神々のギフト

ワン

学園編~あらすじ~

 


 「ここが王都か、大きいなぁ」


 アルスは口をポカーンと開けながら王都の真ん中にひと際高く位置している城を見やって一人で呟いた。

 この王都を訪れるのは二度目だ。王都は各方面から人が集まる巨大都市とだけあって、一度来ただけでは辺境の地から来たアルスにとってなかなか見慣れることがない。

  一度来た時は旅をしていて一日だけしか滞在してなかったから印象は薄かったが、改めて見ると威圧感と存在感がとてもある。


 アルスが今いる大通りを見れば人間はもちろん獣人族やエルフ、小人のドワーフとあらゆる種族が歩いていて、剣を鞘に納め横脇に携え甲冑を着ている者もいた。


 アルスがなぜこの王都に来たのかと言えば学園に通うことになったからなのだが、それは半強制的にアルスの父兼師匠であるハールが旅をしていたアルスを呼び出して、王都に行って学園に通えと言われたから渋々行く羽目になったのが始まりだ。


 正直ハールが急に学校に行けなどと言ったかアルス自身分かっていなかった、産まれてこの方勉強などせずに旅ばかりしていたアルスに勉強をしろというのは分かる。親として当然だ。


 ただなぜ今までそんな事を口にしなかった人が突然そんなことを言い出したのか。

 長年生活を共にしたアルスですら未だに理解できていないハールの言動を考えるだけ無駄なのかもしれない。


 今更考えたところでどうすることもできない、今はとりあえず転入させてくれるという学園に向かって、クラスの生徒に挨拶だけして帰るだけだ。


 普通なら朝の授業前に入って最後まで授業を受けるものなのだろうが、転入を聞かされたのが昨日の今日である。朝一番の馬車に乗っても昼を回ってしまうのは仕方が無い。

 それよりもハールの顔の広さには驚かされた。まさか学園の学長と旧友だったなんて思いもしなかった。

 友達だからと言って転入もすんなり通るかは疑問の残るところだが、ハールだからという理由が今の自分を納得させるための十分すぎる理由だ。それほどアルスにとってハールという男は謎に満ちていて底が知れない存在なのだ。


  そうこうしている間にお昼を知らせる鐘が王都全体に鳴り響いた。登校の時間もせまっていることだしと小走りで学園に向かうことにした。



 アルスはまたも口をポカーンと開けてこれからここで学ぶであろう校舎を見上げていた。


 「やっぱり王都の建物はすべてが規格外に大きいな」


 シグルズ学園は要塞さながらに周囲を堅固な城壁で囲われており一切の侵入を許さないまさに鉄壁だ。

 学舎に入るにはアルスの目の前にある入口だけしかない、その入口すらも関所になっており二人の兵士が関所の端に一人ずつ槍を携えて待機している。

 警戒されているからなのか兵士から視線を感じる。


 「とりあえず入るか」


 二人の兵士は関所の端に一人ずついるため片方の兵士に話しかける。


 「学生証か許可証があれば見せてもらえるかい」


 兵士は無骨な顔に似合わず気軽な口調で対応してくれた。

 幸いなことに許可証は師であるハールが手配してくれたものがある。許可証を兵士に手渡すと受け取って入念にチェックをすると、許可証を返して関所を通された。

 

 学園の中は想像していたよりも遥かに小さかったというのが最初の感想だ。

 レンガ造りの校舎は三階建ての横長に造られており、その建物が二棟ある。しかしその二棟の建物が間隔を空け建てられているだけである。その校舎の壁には汚れやコケが生えどこか年季を感じる。

 王都にある唯一の学校と聞いていたのだが、これだけで王都の生徒だけでなく各地から来る生徒を全員収容できているのだろうか。


 「お待ちしておりました」


 そう声を掛けられ目の前にいる女性の声であることが分かる。

 女性は眼鏡をかけて、スラリと細身の身体に黒のスーツと黒のスカート着ていて秘書然としている。一見地味な姿の彼女は麗色な顔をしていてどこか奥ゆかしさを感じさせる。


 そんな姿に目を奪われていたがすぐに我に返り、


 「えっと、 どなたですか?」


 「学長の秘書をしておりますランと申します。 学長室に案内するよう学長に仰せ使っておりますのでアルス様をお迎えしました」


 なるほどハールは学長と知り合いなのだ。だからこそ勉強など一切していないアルスでも試験なしで途中編入が許されているのだ、思えば今やっていることは裏口入学というやつではないだろうか、そう改めて自覚すると罪悪感を感じずにはいられない。

 

 「それではアルス様、学長がお待ちですのでご案内いたします」


 「様はやめてください、アルスでいいですよ」


 「今後ここの生徒になるとはいえ、今はお客人ですので呼び方を変えることはできません」


 「は、はぁ……」


 この学校でうまくやっていけるのだろうか、まったくこの先が思いやられる。

 


 


 

 


 

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