第9話「魔王の記憶が叫んでいた」
「くっそ……このソードっ!」
ラウンド2でもソードマジシャンに斬られ、俺はつい叫んでしまった。
素早い身のこなしに、青髪のポニーテールが追いかけるように軌跡を描く。
昨日は見る余裕がなかったが、格好は軽装、膝上まである水色のチュニックにベルトを締め、下は真っ白なレギンス。口元を青いショートマフラーで隠し、仮面は黒、目元から頭頂部辺りまでを覆うヘルメットを半分に割ったようなタイプだ。
「剣に流れし龍神の力、刃は流水、剣閃は瀑布の如く。疾れ水の太刀、ブルーエレメント・ソード」
呪文を詠唱すると、剣――反りのない片刃の剣。直刀――が水で覆われ青い光を纏う。
しなやかな剣の振り、無駄の無い身のこなし、揺れ動くポニーテール。三つが繋がり一つの流水となる。
やられたのは悔しいが、カッコ良いと思ってしまう。それが余計に悔しくてたまらない。
タイプは違うが、俺だってあんな風に相手を倒したい。
それができないのが悔しい。それができているあいつに嫉妬する。
負けたくない、今日は……勝ちたい!
そして迎える、ラウンド3――。
「原初の炎よ、退けろ! ファイヤーウィップ!」
第3エリアに入る直前に詠唱し、飛び出すと同時に魔法を発動。
案の定、例のソードマジシャンが待ち構えていた。
鞭のようにしなる炎が飛びかかるが――
「あ、当たらないっ……!」
待ち伏せにカウンター気味に魔法を撃ったのに避けられてしまう。詠唱でバレてしまうのがキャストの辛いところだ。
いや、それでもこの至近距離を外すのは、自分の腕のせいだ。
ファイヤーウィップを避けたソードがぐっと屈み、飛びかかる。
やられる――
ドンッ、ドンッ!!
「っ……!」
横から緑色の光弾が2発、相手のソードに直撃した。
「コータ先輩、大丈夫ですか!」
「チナ! 助かった!」
ソードマジシャンは不利と判断したのか、素早く後方に下がってしまう。ロッドの攻撃力では倒しきれなかった。
「影よ、深遠より訪れし闇よ、罪深き彼の者を追え。シャドウ・ストーカー」
ユイコが追撃の魔法を唱える。伸ばした腕からできた影が、地を這ってソードマジシャンを追いかけていく。
「よし、追い詰めよう!」
「待って、コータ! 深追いはダメよ」
「でも、ここで倒しておかないと!」
「倒せないでしょう? あのソード……相当強いわ。今の状況じゃ倒せない」
「くっ……!」
わかってる。俺が追いかけたところで、カウンターでやられるだけだ。
本当なら、距離が取れた今こそがチャンス。対ソードは近寄られる前に倒さなければならない。だけどあのソードは素早い身のこなしで魔法をかわし、一気に距離を詰めてくる。対策を立てずに突っ込んでも意味が無い。
「大丈夫、さすがに警戒して第2エリアの森の中まで逃げたみたい。さあ、今のうちに残りの敵を倒しちゃいましょう」
「……了解!」
ユイコは冷静だな。俺たちと話しながらも、きちんと相手の動きを追っていたのか。
そういえばユイコはいつの間にか服装を変えていた。全身を隠す真っ黒なローブ。フードを目深に被り、仮面をしているのにさらに顔を隠してしまっている。唱えた魔法も闇属性だったし、まるで悪役の魔法使いみたいだ。
「なんでそんな格好にしたんだ? ユイコ」
「い、今はバトル中でしょ! 集中しなさいよっ」
確かに、今聞くことではないか。
幸いというか、相手はソードマジシャン以外大したことなかった。もちろん俺よりは強いんだろうが……。
ロッドが2人、キャストが1人。早々にロッド2人を倒し、残るキャストも――
「今です、ユイコさん!」
「ナイス、チナちゃん。夜を照らす赤き月。猛りし闇の力、ここに集わん。ダーク・ブラスター」
チナがロッドで相手の動きを止めて、ユイコがトドメをさす。今のところ、このパターンでほとんどの敵を倒している。
……つまり、俺の出番がほとんど無い。
ちなみにマッチングしたもう一人の味方は、例のソードマジシャンにやられて復帰待ちだ。ソードの相手をしてくれていたおかげで残りを倒すことができたから、感謝している。
残るはそのソードマジシャンのみ。最初に倒したロッドが復帰した頃だが、まだ第1エリアだろう。今が、チャンス――。
「天上より舞い降りし戦いの女神よ!」
どこからか、詠唱が聞こえる。
「例のソードマジシャンよ! 場所は、敵ゴーレムの前ね!」
「おい、この詠唱って……まさか!」
「はい! ホーリーランスです!」
ドクン――
(ホーリーランス――)
心臓が大きく鳴り、同時に稲妻のような頭痛が走る。
堪えきれず蹲ると、頭の中から声が聞こえ出す。
(唱えろ、詠唱しろ、魔法を使え。私の魔法をぶつけよ!)
なん、だよ、急に……!
視界が黒くなり、赤くなる。これは、あの時と同じ――。
(詠唱しろ! 彼の魔法――ホーリーランスに、私の魔法をぶつけよ!)
「うっ……ああぁぁぁ!!」
「ちょっと、コータ?! どうし……」
近寄ろうとするユイコを手で制止、俺は立ち上がる。
前方に、ソードマジシャンの姿は見えない。だが、
「聖なる光、正義の力! 輝きと勝利はこの腕に!」
聞こえてくる、ホーリーランスの詠唱……。
俺は右手を天に突き上げ、頭の中で破裂しそうな呪文を吐き出した。
「溢れよ魔力、黒き力! すべてを呑み込む、青き力! 交じり、繋がれ、円環より吐き出せ混沌の黒き水! 原初の黒柱を大地に打ち、
一瞬にして空は真っ暗になり、黒雲が渦を巻き雨を降らせる。
そして、
――ドスン!!
巨大な黒い柱が落ち、大地を震わせた。
ドスン、ドスン、ドスン……ドドドドドンッ!!
二本、三本……続けざまに何本も。黒柱は雨の如く大量に降り注いでいく。
「出現せよ、魔王の障壁! グレイテストカオスウォール!」
やがて――黒い柱は、黒い壁となる。エリアを縦断する、長く巨大な壁に。
「なっ、なんだ、これ……」
ホーリーランスを詠唱していたソードマジシャンが、呻くように呟く。
躊躇う声に、俺は叫んだ。
「なにをしている! 撃ってこい、ホーリーランス!」
「……! い、いでよ光の神槍! 裁きの時は来た! 彼の巨人を貫き砕け!!」
現れる、眩い光の槍。
「ホーリーランス!!」
「来たなっ! 喰らえ、へし折れ! 魔王の障壁よ!」
壁が生き物のように動き、放たれた光の槍を包み込む。それでも尚、槍は突き進もうとするが、徐々に勢いが削がれていき――。
ベキリッ!!
フィールド全体に響く――折れる音。
同時に黒い壁の動きが止まり、ゆっくりと霧散していく。
そこには、なにも残らない。光の槍は、消えてしまっていた。
「防がれた……ホーリーランスが……」
呆然と呟く、相手のソードマジシャン。
それ以外、誰も声を出せない。そんな中――
――ゴーレムが中央に到着! ゴーレムアタックに入ります!――
判定の結果、俺たちの勝利だった。
勝つには、勝てたが……。
「な、なんだよ、今の……」
ゲーム終了し、ブースの中で、俺は相手のソードマジシャンと同じことを呟いていた。
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