11
「君はこの男の仲間かな?」
男が倒されたことでアルスは兄弟のいるそばまで駆け寄ったら第一声がこれである、アルスはぶんぶんと頭を振って全力で否定するが、その行動が逆に青年の目を細めさせる。
否定することはできてもそれを証明できない、証拠がないのだ。
これは詰んだかもしれない、あの男のように閃光が瞬いた時には自分が青年の目の前に伏す構図が容易に想像できた。
しかしそうなることは無かった。
「違うよ兄さんこの人はたぶん私を助けてくれたんだと思う、途中からだけど男の人と戦ってたし私がやられそうになった時に逃げろって叫んでた」
青年を兄と呼ぶ少女が何やら事情を説明してくれている。
呼び合っているからにはあの二人は兄弟なのだろう。
事情を聞き終えた青年はアルスを見据えて何か吟味をしているようすだ、吟味といっても妹の少女の説明のみが唯一吟味できる材料であるが、
「そうだったか、疑って悪かった妹を守ってくれて感謝するよありがとう」
どうやらアルスの冤罪は証明されたようだ、まさかこんなところで自分の命が賭けらることになるとは思ってもみなかった、心身ともに身体を弛緩させていると、
「さてこの男一体何者なのか顔を見させてもらうとしようか」
青年は男の素顔を見ようと、黒いマントのフードに手をかけて取った。
青年は目を剥き神妙な面持ちになったがそれは近くにいたアルスや妹ですら気づかない程度の動揺に収められていた。
すぐにフードを被せ直すと青年は緊張の糸が緩んだアルスを見つめる。
「君はこの男と戦ったのかい?」
「えっ? まあ戦ったというより睨み合っていただけって感じかな」
そうか、と嘆息するように言うと今度は妹に話しかける、
「リイン、兄ちゃんこの犯人を兵士に渡したらあの助けてくれた人と話をしてくるから今日は店を閉めてリインは血を風呂場で洗い流してもう寝なさい」
話を聞いたアルスは耳を疑った、妹のリインは顔が血で濡れていることはアルスも見ていたから分かっている、しかしそれは他人の血が付いたわけではなくリイン自身が怪我をして血が流れているのだ。
「治療しなくていいのか?」
他人の話に割り込むようなことは本来ならしないが、リインの血で濡れた顔を見てはそういうわけにもいかず、思わず声をかけてしまった。
兄である青年がキョトンとした表情で見ている、妹のリインも同じ表情で見ている。
あれ?そんなにおかしな事を言ってしまっただろうか、というよりもなぜ怪我をしている当人である妹がそんな目で見てくるんだ。
血まみれの妹を前にしてあんな平然としている兄もそうだ。
「リインなら大丈夫心配しないでも、ほら怪我は治っているから」
そう言ってリインの出血をしていた部分を見せられた。
確かに出血部分は見当たらない、それどころか傷口が一か所も無いそれならリインの顔に付いている血は一体、
「まあそういったことも後で話すから、とりあえず行こう」
青年が倒れ伏している男を左わきに抱きかかえると右手でアルスの背中を押して急かす。
アルスは戸惑いながらも青年に勢いに負け人が多く行き交う本通へと向かう、チラッと後ろに立っているリインを見ると笑顔で手を振っている、この兄妹は一体どうなっているんだと改めて思った。
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