15

 不死の身体、いくら傷を負おうと瞬時に再生し、いくら死んでも瞬時に生き返る、まさに神に匹敵する能力、その正体はギフトでありアルスもそんなことは理解していた。


 「つまり妹は一度殺されて生き返ったということか?」


 「ああたぶん、顔に付いた血の飛び散り方からして首を刺されたんだろう」


 アルスは納得する、リインが後ろから声を掛けた時に見て取れた男の動揺も、声を掛けられたことに動揺したのではなく殺したはずの相手が生き返っていたことに動揺していた。

 ということは犯人の男はリインを不死身だと知らずに襲ったのだ、あの男は何者かに依頼されて動いていたのだろうか。

 どちらにしても今だけの情報量では予想することもままならない。


 クラウスは悲痛に顔を歪めて説明を続ける。


 「妹は不死だが刺されれば痛みを感じるしその時の記憶も残る、今までも多くの奴らに狙われた、ほとんどが妹を実験体にしようと誘拐して連れ去りだったけど、そのせいで両親もぼくたち兄妹を置いてどこかへ行ってしまった、きっとこれからも狙われ続けるだろうそんなのぼくには耐えられない」


 手を叩きつけると机がガタンと揺れる、アルスも死にかけたことはあれど死んだことは無い、死を味わうなんて恐ろしくて想像するだけでもはばかられる。


 これでクラウスが頼もうとしていることがアルスには理解できた。


 「つまり、ぼくに妹を狙う奴を追い返せということか」


 「ぼく自身妹にずっと付いていたいのは山々なんだが、兵士である上に新設された”ガーディアン”という組織に所属することになってしまってさらに妹に割ける時間が限られてしまう、そこでできる限りで良い自宅の周囲を守ってほしい」


 できる限りというのはアルスが学生であることを考えて、自由な時間帯を選択できるようにするための発言だろう。

 

 「でもぼくは今日の男一人だけでも倒すことができなかった、もしも複数人で来られたら対応しきれない本当にぼくで良いのか?」


 正直言って、今日のような男が数人で襲撃してきたらアルスは妹を守るどころか自身の命すら危うい。


 「そのことなんだけどあの男ぼくが入隊したての頃に失踪して行方知れずになっていた当時階級が中佐の軍内で名の知れた男だ、何故今現れたのかは不明だがそんな彼に拮抗して戦えていたアルスだからこそ頼んでいるんだ」


 アルスは悩む、学生としてまた一から頑張ろうとしている時にこの依頼、別に話を蹴ってしまっても良い、しかしこんな真摯に妹の事、身内の事を腹を割って話してくれているクラウスを目の前にして断ってしまうのはしのびない。

 


 その時、アルスの脳裏に親友の言葉がよぎる。


 

 『この剣を私の代わりに振るって』



 グラムの頭に触れると、アルスの脳裏にまたも断片的な親友の言葉が流れる。



 『この剣は悪のためにも正義のためにも振るうわけじゃない、迷うくらいなら自分の意思で振るう』



 あの時は全然アイツには似合わないと言葉だと思ったのに、今思えばアイツらしい言葉だと思う。

 

 迷うくらいならその言葉がアルスの返す言葉は決まさせた。


 「分かった、その依頼を受けよう」



 アルスとクラウスはここから長い付き合いになっていくことになる。



 この先互いの意志がたがうことになったとしても……



 しかしそうなることを彼らは知る由もない。

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