第26話「あなたの強さを知っていた」


「情報伝達のタイムラグを突く作戦だな。なるほど、アリスにそんな弱点があるとは思わなかった」


「レオ、あんた研究者とか言っておいて全然じゃない」


「ぐっ……むぅ。しかしだな、香子かおるこ。そんな作戦、少なくとも野良では通用しないぞ。よほど意思疎通できなければ無理だし、常に動くなんて、いきなりやれと言われても難しい。各々のプレイスタイルがあるのだからな」


「あ~。それもそうね。ソードやってる人なら基本だけど」


「アリスがチームでプレイしていた期間は短い。メタな構成を組むチームなど出てこなかった」


「それって……逆に言えば、アリスが長く続けていれば、対策をしたチームも出てきてたってことよね」


「チームだけじゃない。個人でも別の方法で対策を考えてくるプレイヤーが出てきただろう。こういうゲームは流行りがあり、それに対するメタが生まれ、廃れ、また新たな流行りが生まれる。環境は変わっていくものだ」


「対策が確立していれば、アリスも叩かれなかった。そう考えると、皮肉な感じね」


「あぁ。だがアリスは戻ってきた。そして、アリスの対策を考えていたアヤカと戦っている。いま目の前で繰り広げられているのは、アリスが辞めなかった場合の環境そのものなんだ。あとは彼らが、その対策を越えることができるのか――いや、どう越えるのかが、楽しみだな」




                  *




「敵――1、2、3は第3エリアに。4はこっちの第2エリアに残ってる。右の方!」

「4はあたしが引き受ける。コータくん、第2エリアから噴水に魔法。1と2に牽制。3が右に寄ると思うから気を付けて」

「了解……!」


 未咲先輩が出した案は、とてもシンプルだった。

 敵に、番号を振って、情報伝達を早くする。


 1はアヤカ。キャストマジシャン。高機動型キャストという珍しいタイプだ。

 短い単語を繋げて呪文にすることで、走ったりステップしながらでも詠唱が途切れにくいように工夫してある。その分、魔法の威力が落ちてしまうようだが、先程ユイコを倒した時のように、短射程高火力な魔法も持っている。


 2は噴霧系魔法のロッドマジシャン。背の高い男で、クノーと呼ばれていた。

 霧は触れると微量ダメージ、詠唱も阻止できる。おまけに視界が少し妨害される。

 出が遅め、射程もそれほど長くないが、横に広い。

 チナの話では、噴霧系はロッドに込められる弾数が少ないらしく、効果や範囲からおそらく二発だろうとのこと。


 3は射撃系魔法のロッドマジシャン。髪の長い、メガネの女の子。シオリと呼ばれていた。

 石を飛ばしてくる魔法で、威力はロッドにしては高め。その分、弾速はやや遅め。それを機動力でカバーしている印象だ。

 これもチナの話で、おそらく弾数は五発。当り続けると普通にやられる威力があるから、気を付けた方がいい。


 4はソードマジシャン。背の低い男の子。ハマケンと呼ばれていた。

 とにかく相手を倒そうとがっついてくる。動きが速い。

 ソード魔法、特有の身体能力補助効果は、移動速度アップ。それと剣の振りも速くなっているかもしれない。そのせいで効果時間が短くなっているのでは、というのがチナの見解だった。


 ユイコはこの割り振った番号と位置を言うだけ。

 これだけで情報伝達はかなり楽に、速くなるが、まだ厳しいだろう。


 実はユイコの弱点はあった。

 居場所がわかっても、その先の動きを読むのが苦手なのだ。

 そこにいるのはわかる。でもどういう意図でそこにいて、そのあとどう動くつもりなのかがわからない。アヤカもそれをわかっていて、こういう作戦に出ているのかもしれない。


 だから、ユイコの仕事は敵の位置を知らせるまで。そこから先は――。



「爆炎を呼べ! 焦熱を撒き、炎獄の世界を! 魔力よ爆ぜろ、レッド・エクスプロージョン!!」


 俺は指示通り、第2エリアの建物の陰から噴水めがけて魔法を撃つ。


 ドゴォォォォッ!


 魔法は噴水に当り大爆発、噴水が破壊され辺りに水が流れ出した。

 後ろにいた1と2、アヤカとクノーが爆発から逃れるために左に跳ぶ。


「夜を照らす白き月。清らかな光の力、ここに集わん。ライト・ブラスター!」


 ユイコが飛び出し、逃げた先に光の球を飛ばした。

 アヤカたちの近くで光が炸裂し、二人にダメージが入る。

 しかしそこに、


「そこです」


 ――ドンッ!

 ワンテンポ遅れて、ユイコがロッドの魔法を一発喰らう。


「ぐぅ……いたた」


 右にいた3番、シオリだ。彼女は当てるとすぐに後ろに下がってしまう。


 残るはソードマジシャン。ミサキ先輩の方にいるはずだが……。


「なんかやばそうだけど、オレの仕事はお前を止めること!」

「あたしはあんたを倒すことだけどね」

「オ、オレだってそうだ!」


 ハマケンは第2エリアでミサキ先輩と交戦中。

 ここまでは、最初の指示通り。次は……。


「1、2は左に、3は右端!」


 敵が動き、ユイコが位置を知らせてくれる。それを聞いてミサキ先輩が、


「3はこっちの援護に来ると思う。ユイコちゃん止めに来て。それから1、アヤカが突っ込んでくるよ。チナちゃんがんば」

「わ、わかりました」


 新たな指示を出し、俺たちはそれに従って動き出す。


 ミサキ先輩が出した案は、

 ユイコから位置を聞き、指示を出すのはミサキ先輩の役目になった。


「んー……? なんだお前? 俺たちの作戦聞こえてた?」

「さあね?」


 ハマケンのその一言が、ミサキ先輩の案が上手くいっていることの証明だ。



『あたし、相手の居場所がわかれば、



 学校で部活の助っ人マスターなんて呼ばれているミサキ先輩は、数々のスポーツを経験している。中にはもちろん、野球やサッカー、バレーボールなどの対戦競技も多い。最近は剣道部にもよく顔を出しているとか。

 その経験から、相手の動きを読むことに長けている。勝つために、相手がなにを考えているか? どう攻めてくるのか? ミサキ先輩にはわかるという。



『もちろん、ユイコちゃんみたいに100%じゃないよ。でも、相手の動きを読むのは得意だから。指示はあたしに任せて』



 思い返せば、今までのバトルもいざという時はミサキ先輩が指示を出してくれていた。

 だから俺たちは、すんなりその案を受け入れられた。


 向こうがユイコの対策をしてくるのなら、こっちだってその対策をする。

 対策の対策だ。


 ユイコが敵の位置を把握し、ミサキ先輩が敵の動きを予測する。そして敵の使う魔法は、呪文をたくさん知っているチナが分析してくれる。

 それが、このチームの強さなのかもしれない。


 ……俺は? もちろん、だ。



「シオリさーん! こっち危ないよ!」

「わかってる。ハマケン、ごめん」

「あ、これ見捨てられちゃう?」

「自分でなんとかしてって意味」


 シオリが第3エリアの右端を駆け、縦断しようとする。そして第2エリアに入る直前、


「貫け閃光、棘となれ。ソーン・オブ・ライト!」

「……っ!!」


 ユイコが立ちはだかり、魔法の撃ち合いになる。

 光の棘はシオリに当たったが、シオリが撃った三発の石礫も一発当たってしまう。


「大地に眠る、神々の力。硬き岩、強き岩、鋭き岩。掘り起こし、積み上げよ。シュート・オブ・ハードロック」

「光よ、天より訪れし神の使者よ、罪深き彼の者を裁け。ライト・シーカー!」


 シオリが魔法を込め直す隙にユイコが詠唱。魔法が発動と同時にシオリも魔法を連打、五発の石礫が飛んでくる。お互いの魔法が飛び交い――


「弾速は遅いけど、結構デカイから避けにくいわね……!」

「……くっ……まだ、私はやられてない」


 ユイコはまた石礫を一発くらってしまった。

 ユイコの魔法も当たったのだが、相手の石礫にぶつかり威力が落ちた状態だったため、ギリギリ倒しきることができなかった。


「アリス。あなたがアヤカにしたこと、

「えっ……?」


 ダメージを負ったシオリは、そう言い捨てると後ろに下がっていく。

 ユイコも深追いはしない。同じくかなりダメージを負っていた。素直に建物の陰に入り、機を窺う。



「冷気よ! 空よ!」


 中央付近ではミサキ先輩の予測通り、アヤカがこっちに突っ込んできていた。

 その後ろには2番、ロッドのクノーが追走している。


 ユイコは後ろに下がり、ミサキ先輩も交戦中。俺とチナで迎え撃つしかない。

 ここを抜けられて第2エリアに入られるわけにはいかないのだ。


 後方からミサキ先輩の声が響く。


「チナちゃん! !」

「……ミサキさん! はい! コータ先輩、使わせてもらいますね」


「ミサキ先輩、チナ……。あぁ! 頼む!」



 チナが僅かに後ろに下がり、杖を掲げる。



「古の霊木は万物の象徴、緑の力。永遠を刻む十の星は我が意のままに」


 ズオッ……。

 見えない力の波動が、チナを中心に広がる。

 足下に黒い輪が現れ、緑色の光が立ちのぼった。


 アヤカは詠唱を続けて近付こうとするが、


「礫よ! 氷塊! ……なに?」


 なにかを感じたのか、横に跳び距離を開ける。


 光の中、チナのロッドの形状が変わっていく。あの時と同じ、柄に樹の輪が生え、根が杖を這う。杖の周りに深い緑色の光が十、飛び回る。


「魔王の宝杖! ロッドオブエメラルドスター!」



 ゴォッ!


 黒い輪が収縮し、周囲に力を撒散らす。十の星を従えた、魔王の宝杖が姿を現わした。

 チナはその杖を愛おしげに抱くと、眼前の敵に目を向け、戦う女王の顔になる。



流転るてんの原動、青き力! 無限に湧き出す魔力を呑み込み、黒き力の刃となれ!」


 後方、第2エリアからもミサキ先輩の声が聞こえる。


 手にした剣が、黒いオーラに包まれた。その中に、煌めく青い刀身が見え隠れする。

 黒き力と、青き力が交わっていく。


「魔王の水刃、ブルーオースブラッドブレイド!」


 ドンッ――!!


 ミサキ先輩を中心に衝撃波が起き、大気を震わせた。

 剣の形状が変わり、波打つ黒い鍔に蒼い両刃の剣。刀身に埋め込まれた漆黒の宝石が黒いオーラを吐き出している。

 先輩は胸の前で剣を持ち、目を瞑り――開いた時には、歴戦の剣士の顔になっていた。



「うわっ、カッコイイナ! ……え? ……は? ちょっと待った、なんだこれ!」

「もうちょっと静かにやられて欲しいんだけど」


 魔王の水刃を発動してすぐだった。あっさりと、ミサキ先輩がハマケンを倒した。



「アヤカちゃん、なんかやばそうだよ? 霧張っておく?」

「まだよ。どっちにしろロッドの魔法なんだから。この距離なら避けられるわ」


 それでも異様さを感じたのだろう。アヤカは詠唱と止め、回避に専念しようとしている。

 ならば、見せてやれ。魔王の魔法を!


 チナはアヤカの方を向き、ブンッと杖を振る。


 ビィィン!


「なっ……速い!」


 小さな深緑の光弾が、アヤカの脇腹に突き刺さった。

 杖を振るのと同時に見えるくらい速い。レーザービームのようだった。


 チナはさらに杖を振る。


「ま、まずいよ。一旦下がろう」


 ロッドマジシャンが霧を張る。三発撃った光弾は、一発はアヤカに、もう一発はロッドに、最後の一発は霧に阻まれた。

 後ろに逃げるつもりか? なら俺が追撃を――



「冷気よ! 空よ! 礫よ!」



 ――声が響き、霧の中からアヤカが飛び出してきた。


「そんなっ……! 無駄です!」


 チナが三発光弾を飛ばす。

 が――アヤカはかわす。最後の三発目がようやく足に当たった。


「マジかよ! 詠唱阻止できたけど、あれを二発避けたぞ!?」

「氷刃! 刻め!」


 しかも別の詠唱を開始し、距離を詰めようとしてくる。

 さらにチナが二発撃つ。アヤカは身を屈め、転がってそれを避けてしまう。


 見ると、ロッドの周りに浮かんでいた十の光が、もうあと一つしかない。

 あれは残弾を現わしてるはずだ。


 ――まずい、止めきれないか?


「閃光! 居合い! 一閃!」

「弾けろ炎、爆ぜよ焔! 噴煙を上げろ!」


 俺が詠唱阻止を狙っても、それこそ避けられておしまいだ。ならば。



「アイスブレイド!」

「ヴォルカニック・ボール! チナ、下がれ!!」



 前に出て、足下に魔法を打ち付けるのと、アヤカが腕を振り切るのは同時だった。

 俺は胴を切り裂かれ、一拍遅れて足下に白煙が立ちこめる。


「コータ先輩……! すみませんっ!」


 チナは白煙の中に最後の一発を撃ち込んでから、第2エリアまで下がっていく。

 俺はやられたが、チナを逃がす時間は稼げた。


「なにかと思えば、ただの速い弾じゃない。あれなら、正面からだったら避けられるわ」

「…………!!」

「そんなのアヤカちゃんだけだよ」


 やられている間は、声を聞くことはできても声を出すことができない。

 反論したかったが、それすらもできないのだ。



「コータくんの、カタキ!」


 煙が晴れ、第2エリアから飛び出してきたミサキ先輩がアヤカに斬りかかる。しかしこれもアヤカは軽々避ける。そして腕を伸ばし、


「氷の礫、突き刺され――!?」


 バチッ!


 呪文を唱えようとして、にぶつかった。

 縦一文字に、黒と青のオーラ。ミサキ先輩が剣を振るった場所だ。


「なによこれ」

「まだまだっ!」


 ミサキ先輩が剣を振れば振るほど、場にオーラが増えていく。時間が経つと消えていくが、それでも空間に残り続けるのは邪魔なはず。


「ふぅん。ちょっと面倒だけど、それだけ?」


 アヤカが後ろに跳び、距離を取る。


「あなたの剣、さっきの方が動きを捉えにくくて厄介だったわ。剣のオーラが場に残る能力が付いてるみたいだけど、前の能力を無くしてまで使う力とは思えない」

「…………」

「詠唱を聞いた時は、嫌な予感がして様子を見たけど……。とんだ虚仮威こけおどしね」

「…………っ!」


 ミサキ先輩は黙ってアヤカに剣を向ける。

 向こうは二人、飛び込むのは得策ではない。

 しかしこのままでは……。


「冷気よ! 空よ! 礫よ! 氷塊!」

「ミサキ先輩、下がりましょう! ――まばゆき光は聖なる灯火ともしび、彼の者たちを打ち払え!」


 ユイコが第2エリアから飛び出し、ミサキ先輩の隣に並ぶ。

 呪文を唱えるが――アヤカの魔法はもう止められない。


「貫け! 降り注げ! アイスダスト!」

「ライトニングボール!」


 アヤカの頭上に無数の雹が浮かぶ。対して、ユイコの頭上には光の粒が泡のようにいくつも分裂していく。

 雹と光の粒が撃ち出され――相殺。その隙に、ミサキ先輩が第2エリアに駆け込む。


「――って、ユイコちゃん?」


 てっきり一緒に下がるものだと思ったが、ユイコはその場に残り、アヤカと対峙する。


「勝負よ、アヤカ」

「……そう来なくちゃ。クノー、手出ししないで」

「しょうがないね」


 第3エリア、壊れた噴水を挟んで、ユイコとアヤカが睨み合う。

 一騎打ち。

 本来ならチームバトル、それも公式の大会ですることではないのかもしれない。

 だけど――この決勝戦という舞台で、二人の一騎打ちを誰もがどこかで期待していた。



「冷気よ! 空よ!」

「貫け閃光、棘となれ。ソーン・オブ・ライト!」


 ユイコが光の棘で牽制。難なく避け、距離を詰めようとするアヤカ。


「礫よ! 氷塊! 貫け!」

「夜を照らす白き月!」

「降り注げ!」

「――ムーンスラッシュ!」

「アイス――くっ!!」


 ユイコの手から伸びる光の筋。

 近付いてきたアヤカの肩を掠り――詠唱が止まる。


「眩き光は聖なる灯火、彼の者たちを打ち払え」

「氷の礫、突き刺され。アイスニードル!」


 ユイコの詠唱に、咄嗟にアヤカが短い呪文を唱える。

 が、ユイコはそれを避けた。


「輝きは勝利と共に! 穿つ閃光の槍となれ!」

「なっ……詠唱をっ!」

「ライトニング・フラッシュスピア!」


 ズガガガガガガガッ!!

 ユイコの前に4本の光の槍が現れ、アヤカに向けて突きを連打する。

 アヤカは体を反らして回避するが、さすがにすべては避けきれない。


「ぐぅぅ……! やるわね!」

「倒しきれなかった!?」


 アヤカが距離を取る。落ちてもおかしくないダメージを与えたと思ったが、ギリギリ足りなかったようだ。



 すごい……。

 最初、ユイコはライト・ブラスターを唱えるつもりだと思った。しかし途中で呪文を切り、ムーンスラッシュにして魔法を撃ち出した。

 その後はライトニングボールだ。アヤカに隙が出来たため、詠唱を長くし、より強力なライトニング・フラッシュスピアに切り替えた。

 この柔軟な魔法の切り替えが、キャストマジシャンの強み。ユイコはそれを最大限生かしていた。

 敵の居場所がわかる。ホーリーランスが強い。アリスが強かったのは、それだけじゃなかったんだ。ユイコは、呪文を操るのに長けている。


(さすがは我が弟子だ)


 師匠呼びはやめろ、みたいなこと言ってたくせに……魔王。



「我が手に集え、光の精!」


 ユイコが詠唱を始める。

 その呪文は――。


「させない! ――氷刃! 刻め! 剣閃! 貫け!」

「誘え果てに、掴む閃光!」


 俺の呪文のアレンジ!



「閃光! 居合い! 一閃! アイスブレイド!」


 腕を振り抜くアヤカ。魔法と共に繰り出された手刀がユイコに襲いかかる。

 ユイコはそれを倒れ込んでかわす。真下から腕を伸ばし――


「魔を撃ち抜け、ライトニングレーザー!」


 ――撃ち出された光の魔法に、アヤカの身体が貫かれた。



「……鈍ってないわね、アリス」

「ううん、ようやく感覚を思い出せたのよ。アヤカ」


 ユイコに覆い被さるように、アヤカが倒れ込む。その姿はすぐに掻き消えてしまった。


「……わたしだって、あなたの動きをよく知ってるんだから。トレーニングモードに何回付き合わされたと思ってるのよ」


 アヤカが、アリスのことをよく知り、対策できるように。

 ユイコも、アヤカのことをよく知っている。だから勝つことができたんだ。



 決着が付くとほぼ同時に、ゴーレムが第3エリアに入る。

 ラウンド3、俺は復帰し、急いで第3エリアに向かって駆け出す。

 しかし……。


「ユイコちゃん起きて!」

「え? あ……!」


「ど、どうした?」


 俺は第2エリアの二人と合流し、なにが起きたのか状況を確認する。


「ユイコちゃんがやられた! 敵のロッドに!」


 ……アヤカを倒して、一瞬気が緩んだところを狙われたか。

 一騎打ちは決着がついたが、勝負はまだ終わっていない。



『言ったでしょう? アリス。私はあなたを許さないって。勝つのは私たちよ』



 シオリはそう言い残して、クノーと一緒にゴーレムの後ろに下がっていったそうだ。


「どうやら、ずっと狙っていたようです」

「狙っていた?」

「はい。ラウンド3に入ってすぐに、ユイコさんを倒せるように。計算していたようです。アヤカさんと一騎打ちを始めたのは、計算外だったと思いますが」


 そうだ、ユイコはロッドの攻撃を……確か三発くらっている。あと一発で倒せるようにしておいたんだ。ラウンド3開始直後に倒せば、復帰に時間がかかる。


「向こうのアヤカさんと、ソードの……ハマケンさん、ですか。お二人はラウンド2にやられたので」

「向こうはもう四人揃ってるけど、こっちはユイコ待ちになるのか!」

「なかなかクセ者だったね、あのシオリちゃんって子。まずはユイコちゃんが戻るまで、ゴーレムの守りに徹しないとね」

「そうっすね。行きましょう!」


 一騎打ちはユイコが制したけど、ゴーレムのダメージ的にこっちが負けているし、いきなり人数不利を強いられている。ここはなんとか凌いで、チャンスを待つしかない。



「ねぇチナちゃん。ただの速い弾って言われて、どう思った?」

「なんと言えばいいんでしょうか。胸がすごくざわつきました」

「イラっとしたって言うんだよ、それ」

「……そうですね。ミサキさんはどうでした?」

「あたしだって、コケオドシって言われたのはムカッとした」

「それなら……ここで、見返してやりましょう」

「うん。上手く、油断してくれたみたいだからね」


「……二人とも? いったい、なんの話を……」


 チナとミサキ先輩は俺の方を向いて、ロッドと剣を重ね合わせる。


「コータ先輩。私たちが授かった魔法は、あんなものではありません」

を発揮するのは、

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