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 入った店の名はビアンカというらしい、店内は完全個室になっており外の喧騒と隔離された世界で高級店のようである。

 室内は二人で使うには広く、インテリアが凝っており絵画が何点か壁に掛けられている、小さな美術展にでも来ているようだ。

 真ん中には大きめのテーブルと椅子が二つテーブルを挟んで対面するような形で置かれていた。


 「座ってもらって構わないよ」


 アルスはぎこちなく椅子に座る、正直緊張していた、飲みながら話そうなどと軽く言われたからてっきり居酒屋かどこかでワイワイしながら話すのかと思えば、まさか高級店に連れてこられるとは思っていなかった、兵士なのだから羽振りは良いのだろうけれど、いざ入ると格式張った空間に息苦しさすら感じてしまう。


 「こういう店は初めてみたいだから、ぼくのおすすめで注文しておくね」


 クラウスが気を使ってスムーズに話を進めてくれたおかげで注文も無事終わり、料理が運び込まれるのを待つのみだ。


 「料理が来るまでしばらくかかるだろうからその間に話を済ませようか」


 クラウスは上着の内ポケットから一枚の紙のようなものをを取りだすと、アルスへ見てほしいと手渡した。


 アルスが受け取ったものは写真だった、そこには白ワンピースを着た一人の少女が満面の笑みを浮かべてこちらを向いて写っている。

 その少女にアルスは見覚えがあった、身長は小さく幼い頃の写真ではあるがさっき会ったばかりで忘れるはずもない、しかもその少女の兄が目の前にいる。

 

 「えっと、これはクラウスの妹では?」


 クラウスはアルスよりも年上である、ゆえに自然とアルスは敬語になってしまう、しかし警察署へ向かっている最中の会話でこれから長い付き合いなるだろうという理由でお互いに敬語は無しということになっている。

 

 「そう、ぼくの妹だ」


 どう反応していいのかアルスは戸惑った、クラウスはいたって真面目な面持ちである、つまり彼にとって何か重要なことを示しているのだろう、しかしいくら写真を見てもクラウスの妹であるリインが写り込んでいるだけで、何を伝えたいのかまったく汲み取ることができずにいた。


 写真を見て困り果てているアルスを見て、クラウスは遅まきに言葉を紡いだ。


 「その写真に写るリインに不可解な点があるとは思わないか?」


 アルスはその言葉にさらに首を傾げた。

 

 

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