陽炎の森6 芝居が終わり小屋を出て、稲荷神社の境内を抜けようとした時、一人の浪人が立ち塞がったのです、何か御用かなと聞くと、村上真一朗殿で御座るな、一手立会い、


陽炎の森6


芝居が終わり小屋を出て、稲荷神社の境内を抜けようとした時、一人の浪人が立ち塞がったのです、何か御用かなと聞くと、村上真一朗殿で御座るな、一手立会い、

を所望したいというので、はて、迷惑な事で御座る、なぜおぬしと立ちあわなければならないのだと聞くと、


そちらが立ち会うつもりなくとも、立ち会って頂くと刀を抜いたのです、メイにさがっていなさいといい、太刀筋をみると、正眼に構えたのです、ほう柳生新陰流、

とみたが、新陰流に欠点がある事をご存知かと聞くと、無言である、今にわかりますよと、真一朗は刀を抜き上段に構えた、


一刀流の上段の構えか、いざ行くぞと、ぐる、ぐる、周り間合いを縮めてくる、相手が切りかかろうとした時、足に挟んだ小石を蹴り上げると、相手はよけよう、

として体を横にひねった、そのまま懐へ入り、刀の柄で思い切り相手の刀の鍔を叩くと、刀がポロリと地面に落ちたのです、左手で相手の脇差を引き抜き、

相手を突き飛ばし、刀を鞘に収め、転がった刀を右手に持ったのです、


相手は刀を脇差とも取られ唖然としています、まいった、さあ殺せとそこに座ったのです、勝負はここまででごさると傍により、刀を返したのです、相手は刀を鞘に、

収め、なんと言う術でござるかと聞くので、負けたそなたにただで教えるわけには参らぬ、聞きたければ同道願おうと歩きだしたのです、


メイを連れ歩いていると、どうするのですかと聞くので、酒をおごってもらうのさと、この前の蕎麦屋に行き、さあ、入られよと促したのである、店の主人が、

いらっしゃいませ、こちらにどうぞとこ上がりの席へ案内したのです、席に座るよう促し、そなたのおごりであるぞよろしいなと言うと、


これが負けたバツでござるかと言うので、そうですよと笑うと、木徳な御仁だと相手も笑ったのです、酒を頼むと、へいとすぐ持って来たので、メイ殿お酌をして、

あげなさいと言うと、メイが二人に酌をしたのです、真一朗がトックリをもちメイ殿も一つと酌をして、いざと盃を重ねたのです、


まだ拙者は名乗っていなかったですな、柳生新陰流、木戸一乃助でござると挨拶したのです、新陰流の欠点とはなんですかと聞くので将軍家指南役の流派といえば、

小石を投げるなどという卑怯な戦術はないでありましょう、それが欠点なのです、真剣勝負は型ではなく実践です、戦に卑怯も何もないのではないですか、というと、

なるほど、


あの小石に気を取られた一瞬に懐に潜りこまれ、その動揺で刀を叩き落とされ、脇差も取られるとは、なかなかの腕ですよと、褒めるので、はははは、鳥も懐に、

はいれば猟師もこれを撃たずということわざどおり、懐に入られればどうする事も出来ないのですと笑ったのです、


しかし負けた私がこんなとこで酒を飲んでいていいのでしょうかと聞くので、いいのですよ、貴方の目的は私を殺す事ではなく、土井様が忠長様に味方するのか、

どうかを調べる事なのでしょうと言うと、これは参ったそこまで知っておいて殺さないとはどうゆう訳ですか、


跡継ぎは家光様と決まったのに、家を潰す覚悟で忠長様に本当につく大名がいるわけないでしょう、秀忠公とお江の方様の遠慮からみんな日和見をしているだけ、

ですよ、秀忠公がお亡くなりになれば、自然と収まりますよと真一朗がいうと、ご洞察恐れ入ります、柳生十兵衛様も同じ考えなのですが、但馬の守様は元来の、

猜疑心の持ち主でしてと困った顔をしたのです、


私を襲ったのは、城代家老の屋敷に突然現れたので忠長様の意を汲んだ者と勘違いしたのでしょう、殿様は江戸にいるのです、ここのお家騒動ならともかく、

古河の武士達は何もできませんよ、但馬の守さまのとりこし苦労か、土井家を取り潰すネタでも仕入れ、将軍家にとりいるつもりかもしれませんね、とニヤリと

笑うと、


信一郎さんそんな事を公けに言うと、柳生一門に狙われるとしつこい連中ですよ、気をつけてくださいと言うので、貴方も柳生一門でしょうと笑ったのです、

それをこの座敷の下で聞いていた尚は、まつたく、真一朗という奴は不思議な奴だ、敵と斬りあって、間もないのに、もう見方へつけてしまっている、


笑美様はほおっておくようにとの言いつけであったが、敵に回すと恐ろしい奴だ、早く始末した方がいいのではないか、幕府にでも取り込まれたら、何を考え、

るかわからないし、色んな学問も身に付けているようだし、剣の腕も尋常ではないと思ったのです、


おおちょうしもう二本と頼み、おちょうしが来ると、脇差を抜いたのでメイがなにと喋るのをとめて、畳に穴を開けその穴へ酒を流し込んだのです、尚は上から、

熱い酒が流れてきて首筋に当たったので声を出すところ手で押さえて、素早くその場を離れたのです、


真一朗が尚さんに酒を飲ましてしまったというと、メイがえ~、この下にいたのと聞くので、そうだよ、屋敷を出たときから後をつけていたのさ、脅かして、

ごめん、帰ったらあやまらなくてはと笑うと、木戸が全然気がつかなかったですよ、恐れ入りましたと頭を下げたのです、


木戸氏悪いがこの畳の代金も宜しくと真一朗が言うと、わかりました、今日は徹底的に飲みましょう、親父、お銚子二本に掻き揚げをつまみでと注文し、嬉しそう、

な顔をしたのです、メイはこの憎めないイタズラ小僧みたいな真一朗に惹かれていく自分に戸惑いを感じていたのです、




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