2-1


  ランは無表情な顔でアルスを校内に案内する。 

 アルスは中に入ると普通だなという感想しか出てこない。

 今は授業中なのか学校の生徒や教師ともすれ違ったりすることもなくただ歩き続けていた。

 ランは無言でただ目的地を目指しているようで足早に歩みを進めている。

 この人気遣い無いなとアルスは心で愚痴りながら後ろを付いて行く。


 会話が全く無いのでアルスは学校に入ってからふと疑問に思っていたことをランに質問することにした。


 「ランさん、この学園の校舎数が少ないように見えるんですけど生徒は何人いるんですか」


 「私はここの教師ではありませんので詳細には把握していませんが、数万人の生徒がこの学園に在籍しています」


 この校舎だけに数万人なんてどうやって入るのだろうか、入ったとしても授業なんて受けれるような環境ではないだろう。

 アルスの心の声が聞こえたかのようにランは言葉を継いで説明する。


 「地上のこの校舎に生徒はいませんよ、学園の授業のほとんどは地下施設で行われています。学長室も地下にありますので途中で他の生徒にも会うかもしれません」


 「地下か」


 「えぇ、この学園は地上の立地は大きくありませんが地下空間の広さはこの王都の約一割を覆うほど大きいです」


 「この校舎の下にそんな広い空間があるんですか」


 まさか王都の一割ほどの広い空間が地下に広がっているとはアルスは驚愕を隠せないでいた。

 

 「もうすぐ見えてくる階段で地下に降ります」


 そうランが言うと地下に続く階段が見えてきた。階段は横幅が広く十メートル以上はある。

 二人は地下一層に辿り着いたがさらに続く階段へと進んでいく、地下は一層だけではなく何層にもなっているらしい。

 そうして二層目でランは降りるのをやめ真っ直ぐ歩き始めた。


 「この先生徒が授業を行っているので物音などはたてないようにお願いします。 ちなみにアルス様が入る教室はこの階になりますので、授業の様子でも見ておくといいでしょう」


 アルスは小さな声で返事をして、歩きながらガラス越しに授業をしている様子を見た。

授業風景は普通だ。しかし生徒の人数は四人しかいない、アルスは生徒の方に目を向けた。


 「あっ」


 アルスは目が合ったような気がした。

 一瞬だったがこちらに気づいて長い銀髪を揺らしてこちらに振り向いた。もう前を向いてしまって今の様子は分からないが白い肌をした少女だ。


 「どうかしましたか?」


 「少し生徒の人と目が合ったような気がしたんで」


 「それはおかしいですね、ここのガラスはあちらからは見えないようになっているはずですが」


 「だったら偶々たまたま目が合っただけですね、きっと」


 「そうですか」


 ランはアルスの言葉を聞いて気にした様子もなく歩き続けた。そうしてアルスは何度か他にも教室を通り過ぎたが、最初に見た教室とは違い生徒数も何倍もいて授業も普通に受けている。

 ランの言う通りガラスの向こう側からは見えていないらしくアルスは生徒と目が合うことはなかった。

 やっぱりあの少女と目が合ったのは偶然なのだろうか。それ以降会話は学長室に着くまで一切無かった。



 学長室に着いたのは校舎内に入ってから十分程度掛かった。初めて来たところということもあるのかアルスの体感的には何倍にも感じていた。


 「私が案内するのはここまでです。学長室にはアルス様のみでお入りください」


 そう言われ目の前のドアを見やっていると、ランは回れ右をして足早にどこかへ去ってしまった。

 アルスは思わず声を掛けたがすでに声の届く距離にはおらず、お礼を言う間すらなかった。

 自然とアルスは一人になってしまいさみしい。


 アルスは改めてドアに目を向けた。この中には学長がいる。

 思えば学長はハールの旧友だ。学長もどんな人か心配になる。胸に一抹の不安を抱えながらアルスは目の前のシックなドアを渋々叩いた。


 「どうぞ」


 中から優しくそれでいてドア越しにでも聞こえる透き通るような声。

 小声で失礼しますとアルスはドアを開けると、声の主は椅子の背もたれに身体を預けている。

 そしてアルスと目が合うと優しく微笑み、


 「ようこそシグルズ学園へ、アルス君」


 そして学長の長く尖った耳がピクッと動いた。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る