寮内に入り目に飛び込んできたものは食堂だった、食堂の内観は木材構造で仄かに木の香りがする。入口の左隣には受付カウンターとその奥には厨房が設置されていて中で人が数人談笑しているのが見えた、部屋の中央には丸テーブル一つに椅子が三つ一セット、それが三セット等間隔に置かれていた。

 その一つの丸テーブルにポツンと見覚えのある少女が一人で食事をとっていた。


 「ソフィー帰るのが早いって、一言声かけてよ」


 ルチアが食事をとっている少女、ソフィアに大声で声を掛ける。決して怒っているわけではないただ友達に置いていかれて駄々をこねているだけだ。少し離れているからとはいえルチアは元気が良すぎる、そこが良い点でもあるのだが。


 ルチアの声掛けに対してソフィアは固まった後、声で返事はせず頭を律儀に下げて応答した。それにルチアはもう見慣れているのか今度はお願いねとだけ言ってソフィアとの会話は終了した。

 もしかするとアルスたちの耳に届かなかっただけで、ソフィアは声を出していたのかもしれない、見た目からしてソフィアは大声をだしそうなタイプではなさそうだ。

 

 「アルスは初めてここに来たんだから、今はいないみたいだけど受付のリズ嬢に後で挨拶しとかないと」


 そういいながらルチアは入口から向かって左奥にある二階へ続く階段の方向へ進む、それにアルスは続くがレイトはその場で止まった。


 「今日はいつもより帰りが遅かったのでレイトは先にここで食事をとっていきます」


 「そうなんだ、私も明日の準備だけしたらすぐに行くわ」


 アルスもそれじゃあと言って手を振ってレイトとは一旦別れることになった。

 そうしてアルスが二階に昇るとそこには五つの部屋があるのみであった。


 「一番奥の右側の部屋が空いてるからアルスの部屋はそこだよ」


 ありがとうと伝えると、良いの良いのと言ってルチアは階段の真正面の部屋に入っていこうとした。


 「もし何か困ったことがあったら言ってね、相談に乗ってあげるから」


 ルチアはサバサバした性格というのはとても的を射た表現であったとアルスは思う、別に悪い意味で言ってるわけではない誰とでもすぐに打ち解けることのでき、オープンな遠慮のない性格、サバサバした性格とはルチアにのためにあるような言葉だ。


 部屋で明日の準備をすることにしたアルスは部屋に向かった。

 ハールがすでに荷物を部屋に届けてくれている。


 部屋に入ると、中はベッドと勉強机が設置されている、そしてもうひとつ横長な大きなカバンが勉強机の上に立て掛けられていた。カバンはハールが用意した荷物だろう。

 近づいて確認すると依頼人がハールとなっていた。

 カバンを広げようとして手を掛けると、不意に目の端に何かがあることに気づく、手に取ってみると一枚の手紙だった、これもハールからであることが裏に書かれた差出人で分かった。

 

 手紙はあとで読むことにして元の位置に戻して、カバンを開けた。


 カバンの中身は、着替えの服や下着がほとんどを占めていた。アルスはその中を掘り返すように調べていると、一番底の部分に隠すように何重にも包装紙に包まれているものを見つけた。

 アルスは見た瞬間何か分かった、それはアルスにとって忘れることのできないもの、すぐに包装紙を乱雑にビリビリとやぶると本体が出てきた。それを両手で手に収めて、スッと撫でる。


 アルスの愛剣”グラム”がそこにはあった。


 「な、なんでこれをぼくに……」


 

 

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