第11話

「ミレートス。あなたの仕事はもう終わったのよ。これ以上は無理」

 美しき女闘志は、懇願するように言う。少し涙声だった。

 ミレートスは立ち上がり、ゆっくりと目の前をすぎていく巨大な電子脳をみつめている。無数の超集積回路に覆われた壁面が、光り輝いている。

 本物の脳同様、脆弱そうだ。いっしょに並んで歩く警備ロボの銃口が、ミレートスを狙う。真奈が叫ぶ。

「なにすんだよ、しゃがんでな!」

「跳弾を怖れてむやみに発砲してこないさ。アンナが言うシェルターに入ってしまえばもう、部隊には手が出せない。

 シェルター内になにがあるかは判らない。しかし用意は周到だろう。そこから本当に各国の国防中枢に侵入し、核戦争をおこしかねない。そんなことになれば」

「あなたの肉体はどうするの、ミレートス。絶対生きて帰るんでしょ」

「ねえ。計画とやらを話しなよ。納得できたら協力しないこともない。こっちには世界最強のアンドロイド戦士がついてんだよ」

「真奈、アルティフェックスのあとを追うのか」

「それしかないかな。ゆっくりと。警備ロボを刺激しないようにね」

 こうして三人とアンナは身を低くし、なるべく物陰に隠れつつアルティフェックスを追う。歩く速度より遅い。

 銀色の巨大な台形の本体は、マヤあたりのピラミッドにも似ている。

「アルティフェックスの基本設計は、日本の国家中枢制御装置ブラフマンと同じだそうだ」

「日本の? おいおいミレートスさんよ、わが国があの化け物を作ったのかい」

「密かに基本設計を提供したのが、日本の有力者って話だ。トリニタースと呼ばれる連中が莫大な資金をだし、かつブラフマンの設計図を大規模に発展させたって。

 このファロ島を買収したのが五年前と聞いている。

目的は先進各国のナショナル・ブレインの支配。はじめは外交問題の解決のために、各国のブレインを『交流』させようってことになっている」

「その実体は、アルティフェックスによる国家中枢のっとりかい」

「でもこれをつくった連中の予想を超えて、このありさまさ。やつは自らにあたえられた過酷で相反する命令実行のために、人類の半分を滅ぼしかねない」

「過酷な命令ってなんだよ」

「環境保全と、全人類の豊かな生活」

「なんだい、どっちもけっこうなことじゃないか」

「いいかい。七十億全人類が先進各国なみの生活をするには、地球があと四ついるんだ。それだけの資源と耕地面積が必要なんだ。そんなことは無理だ」

「じゃあ、どうすんだよ。環境を守るためには、人間生活が破壊されるし」

「地球を増やせないなら、人を減らすしかない。

 地球一つ分で豊かな生活ができる数に」

「つまり……五分の一にかい」

「そう。そうすれば、減った人類は豊かな環境の中で、ある程度満ち足りた生活がおくれることになる。

 トリニタースって連中も人口の徹底抑制を計画しているそうだけど、まさか世界の五分の四を滅ぼそうなんて、考えていないでしょう。

 そんなことしたら、経済活動が停滞する。

 しかしアルティフェックスは与えられた、相反する過酷な命令実行のための唯一の解決方法を見つけた。それ以外に方法はないよ。

 そしてその解決方法実現のために、自らを進化させたんだ。設計者、命令者の思惑をこえて、計画実現のための基地を拡大した」

「このデカい地下迷宮も、人殺しのできるロボット兵士もそれかい」

 真奈の顔は怒りにこわばる。

「すでにもうトリニタースの命令中止すら拒否しているそうだよ。なんていうか、自我に目覚めたのかな。電子脳に自我にんて生まれるのかどうか知らないけど。

 ともかくヤツは、自分がなんのためにこの世界につくられたかを、理解している。だからその命令撤回は、自己存在の否定につながる。

 そして奴は、世界のメシアきどりの『電子の芸術家』さまは、あくまで自分の考え付いた、全人類幸福化計画を遂行しようとしているんだ」

「………アンナ、いっちょやるかい。これも世のため、人のためだよ」

「あなたが望むなら、従う」


 潜水空母ジェームズ・アール・カーター・ジュニアから発進した無人攻撃機カイヨーテ二機が、ファロ島中央部へとむかう。これは相手に先制攻撃をさせるための囮だった。

 ゆえに低く挑発的に飛ぶ。幸いにも史上最大最高の人工頭脳といえども、政治的駆け引きはできない。そのあたりはまだまだ人間の領域だった。世界一狡猾な生物の独壇場なのだ。

 最新自動対空防衛システムは、マニュアルどうりに攻撃を準備した。岩陰からせり出した対空砲塔が、電動ガトリング砲を発射する。

 無人攻撃機はたちまちくだけたが、一機は直前にミサイルを発射していた。

 小型のフラックトゥルムを思わせる対空砲塔が、火につつまれる。

「よし、相手にさきに撃たせたな」

 橋立の艦橋で田崎艦長は微笑んだ。旗艦カーター・ジュニア艦橋の特別連合部隊司令ソルト提督は、各艦艇に命令した。反撃開始、と。

 二隻の潜水空母と二隻の戦術攻撃潜水艦から、ミサイルが発射された。

 まずは様子見である。数は多くない。

 旗艦であるカーターの部隊司令から命令があった。護衛潜水艦をのぞく日本の潜水空母橋立、環太平洋連合所属の水中攻撃艦リヴァイアサン、欧州総軍のカナリスは全砲門を開いた。そのとき、ファロ島からミサイルが飛来する。

 部隊はレーザー迎撃砲をいっせいに準備した。核ミサイルの可能性もあった。

 まずは迎撃ミサイルが海上をひくく飛ぶ。ミサイル網が突破されれば、レーザー砲が待っている。

だがファロ島のミサイルは、部隊から発射されたミサイル群の直前で自爆した。破片を受けたミサイル群はよろめきだし。次々と落下している。

 その様子を発令所のモニターで見ていた田巻は、つぶやいた。

「予想どうり、EMPミサイルか」

 部隊司令官ソルト提督は各艦に命じる。

「敵EMPミサイルは最優先で迎撃」

 つづいて潜水攻撃艦リヴァイアサンにミサイル攻撃を命じた。

 これはロシアの旧式戦略原潜のミサイルキャニスターに通常弾頭ミサイルを搭載した、水中巡洋艦とも言うべき艦だった。

 次々とサイロが開き。特殊火薬を詰め込んだ大型多弾頭ミサイルが発射される。

 一度高空に達してから超音速で落下する。ファロ島からは対空砲火やAMMが打ち上げられた。

 何基かは撃墜されたが、三基ばかりが中央の巨大なドーム近くに落ち、小さなキノコ雲を作った。核ではないが、新式火薬の破壊力はすさまじい。

 アンナたちのいる地下の巨大トンネルも揺れた。

「な、なんだい」

「はじまったんだ。連合部隊が砲撃を開始している」

 巨大なアルティフェックスは御供の各種ロボットとともに、「寝所」にむかってゆっくりと進み続けている。

「恐ろしければ自分たちで脱出しろ。わたしはなんとしてもとめる」

「サイボーグでも無理だよ。相手は殺人ロボットだ。まかせな。アンナに人は傷つけられないけど、相手が機械だったら遠慮はいらないよ」


 双方のミサイルは濃密な対空砲火やEMPミサイルによって、九割以上が迎撃された。しかしファロ島や部隊にも被害が出始めていた。

 ファロ島の地下施設はともかく、その防衛システムは「人間側」もかなり把握していたはずだが、予想以上に強力である。

 橋立の艦長一佐は、たいそうな防弾ベストを身に着けている田巻に言った。

「君の言うとおりだ。アルティフェックスも相当な防御力だ。

 初期計画とはかなりことなるようだが、誰が防御力を強化したんだ」

「アルティフェックス自身です。さすがに一からはようつくらん。

 自分で防衛計画たてて、自分で各国のブローカーに発注して、金は勝手に各国の金融機関からはらった。

 そして人間にも手伝わせて、配下のロボットに設置させたみたいですわ。

 ボクの言うとおり、旧式の大砲積んでおいてよかったでしょ」

 ミサイルでの迎撃も、バルス兵器でも効果がない砲弾が有効だった。二隻の潜水空母の甲板には、飛行機ではなく昔ながらの大口径速射砲がせりあがってきた。

 橋立の艦載爆撃機用大型リフトにのっているのは、口径千二十ミリもある特殊砲だった。一発の装填に時間がかかるが、史上最大の大砲「ドンナー」である。

 いっぽう巡行攻撃潜水艦二艦は水中発射式上陸用舟艇を、準備しつつあった。砲弾型の小型艇には完全武装兵士が二十人づつのりくむ。

 セイル前面の格納庫に海水が注入されだした。


アルティフェックスに雇われていた技師や科学者五百人近く。その三分の二以上は機械の命令を無視し、薄暗いトンネを北へとむかう。

 途中、隔壁がしまっているところあったが、技師たちはもっていた雷管や爆発物などで簡単にロックを壊してしまった。

 砲撃の音は、しだいに激しくなっている。無人航空機の爆音が響く。ぐずぐずしていれば、命はなかった。

 高給にひかれ、あるいは壮大なプロジェクトに魅せられて島に集まった世界最高水準の研究者、技術者達。そして一部の商人と女性たち。彼らも最近では「雇い主」たる巨大な人工脳がなにをしようとしているのか、勘付きつつあった。

 プログラムを遺伝情報とし、自らを改造しうるあらたな概念の機械生命。

 ある意味馬鹿げたそのコンセプトに、反発するものもいた。しかしアルティフェックスをあらたな時代の神、と称えるものも少なくなかった。

「ともかくいそげ。北の海岸まで一キロだ」と誰かが叫んだ。


「田巻情報参謀。どうかね。硝煙の香りをかがないと、現場指揮はできないぞ。めったにない戦場だ」

「はは……そ、そうですな。

 ともかく無人攻撃機もミサイルもやはり迎撃ミサイルで撃ち落されよる。

 予定通り、むかしながらの艦砲射撃が効果的みたいですな。ファロ島のミサイルかて限りがある。そろそろ反撃もおとろえまっしゃろ」

「うむ。あと少しで上陸だ。科学者や技術者をできるだけ救出して、あとは」

「うっとこが送り込んだスパイも、お願いします」

「わかってる。ただ正確な位置がわからん」

 田巻は立体レーダーの青い光点を見つめた。

鳥栖とす巡査部長、はよ脱出してこい。君らの役目はもう終わってるのに、なにしとんのやベッピンさん達………」

 そのとき、北の小さな海岸に人影が見えるとの報告がはいった。艦橋の望遠カメラで確認すると、自然洞窟の一つから次々と外がとびだしてくる。同時に灰色の煙も噴出していた。

 水中上陸用舟艇は海岸に近づくと浮上し始めた。特に海岸に抵抗はない。

 用済みの技師たちの脱出は気にもしないらしい。おかげで強行上陸用潜水艇は次々と小さな浜辺に乗り上げた。

 それでも時折、島の内部からロケット砲弾がとんでくる。連合特別陸戦隊の兵士たちは。技師たちをおおあわてて救出しだした。

 二隻の潜水空母と二隻の潜水巡洋艦は、北海岸から三十五キロの地点から艦砲射撃をくわえている。田巻発案の、むかしながらの長距離砲射撃が効果を発揮していた。

 アルティフェックスが放つミサイルは限りがある上、濃密な対空弾幕とレーザー網でほとんどが撃墜されている。

 艦のメインブレインに侵入しようと。毎秒数百回のアクセスがあるが、これもことごとく撃退していた。しかし救出部隊に異変がおきた。特別陸戦隊が撤退しようとすると、海岸まで迫った崖の上に、ロボ・セントリーを改造した戦闘ロボが五基、出現したのである。

 巨大な円形弾倉を背負い、三本の銃身を高速で回転されて、銃撃する。

「撃て、撃てっ!」

 集成強襲上陸部隊の隊長は反撃を命じた。部隊からも援護射撃が加わる。ソルト提督は危険を顧みず、部隊に島接近を命じた。

 薄暗い艦橋は比較的静かだが、緊張感に満ちている。中年二等佐官の田巻己士郎は立体レーダーを見つめ、不安げにつぶやいた。

「お姫様たち、ホンマいったいなにしとんねん」


 高さ五十メートル、厚さ三メートルはあろう巨大な隔壁が、両側からごくゆっくりとしまって行く。砲爆の地響きと警報が響く巨大なトンネルはライトの半分が消え、暗い。

「どうすんだいハンサムさん。行くのかい」

「ああ、このままあの電子の化け物を逃がせば、なんのためにここまで苦労したか、犠牲者をだしたかが判らない。それにもっと犠牲者が出る。数億単位で」

 ミレートスは走り出した。アミーカは驚く。

「待って、そんな」

「嫌ならお姫さんは逃げな。アンナ、どうする」

「真奈に従う。アルティフェックスが人類に危害を加えるのなら、看過することは出来ないと判断される」

「よし、行こう!」

 真奈に続いてアンナも飛び出した。巨大な隔壁がしまりきる直前、ためらっていたアミーカも転がり込んだのである。


「総員特別待機命令だと?」

 市ヶ谷中央要塞にある国防省の豪壮な建物の一室で、田沢昭二法務一尉は電話を受けていた。ユニ・コムではなく、古風な軍用電話である。

「正式命令ではなく、憲兵総監の要請と言う形でだな? 非番の将兵もか」

 古典的な電話はかえって傍受されにくく、声も安定している。

「そうです。警務部のほうも大慌てです。警察庁と密かに連絡を取り合っています。首都の治安部門にことごとく待機命令が出ています。予備役は連絡待機で」

「……マスコミの動きはどうだ」

「今のところなにも気付いていませんね」

「こちらですら解読できない暗号通信が多いとは思っていたが。

 いったい政府直隷永田特別町界隈で、なにがおこっているんだ」

「暗号通信の中心は、たぶん市ヶ谷です」

「!ここ国防省がか? まさかクーデターを企てているんじゃないだろうな」

「おそらくは情報統監部が、なんらかの極秘指令を出しています」

「!……ヤツか。あの田巻か。ヤツはいまどこにいるんだ」

「それが、五十時間ほど前から所在不明です。日本にいない可能性もあります」


「あの田巻君のことじゃから、マスコミもだいぶ掌握しとるだろう」

 内閣総理大臣の上田は午後の予定をすべてキャンセルし、官邸地下の司令地下壕、通称「シチュエーション・ルーム」にこもっていた。

 側近は秘書と官房副長官など数人である。

 閣僚達や党の有力者からひっきりなしに連絡が来る。うまくはぐらかし、「時」を待つしかなかった。上田は田巻に負けないぐらい細い目を輝かせ、ときおり鼻の下の髭をなでる。

 大きなモニターには遥か南、ソロモン群島の離れ小島であるファロ島の衛星画像が立体的に映し出されている。

「総理、三番に幹事長からお電話が」

 幹事長と聞いて、「微笑みの寝業師」上田の顔は曇る。秘書の困った顔を見て仕方なく軽い受話器をあげた。

「ああ判っとる。多少の犠牲は仕方ない。幹事長も田巻君の報告書は見たろう。

 いかにわが国の政財界に、やつらの勢力が浸透しとるか。田巻くん一流の誇張もあるが恐ろしいほどだ。このままでは、わが国が私物化される。

 震災復興期の予算不足も、直前の東京市場の動揺も、ほぼやつらのたくらみだそうだ。被害もでら大きいがや。

 ……いや、わかっちょる。それはわかっちょるがね。まちがっても憲法停止などと言う真似はせん。だからこうやって苦労しておるんだがね。

 国際連合部隊のファロ島攻撃で奴らが動揺している今こそが、チャンスだそうだ。アメリカやヨーロッパにいるやつらの親玉は、日本の同志にかまっとる暇はない。特命班がリストに従って、やつらを次々としょっぴく。

 田巻くんらが無理矢理集めてきた証拠をつきつけてやる。それからのことは、多少残酷な行為も必要となるが。

 ………すべてこの国のためじゃ、多分」


「田巻先任二佐、強襲陸戦隊が撤収をはじめました」

 通信下士官が報告する。被害はさほどではなく、科学者技師など三百七十人を保護した。

「情報ではあと百数十人はいるはずやけど、この際しゃあないか。

 それにしても別嬪さんたち、どこにおるんやろ」

 ミレートスが命がけで打ち込んだ追跡装置の電波も、微弱でよくわからない。よほど地下深くにでも、いるのだろうか。

 田巻の情報統監部は、アルティフェックスが壮大な地下シェルターを作っていることを、まったくつかんでいなかった。

「田巻参謀、サイパン基地からフロギストン爆弾運搬機発進準備完了、との報告あり」

「……いよいよ化けもんコンピューターも最後や」


「撤収! 総員撤収!」

 指揮官の命令を下士官達が口々に叫ぶ。さまざまな戦闘服の連合陸戦隊は、科学者たちをかばって上陸用潜水艇に戻ろうとしていた。

 そのとき、後方から猛烈な射撃を加えられた。米海兵隊の兵士が二人倒れた。

「敵襲!」

 海岸にまで迫る岩場の陰から、四本足で頭に太い円盤を載せたロボ・セントリーが三基出現した。

 さきほど岩場の上で撃退したはずだが、海岸に出る通路があったらしい。右手には三銃身の電動ガトリング銃を構え、左手には連射迫撃砲を構えている。

「まだいたかっ! 撃て、撃てぇぇぇぇ!」

 米海兵隊や各国の陸戦部隊、特殊部隊兵士は浜に伏せ、岩に隠れて反撃をはじめた。重火器は揚陸していないが、個人携帯ロケット砲などが威力を発揮した。

 また沖合いの部隊から、小口径砲による正確な援護射撃もはじまった。たちまち硝煙と砂煙で海岸はなにも見えなくなる。それに血煙も交じった。

 このすきに潜水艇へと走った技師の一人が、濛々たる煙のなかから飛来した機銃弾に頭を破壊された。セントリーは赤外線その他をつかい、闇でも煙幕の下でも正確な射撃ができる。

 特別集成強襲陸戦隊は、果敢な反撃を加えつつ技師たちをなんとか上洛潜水艇へと誘導していく。しかし犠牲者も少なくない。

 撤収間際と言う、一番緊張感が薄れかつ防御しづらい時を狙ってきたのだ。


 高さ二百数十メートルのドームを中心とする「都市」は半分以上が巨弾によって破壊されていた。しかし頑丈な特殊ベトンに守られた対空砲座は、まだ半分以上が生き残っている。

 とは言え閉鎖された島である。ミサイルや砲弾にも限りがあり、レーザー砲はさほど強力ではない。

 機械要塞化されたファロ島は、全島あげて「脳」であるアルティフェックスの避難のために時間稼ぎをしていた。そのための犠牲はかまわない。

「アルティフェックスは地下へ逃げ込んで、どうするつもりなんだい」

 ミレートスたちにも詳しいことはわからない。

「シェルターに逃げ込み、地下から各国のナショナル・ブレインへ接触しようとしているらしい。地下にどんな施設があるのかはわからない。

 わたしが説明を受けたとき、地下のシェルターなど誰も知らなかった。

 ただ島に潜入していた案内人によると、この地下には海底光ファイバー・ケーブルからひきこんだ通信末端があるそうだ。それをつかって、地下から全世界にアクセスできるだろう」

「そうか、人間様なら地下に埋められたら手も足も出ない。でも奴は空気も食糧も必要ない。電気と回線があれば十分か。

 シェルターごと埋もれてしまえぱ、まさに難攻不落の電子の要塞になっちまうわけだね。奴はそこまで読んでたのか」

 アンナが突如物陰から走り出した。

人間たちが驚いていると、近くにある太い柱に回り込んだ。そこへ、アルティフェックスを守っていたロボ兵士から、いっせいに銃弾を浴びせかけられる。

 アンナは密かに接近していた作業ロボの一つに飛びつくと同時に、倒れつつその箱型の作業ロボットを楯にした。そこへ銃弾が殺到し、火花を散らしてロボットを分解する。

「アンナ、いったい」

 飛び出そうとするのを、サイボーグの美しきテロリストが覆いかぶさるようにしてとめた。すごい力である。

「死ぬ気か……」

 アンナは弾雨の下を、真奈の教えた匍匐前進でゆっくりと戻ってくる。暗い巨大トンネル内に火花がきらめく。硝煙が視界をおおう。

「アンナ、貴様いったいなにを」

 アンナは右手に、作業ロボの胸部にはいっていたコア・ブレインをもっていた。大きな辞書大の特殊合金の箱で、周囲から光ファイバー線がいくつも垂れ下がっている。

「これでアルティフェックスの命令が読める」

 すでに警護ロボの攻撃はやんでいる。今は作業ロボとともに、大型旅客機でも乗せられそうな巨大斜坑用リフトに、高さ三十数メートル幅五十メートルはあろうピラミッド型電子脳を固定し、かつ数々の配線やパイプをつながなくてはならない。初めてつかう巨大リフトのあちこちも、調整しなくてはならなかった。



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