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 学長室の中はイメージとたがわずシック調のレトロな雰囲気を醸している、特に目立つのは入口から見て左右に置かれた本棚で、そこに並べたてられた本は時代を感じさせる古書ばかりだ。


 その学長室の主とでも呼ぶべき学長は今椅子に座っている。

 学長は鮮緑色の髪を後頭に一つ団子にまとめて櫛で留めていて、顔は老齢に見えるが洗練されている。翡翠色の瞳は何もかもを見透かすように澄み切っていた。

 そんな学長からは厳格さは感じられない、それは笑顔と人間の倍ぐらい長くツンと尖った耳がピクピクと楽し気に揺れているからだ。


 「はじめまして今日からお世話になるアルスです。師匠のハールと旧友だそうで今回は私のようなものを受け入れていただきありがとうございます」


 「よろしくね、私はこの学園の学長をしているルーシア・カリヴァンと言います」


 そう笑みを浮かべのんびりした口調で呟く。

 ルーシアの第一印象は真面目で普通そうだとアルスは思った。耳以外は、、、


 「ハールが育てた子っていうものだからすごく変わった子だと思っていたけど、案外まともそうな子ね」


 笑顔で案外失礼なことを言うものだ。

 アルスはキョトンとしながらも褒めてもらったと解釈し、どうもとだけ返事をした。


 「エルフと会うのは初めてかしら?」


 ルーシアは耳を指さして首をかしげる。

 

 「いえ、二年前に一緒にいた仲間がエルフ族でした」


 エルフ族とは長耳であるのが一つの特徴だ。ほかにも長命であることも良く知られていて、一万年生きるエルフ族もいる。


 またエルフ族の中でも二種族に分かれており、ルーシアのような薄橙色の肌をもったエルフを光の妖精エルフと呼ばれていて別称はとも言われている。

 もう一種族はダークエルフ、その名の通り肌の色が褐色以上に黒いことからそう呼ばれている。光の妖精エルフとは逆に未だに災いの象徴とされて迫害の対象となることがある。

 

 アルスの仲間のエルフはダークエルフだ。今は何をしているのかは分からない、アルスは過去の思い出したくないことを掘り起こされ気分が沈み込んでいった。


 「まあそう硬くならないで、アルス君をここへ招いたのは自己紹介のためだけじゃなくてアルス君のことについて話すために呼んだんだから、あとハールのことも」


 「ハールのことですか?」


 ルーシアは首を縦に振って肯定する。自身のことを話すのは分かっていたアルスだがハールのことについて何を聞きたいのだろうか。


 「ハールったらあなたを預けるって手紙を寄こしただけで顔一つ見せないの」


 柔らかい口調のルーシアもこの時だけは不服そうに口を尖らせた。それでもアルスからは不思議とルーシアは本当に怒っているように見えなかった。

 

 「すみません」


 ここは正直に謝っておいた方が良いとアルスは平謝りをした、ハールは適当な性格ではあったがまさか旧友にまで被害者がいるとは思っていなかったのだ。


 「別にアルス君を責めているわけじゃないから気にしないでね、それでハールは今どうしているかしら?」


 気にしないでと言いながらも、ハールの部分だけ無意識にか少し語気が強くなっている。

 ハールとルーシアがどういった関係なのかアルス自身詳しく知っていない、しかし少し怒っているように見えるのは単純にハールのことを心配しているのだろう。


 「どうしているかは私には分かりませんが会った時には元気にしていました」


 「それは良かったわ、昔からハールは無茶なことをする人でしたからそれを聞いて一安心しましたよ」

 

 アルスは愕然としていた。顔も見せずに手紙を寄こしただけで勝手にアルスを入学させようとした男だ、にも関わらずルーシアはハールの事を怒るどころか気にかけている。

 ハールの友人だと聞いていたから変わり者なのかとアルスは思っていたが神様のように優しい人だ。


 「それじゃあ、ハールの話は終わりにして本題のアルス君のことについて話しましょう」


「はい」


 アルスは何のことについて話すのかまるで分かっていないが、とにかく本題に入るようだ。

 ルーシアもなぜか真剣な眼差しになりアルスの背筋も伸びる。そして、






――――――――――

―――――

――


 「私はアルス君の過去を知っています」


 

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