第2話「少女は終わりから立ち上がる」
「どうしよう、
「……落ち着いて、
「大丈夫じゃないわよっ! 私がアリスにあんなことを言ったから、だから……」
「……う、うん」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
リーダー、イブキからチームの解散を告げられて、私は幼馴染みの
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
せっかくプラチナランクの最強プレイヤーが集まったチームだったのに。
みんなにとっても、素晴らしい環境のチームだったのに。
私が悪い、私のせい。
それがわかっているのに、どうしてこんなことになってしまったの? って考えてしまう。
どうして? 私が悪い。こんなことになったの? わたしのせいだから。
もう心がぐちゃぐちゃだった。どうしたらいいのかわからなかった。
気付いたら、私は志織に助けを求めていた。
志織は、突然泣き出した私の背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。きっと事情もなにもわかっていないのに、それでも私が泣き止むまで、ずっとそうしてくれていた。
「……なるほどね。そのアリスって子が音信不通になってしまって、チームも解散になったと」
「うん……」
ようやく落ち着いた私は、志織の部屋のベッドに腰掛けて、これまでの経緯を話した。
志織は向かいにイスを置いて、じっと話を聞いてくれていた。
「客観的に聞いても、彩華が悪いと思うけど」
「うっ……それは、わかってるのよ……」
自分の言葉が、アリスの心を折ってしまった。
どれだけ酷いことを言ったのか、わかっている。
「私の言葉が……アリスを傷付けたのよね」
そう呟くと、志織は驚いた顔を見せた。信じられないものでも見たかのような顔だ。
「な、なによ? 私、おかしなこと言った?」
「ううん……ただ、いつもなら、自分の言葉は軽いからって言うのに」
「……あぁ、うん。そうね」
私の言葉なんて、軽くて誰にも届かない。誰の記憶にも、心にも、残らない。
そう思ってきた。でも……違った。
『アヤカ、君はもっと自分の言葉に重さがあることを、理解した方がいいよ』
前に、イブキにそんなことを言われたことがある。
その時は、羽のように軽いという意味なら理解していると言い返した。
だけど今なら、イブキの言いたかったことがわかる。
私の言葉にだってきちんと重さがあって、相手に届いているんだって。
「軽くなんて、なかった……。私の言葉を、ちゃんと聞いてくれる人はいたのよ」
アリスを傷付けてしまった今だから、わかる――。
「うっ……ぐ……彩華ぁぁっ」
「えっ、し、志織?」
突然、志織が私の手を取って腰を曲げ、額を擦りつけてきた。
いつも冷静な志織が、どうしてしまったんだろう?
驚いてまったく動けずにいると、志織はそのままの姿勢でブツブツと呟き始めた。
「私の……だったのに。…………こんなに………っちゃって。ゆるせない、……役目を………アリス…………許さない……」
「志織……? なんて言ってるの?」
役目? 許さない?
よく聞き取れなかったけど、聞いていて不安になってくる。
ガバッ!
「ああああぁっ!!」
「わっ、な、なによ? 本当にどうしたのよ志織!」
突然身体を起こし、志織が立ち上がる。手を握ったままだったから、私は引っ張り上げられそうになった。
僅かに腰を浮かせて、志織の様子を窺う。
……あ、これ、怒ってる時の目ね。
幼馴染みの私にはわかった。志織は怒っている。
般若みたいな顔になってるからそうじゃなくてもわかるんだろうけど、本気で怒っているとわかるのは私だけだと思う。
普通に怒ることはよくあるけど、ここまで怒るのは珍しいのだ。
「ねぇ、彩華。そのアリスって子は、もうキャストマジシャンズに戻ってこない?」
「え、えっ? アリスは……そうね」
唐突な振りに戸惑うけど、すぐに頭を切り換える。
アリスはおそらく、キャストマジシャンズを引退する。
KAGA東迎町店に来ないのはもちろん、地元の城岡駅前店にも顔を出していなさそうだった。(この間、店の前で張ってみたけど現れなかった)
アリスはアリスで、自分のせいでチームが解散になったと思っているはずだから。
でも……。
「アリスは、戻ってくると思う」
私は、彼女ほど楽しそうにキャスマジをプレイする人を見たことがない。あんなにキャスマジが好きなのに、完全に引退なんてできるはずがない。
「だったら彩華。アリスよりも強い、アリスに勝てるチームを作ろう」
「アリスに……勝つ? どういう意味よ?」
「彩華は許せるの? アリスを」
「私が? ……アリスを?」
許す? 悪いことをしたのは、私の方なのに?
でも何故だろう、志織の言葉に、私はドキッとした。
志織は身を屈めて、私の目を見る。
「アリスは逃げたんでしょう? 一方的に拒否して話をすることもできない。謝らせてもくれない。確かに彩華の言葉が悪かったんだろうけど、アリスの行動だって悪い」
「…………」
「それは彩華が怒っていいところだよ」
「怒って、いい……」
私はアリスと話したかった。会って謝りたかった。
だけどアリスは逃げた。連絡を一切断ち切った。
どうして逃げるのよ。拒絶しないでよ。酷いよ……。
志織に言われた途端、そんな想いが溢れてきた。
「私は謝りたかったのに……それすらもさせてくれないなんて、酷い。話すことができれば、違う結果になったかもしれないのに」
わかる。私の中で、ふつふつと怒りが湧いてくるくるのがわかる。
「私は、逃げたアリスが――許せない」
「そう、そうよ彩華。……アリスは戻ってくる。だから、それまでに強くなって、アリスに勝つ。勝って、謝らせて……それから、謝ればいい」
「……そうね」
怒りはあるけど、謝らなくてはいけないという想いも残っている。
私の心がぐちゃぐちゃだったのは、相反する気持ちがない交ぜになっていたからだ。
それを、志織が明確にしてくれた。
「ありがとう、志織」
「……あ、ありがとう? って、彩華……」
私は志織の手を握り替えし、立ち上がる。
志織はさっきと同じくらい驚いた顔をしていたけど、構わず宣言する。
「私はアリスに勝つわ。強いチームを作る。だから……協力してくれる? 志織」
「……! もちろん、彩華」
それが、チーム『シングルワード』の始まりだった。
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