神田のやぶそばに連れて行ったのです、ノレンをくぐりこ上がりに、

上がると、ざるそばを注文したのです、そばがきたので姫様箸をつけて下さいというと、笑美姫が一口つるつると食べると、こしがあって美味しい、尚も早く食べ、

なさいといい、尚もおいしい、おいしいと食べたのです、


食べ終わり、なんか変だなと思ったらメイがいないのですね、いつも一緒だからいないとチョット寂しいですねと笑ったのです、旅から帰ったら真一朗殿とお別れ、

ですね、メイとはもう情はかわしたのですかと聞くので、黙っていると、そうですか交わしたのですね、それは良かった、古河に帰ったら常陸屋には私から話して、

おきましょうとにこにこ笑ったのです、


尚が姫様もそろそろお婿様探しをなされねばなりませんねと言うと、真一朗殿のようなお方がいればいいのですがというので、世の中には私より優れた人は一杯、

いますと、たとえば小倉藩に仕官された、宮本伊織殿などはどうですかというと、笑美がそうですねなかなか好青年でしたといったのです、


帰ろうとした時一人の武士が近づき一別いらいでしたと話しかけるので、見ると宮本伊織である、うわさをすると影とはよく言ったものである、どうして江戸にと、

いうと、小笠原藩に仕官が決まり、江戸勤番になったのですというので、まあこちらにと、こ上がりに招きいれ、折角ですから酒と肴を注文したのです、


笑美殿、玉殿の事ではすっかりお世話になりました、島原を立つ前に名主と尋ねてこられて家に招待されたのです、そこでとても美しい声で歌われた笑美殿の事、

を聞きバテレンの歌との事でびっくりしたんですよと話したのです、


笑美姫があれは真一朗殿に教わったのですよ、でもなかなかいい歌ですねというと、是非今度聞かせてくださいというので、ダメですよ、へたに歌うとバテレン信者、

と間違われますよ答えると、それは残念ですといい、実は島原の騒乱の手柄を立てたという事で、今日公方様にお目通りかかない、挨拶に行ったところ、真一朗殿の、

北への巡察に加わり加勢するように言われたのです、


小笠原公と土井俊隆様に挨拶に行ったところ公方様から聞いておられ、宜しく頼むと申されたのです、みどもが付いていっても宜しゅう御座るかと聞くので、

伊織殿の腕前なら大助かりですよ、そうですよね、笑美姫様というと、構いませぬよろしゅうお願いもうすといい、それではと乾杯したのです、


笑美殿のうでもなかなかの者と公方様から聞いています、笑美殿、真一朗殿一度手合わせお願い申しあげますと伊織がいうと、古河に帰ったら手合わせしましょう、

私はたいした事ないが、真一朗殿には気をつけなされ、どんな手を使うか見当はつきませんと笑美が笑ったのです、


姫様それはチョットひどいではないですかとふくれ顔すると、尚が私などは熱い酒を首筋にかけられたのですよと真面目顔でいうので、伊織がそれはまたなんという、

流儀ですかと真面目に聞くので皆で大笑いしたのです、笑美姫の顔が伊織が加わる事になったので明るくなり真一朗はホットしたのです、


ところで島原では折角討ち取った大将首をとらなかったので細川公や親父殿に叱られたのではないですかと笑美が聞くと、細川公はあの時のなりようを褒めてくださり、

ましたが、親父殿はとどめを刺したのだから剣客としてはリッパだが、仕官するとなるとそうはいかぬ、お家のために首を討ち取らねばならぬぞとしかられましたと言っ、

のです、


笑美があの場合はしかたのない事です、玉殿の事を頼まれれば、玉殿の弟の首を目の前で落とし持っていくわけには行きませぬ、その優しさこそ武士の誉れですよと、

伊織を褒め、ご配慮いたみいりますと笑美の顔をまじまじと伊織が見たのです、


それでは明日出立の刻限に土井様の屋敷までお迎えにいきます、今日はこれでと、連れ立ってそばやを出て屋敷に戻ったのです、帰る途中に伊織殿が加わって、

くだされて良かったですねというと、助っ人などいらないのですが、公方様のいいつけなら仕方ありませんとつれない返事です、尚が真一朗の耳元で本当は嬉しい、

のですよと小声で言ったのです、


部屋に戻るとメイは帰ってきており、随分遅かったようですげど、笑美姫さまと何処に行っていたのですかと不機嫌なので、そばやに立ち寄ったら、宮本伊織殿と、

偶然会って、今度の北への巡察に加勢せよと公方様の命令で一緒に行く事になったのだよ、笑美姫様が伊織殿に好意をもっているらしく、凄く機嫌が良かったよ、

と話すと、そうですかこれで姫様の悋気をかう事がなくなりますね、良かったと機嫌を戻したのです、






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