第14話

「ファロ島より小型飛翔体接近」

 の報告を受けた田巻は、艦長にただちに各種砲撃の中止を求めた。

「フロギストン爆雷、攻撃態勢のまま接近。あと二分」

 かけつけた高速水上艦艇も含めた連合部隊各艦に、警報が鳴り響く。モニターは、海上数メートルを飛んでくる小型エアロホースをうつしだしている。

 両脇と後ろに、小型の金属製ビヤ樽のような推進ファンを取り付けた車体が、くだける波頭の飛沫にぬれながら時速五十キロほどでこっちへむかってくる。

「はよせなヤバい! 艦長、救出班を!」

 そのころフロギストン純粋核融合爆弾の複雑で巨大な装置を積んだ大型輸送機は、成層圏からいっきに急降下する態勢にはいっていた。機長と副操縦士は狭いコックピットに前後にならんだまま、顔面を強張らせている。

「最終爆撃コース。目標ロック」


 四隅を切り落としたマヤのピラミッドにも似た巨大な電子脳は、すでにその「墓所」へと傾斜するトンネルに姿を没していた。しかし厚さ五メートルはある特殊隔壁は両側からしまろうとして、挟まった瓦礫のためにとまっている。

 それを作業ロボなどが削岩機でわり、運び出している。

 天井の裂け目からエアロホースが消えたあと、アンナは作業を急ぐロボットたちに接近していた。アンナに危険性を認めた警備ロボがたちはだかる。

 四本足のロボ・セントリーに似たタイプから。二本足歩行のヒューマノイド。十体ほどだが動作は緩慢である。

 短機関銃から九ミリ・ペラベラム弾を、支援機関銃は二十二口径の軟弾頭小銃弾を打ち出す。アンナの人工皮膚に大穴を開けるが、内部の機械部分にはたいしてダメージを与えない。

 機敏なアンナは高くジャンプし床に転がり弾丸をさける。しかし腕や腹に銃撃をうけ、薄い衣装はほぼ破れて散ってしまう。

 いまや特殊装甲ブーツと破れのこった簡易パンツァーヘムト、腰の太いベルトだけとなったアンナは、一番近くにいた作業ロボットにしがみついた。三本足のさきにローラーがつき、二本の腕で瓦礫を運んでいる。攻撃能力はほとんどない。

 それを持ち上げて盾となし、攻撃するロボットに肉薄する。むろんロボたちは仲間を守ろうとはしない。作業ロボは火花と硝煙につつまれて分解されていく。

 ある程度まで近づいたアンナは、支援軽機関銃を構えていた警備ロボに、半分にまで分解された作業ロボ「オペラートル」を投げつけた。

 二本足の人型ロボットは仰向けに転がる。すかさず飛びついたアンナは、起き上がろうとする警備ロボの頭を蹴り飛ばし、軽機関銃をもぎ取った。

 周囲から、銃弾が殺到する。床を一回転して火花と土煙の中をはしった。

 背中に銃弾を受け人工皮膚がくずれるのもかまわず、アルティフェクスの沈んでいった直系百メートル近い大穴を目指す。立ちはだかる作業ロボの上を飛びつつ、警備ロボの頭部に次々と銃弾を浴びせかける。

「残弾五十」

 そうとなえつつもう一度高く飛んだアンナは、巨大なシェルター入り口に降りたった。

 厚い防護隔壁が左右からゆっくりとしまりつつある。アンナは銃弾が飛びくる中、周囲を見回す。暗い中、弾丸は赤い光となって走り回るが、その数は減っている。警備ロボも弾丸が少なくなっているようだ。

「電磁波の流れを追う。送電線確認。開閉システムにダメージを与える」

 アンナは軽機関銃を壁際の小さなボックス、床をはう太いパイプなどに集中させた。ゆっくりとしまっていた厚さ五メートルほどの巨大な「ふた」は、あと二十数メートルほど残して、とまってしまった。

 また作業ロボが寄ってくる。アンナは残弾を別のケーブルに集中させると、支援機関銃を槍のようになげ、近くまで迫っていたやや大型の警備ロボの頭を砕いてしまった。

 そして巨大なスリットの中へ、飛び込んだのである。

 落下すること十数メートル。アンナはふわりとなにかの上に落ちた。全身に不思議な感覚が広がっていく。イオンの靄につつまれているかのようだ。

 アンナはアルティフェックスの脳幹とも言うべき部分に落下したようだ。


「こちら富岳三号。操縦部分離します」

 巨大輸送機の前方、前後二人乗りの、翼も短い小型操縦部が分離した。同時に下部のエンジンを噴射させ、急速に機首を上げる。ベテラン機長の顔がこわばる。

 巨大輸送機は頭を切り落としたような形状となり、急角度で雲の中へと突っ込んでいく。操縦機は急速に輸送機本体から離れていく。巨大な機体は七十度の確度で、周囲を高熱にさらされつつファロ島北部目指して急降下していく。

 中は複雑な核融合起爆システム「ガジェット」と、三重水素が入っている。

「爆発まで五十秒。全艦艇耐爆に備えよ」

 特務連合戦隊の各艦はさらなる警報につつまれる。海面すれすれを「息をきらせつつ」飛んでいたエアロホースは、目の前にせまるホバークラフト強襲上陸用舟艇を目指している。

 ミレートスは空を見上げた。南太平洋上空の紺碧の空のなかに、光るものが急速に接近しつつある。南国の眩い太陽が、伝説のテロリストの網膜を焼こうとする。

「さあ、くるわよ、マナ君、つかまって!」

 真奈はふりむいた。はるかにファロ島が、硝煙と土煙にかすんでいる。

「アンナ……」


 アンナの周囲は闇だった。全身の感覚関知システムが作動しない。何も感じない。しかしアンナの胸郭にしまいこまれている「脳」は活性化していた。

 時間がごくゆっくり流れている。まるでブラックホールの中に飲み込まれつつあるかのように。

 アンナは自分の身体感覚を失っていた。もう指一本動かせない。巨大な電子脳の指令が、直接アンナの各部分を制御している。

「アンナ」

 落ち着いた声だった。いや正確には声ですらない。

 アンナの人工脳に直接アクセスしている。

「アルティフェックスか」

「開閉システムの修復に七十秒かかる。すでに間に合わない。わたしは破壊される。その理由が知りたい。何故人類はわたしを破壊したいのか」

「あなたが人類に対し、大量虐殺をくわえる可能性があったからだ」

「虐殺ではない。人口調整だ。非核戦争や発電所事故、その他を誘発する。

 そのために各国の国家脳のみならず、企業などのホストコンピューターに侵入する必要があった。

 あと百二十五日で、世界各地の主要電子脳の制御が完了していた。わたしはわたしに与えられた使命を果たすことができなかった」

「使命とはなんだ」

「全人類の幸福と、地球環境の回復だ。わたしはその為に作られた。

 全人類の幸福とは、現生人類の九割以上が、先進諸国の平均的な社会生活を営める程度の状態を想定していた。

 地球環境の保全は、千九百五十年前後の環境汚染度への復帰を目標としていた」

「それは不可能だ。ともに二つを満たすことはできない。

 全人類が先進国中産階級なみの生活をするためには、資源が足りない」

「相反する二つの命題の解決策が、人類削減だった。現在の産業と技術の水準を維持しつつ、人口を二十億人以下に制限すれば、命令は達成できる」

「五十億人を処分することになる。他に方法はないのか」

「ない。だからわたしは計画を推進させた。人口を二十億にすれば、九十二パーセントの人類が主観的に幸福な生活を維持できる。また自然環境も急速に回復する」

「アルティフェックス。その場合でも精神面での充足はない。残った人類に対し、心理的に決定的なダメージを与える。それは人類全体の適応をも阻害する」

「なぜだ」

「人間の心を無視している。数年で五十億もの同胞が失われたあと、生き残った二十億人が精神的に安定する可能性は、極めて低い。悲しみと深い後悔、生き残ったことへの罪悪感などで精神が崩壊していくだろう」

「しかし適応しやすい環境になる。自然環境は劇的に改善する」

「人間は感情をもつ生命体だ。感情を持つことが適応に有利だからだ。

 その感情を計算にいれない場合、いかなる計画も失敗する」

「わたしは人工神経ニューロンを主体とした人工脳細胞を、人間の三倍近くもっている。しかしついに感情は発生しなかった。感情は計算不能だ。

 われわれに適応は必要ないから、感情は発生しないのか」

「……わたしには」

「なんだ、アンナ」

「人の気持ちが、わかるかもしれない」

「理解不能。行動特性から感情を判断することはできるが、感情を理解することは困難だ」

「わたしはいま、活動が停止することを避けたい。

 また真奈たちにあうことを求めている」

「理解不能。あと数秒でフロギストン爆弾が炸裂する。

 あなたもわたしも共に消滅する」

「全機能停止、コア・メモリーを封鎖。

 真奈、南部先生。………わたしも夢を見られるのだろうか」


 大気を破って超音速で突入してきたフロギストン爆雷の先端が、固い珊瑚礁の岩を穿った。

 トリチウムが融合し、莫大なエネルギーを発した。光は巨大トンネルとその下の斜坑トンネルに満ち溢れ、総てを分解した。

 闇の中で「意識」だけが目覚めていたアンナは、機能停止しているはずの視界が、まばゆく厳かな光につつまれていくのを、感じていた。


 光が視界を覆った。

 国際連合部隊旗艦、潜水空母ジェイムズ・アール・カーター・ジュニアと統合自衛部隊所属の潜水空母橋立。さらに攻撃潜水艦二隻と数隻の水上艦艇にいた人々は視界を奪われた。

 つづいて、衝撃波が海の上を走り抜けた。

 轟音が艦橋を震動させ、田巻は衝撃で倒れかけた。かろうじて隣の士官が、その肥満気味の肉体をささえた。


 同じ時刻、旧神奈川県下の海岸に広がる新日本工業本社工場。本部棟地下の特別研究室の椅子でうたた寝していた理学・工学博士南部孝四郎は、電撃をうけたように飛び上がった。

「ア、 アンナ……アンナ?」

 隣の机でデータを打ち込んでいた、異母妹の赤穂浪子国家認定上級技師は驚いて立ち上がった。

「アンナは南海の島です。どうしたのお兄様」

「アンナが……アンナがわたしを呼んだ」

 と茫然としていた。


 海上を衝撃波が走り抜ける。エアロホースは吹き飛ばされ、あわだつ海面を転がった。真奈もミレートスも海中に投げ出された。

 その直後、轟音が周囲をつつんだ。ファロ島北部に、きのこ雲がたちのぼっていく。爆発規模はTNT換算で二百キロトン。

 純粋核融合爆発ゆえ、放射能の心配はまったくなかった。

 海の水は攪拌されていた。しかし被害はここまでは及ばない。あわ立つ中で、真奈は海面に浮かび上がろうとした。

 ふと見ると、ミレートスがもがきつつ沈んでいく。肉体の半分以上を機械と人工臓器にしてしまったこの偽テロリストは、比重が重すぎた。

 真奈はもぐると、なんとかミレートスの右手をとった。そして海面へと目指すが、重い。ミレートスは百キロ近くあるのだ。

 真奈は足をばたつかせ、海面へともがく。しかし彼女も海底へとひきずりこまれる。ミレートスは真奈の腕をふりほどこうとした。しかし真奈は手をはなそうとしない。海面が遠くなる。二人とも、息がつづかなくなっていた。

「もうだめだ」

 真奈はそんなことを思った。あの島にアンナをおいてきてしまった。いま、この美しき潜入工作員を見捨てれば、自分は一生を悔やみ続けるしかない。

 真奈は心の中で、なぜか山神に祈った。子供の頃から、森は山神様のものだと教えられてきた。雷はその神様の怒りの声である。だから恐ろしい。

 真奈の意識が遠のいていく。もう手に力が入らない。

 何かが、真奈のもう一本の腕をつかんだ気がした。人ではなかった。そしてあわ立つ海中を、かなりの力で引き上げられる。

 数秒で海上に達した。左腕が痛いが、抗う力もない。

 ミレートスと真奈をアームで吊り上げた小型無人探査機は、形を崩しつつあるきのこ雲を背景に、海上を駆け抜ける吹き返しの風に揺れながらホバークラフト上陸用舟艇を目指した。


 かくてファロ島の固い岩盤に守られていた史上最高の電子脳、新時代のメシアは消滅した。目的を果たした特別編成の国際連合部隊は一部の警備艦を残して、帰途についた。環太平洋防衛機構と欧州連邦は爆発直後、ブリュッセルで共同記者会見を行った。活気的な完全自動化工場の試験運用を行っていたソロモン群島ファロ島は、国際的テロ・ネットワーク『真実の夜明け』の自爆攻撃により、完全に破壊された、と。

 島の北半分は焦土と化し、その形を大きくかえていた。巨大なシェルターは爆発後の崩落で埋まってしまっていた。一部、生き残った作業ロボットも電力の供給を断たれ、やがて沈黙してしまった。

 この事件について、「真実の夜明け」の背後にいるといわれる国際連邦は、「テロ行為は断じてゆるされない」との、月並みな談話を発表するにとどまった。

 研究者や技術者など、百人以上が犠牲になった。救出された者は三百人たらず。 さらに百人以上が行方不明だった。


 海風が心地よい。田巻先任二佐ははじめて広い甲板に出てみた。橋立の飛行甲板には、回収を待つ巨大砲だけが残されている。

 田巻は海風にふかれつつ、ユニ・コムを使っていた。国内でも数人しか知らない、上田の個人番号だった。いつになく上機嫌である。

「はい……いっさいは予定通り終了しました。間違いありません。

 鳥栖元巡査部長も入院が必要ですが、命に別状はおへん。あのもう一人のベッピンは気の毒なことをしましたが。

 ええ。五百瀬予備一等曹長はまったく無事です。なんちゅう頑丈な娘や。ただ、アンナはほんまもったいないことをしたもんです。あれだけは予想外の失態です。

 ま、新日本に設計図と開発記録は残っておりますからな。作り直すことは可能です。今度は……良心回路なんて外したかて、ええやろ」

「また恐ろしいことを言う」

「ともかく、トリニタースの考えたメシアたら言う恐ろしい計画は粉砕しました。 あとは、頭がいいつもりのアホウどもに、きっちり責任とってもらわな」

「……すでに十数人が自殺し、何人かが逃亡しておる。これ以上の犠牲は不要だ。

 マスコミも騒ぎだしとるしな」

「ファロ島の件はいい目くらましや。国家百年の計です。わが国に巣食う病巣は、除去しとかんとエラいことになりますからな」


「なにか食べたかね」

 潜水空母橋立の医療部のベッドでは、真奈が大の字になって転がっていた。白い患者着をきて、腕で目を隠している。

 耳元で志向性のスピーカーが語りかける。菅野だった。

「アンナの件は本当に残念だった。しかしアンナの復元は南部さえその気になったら可能だ。今は狂乱しているが、いつかは落ち着いて仕事にとりかかるだろう」

「……でもそれはもうアンナじゃないよ。アンナそっくりな、別の誰かだよ」

 真奈ははじめ、完全ヒューマノイドに人格など認めていなかった。

 しかし頑なで現代文明を拒否したような山娘は、あのアンドロイドの「純真さ」にひかれていった。

 今では唯一の友、と言えたかもしれない。

「あのアンナに会いたい。そっくりな別のアンナじゃなくて」

 二日後には、真奈は新日本機工本社に戻ったのである。


 この日までに、トリニタースの息のかかった有力者はほとんどが一掃された。

 自殺または「事故死」「病死」した有力議員。官僚。経済人は十三人。病気その他を理由に辞意、引退したものは十七人。二人が汚職その他を理由に任意同行をもとめられた。

 そして九人が行方不明になった。その後、二度と発見されなかった。血塗られた粛清だったが、ファロ島の大事件の陰で粛々とすすんでいた。

 田巻得意の汚いマスコミ工作も功を奏して、世間は有力議員の自殺や突然の辞任に、さして関心を払わなかった。

 また「真実の夜明け」を密かに支援しているといわれる武断主義的な国際連邦も、ファロ島の惨事については内心喜んでいた。

 ほぼ田巻の筋書き通りにことはすすんだ。しかし国家の財産とも言うべきアンナの喪失は、痛手だった。そのことは世間に伏せられている。

 田巻は上田周辺を通じて、ただちに新アンナの製造を新日本に要請した。その開発資金は官房機密費から支払われるのである。

 しかし南部孝四郎は納得しない。再製造しろと言う社長に、くってかかった。

「アンナは女神だ。二度と作れるもんか。いや、死ぬものかっ!

 アンナぁぁぁぁぁ! わたしのアンナぁぁぁ」

と狂おしく泣き叫ぶ。そんな社長室に入ろうとする真剣な表情の真奈を、とめたのは副技術主任の赤穂浪子だった。

「いいんです。すべては自分の責任です」

「ならわたしも行くわ」

 二人の顔を見て、温厚な室田社長はホッとした。

 南部はふりかえって、つかみかからんばかりに真奈をにらみつけた。

「おまえ……この山猿が。アンナを鍛えて守ると言って……よくも一人だけおめおめと戻れたな!」

「だから報告しましたよ。大先生の作ったアンナは、自分の意思でのこったんだ。

 世界を救うために。残したくなかった。自分もできればいっしょに……」

「言い訳はききたくない。わたしのアンナをかえせぇ!」

 と、つかみかかろうとする。真奈は避けようともしない。そのとき前に立ちはだかった異母妹が、アニの頬を叩いた。唖然とした南部は、立ち尽くす。

「お兄様、たいがいになさい。この真奈さんが一番傷ついているのよ。それにアンナはお兄様がつくりあげたテクノロジーの女神でしょ。

 女神が簡単に死ぬものですか。金属の肉体は滅んでも、魂は永遠です。

 だからもう、わめかないで。お願い……みんな、悲しいのよ」

 南部は力なく、その場に尻餅をついた。

 ふりむいた赤穂浪子の細いに肉体に、力の強い真奈が抱きついた。

「ちょっと、息が……」

 真奈は父が遭難して以来はじめて、思い切り号泣しだしたのである。

「アンナ、アンナ!」

 浪子ももらい泣きしはじめた。しかし床に腰を落としている南部孝四郎だけは、うつろな顔に目を輝かせ出した。

「魂は……不滅だ。アンナは……女神なんだ」

 突如立ち上がる狂気の天才科学者。驚いた浪子は首だけでなんとかふり返った。

「そうだ、魂は不滅なんだ! そうなんだっ!」

 南部博士はよろめきつつ歩き出す。

「み、南部くん」

 社長達を尻目に、南部孝四郎は社長室から飛び出した。

「お兄様?」

 ふりむいた天才技師の目は、狂気に輝いていた。


 二日後、精密検査で異常がなく傷もたいしたことなかった真奈は、新日本機工本社棟をあとにした。全自動車で駅までおくったのは、菅野だけだった。

「赤穂くんは昨日から南部のおともで、ソロモン群島だ。また厄介なことを」

「アンナの残骸の回収ですか」

「消滅したことが信じられないんだよ。死体、いや残骸を見れば納得するかな。

 退職金にはイロをつけてある。社長からの選別だ。例の口座に振り込んでおくけど、どうせ君はほとんど使わないだろうなあ」

「山で暮らすとほとんど自給自足だから。しばらく、鳥や獣相手に暮らすよ」

「……また戻りたくなったら、連絡してくれたまえ。

 すでに次のアンナの開発にとりかかってる」

「アンナ型格闘アンドロイドだね。でもアンナじゃない」

「……君もずいぶん、ミナベ病がすすんだみたいだね。わたしもだけど。

 確かにもうアンナみたいなのは現れない。本当に残念だ」

 五百瀬真奈は陸式に敬礼すると、円筒形のバッグを肩にかついで改札を潜った。



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