第10話

 世界的に有名なテロリスト、ミレートスは整備員の帽子と上着をとって身軽になった。黒い袖無しシャツの下に、メタリックな黒色のボディーが見える。

 手には、ヴァルターPPKサイズの銀色に輝く発射装置を握り締めている。

 美しく可憐なアミーカは、大きな円形弾倉をつけたサブマジンガンを、なにかの金属ケースの上に構えた。

「じゃあ、援護よろしく」

「ええ、気をつけて」

「ああ。人類の敵に目にもの見せてやる」

 大きな金属コンテナの陰から飛び出した。目の前に巨大なパネルがそびえている。現れた警備ロボ数体が、走るミレートスにむかって発砲しようとする。

 その直前、アミーカのサブマシンガンが火をふいた。警備ロボのほかに、高い天井から赤いレーザーが発射され、コンクリートの床を焦がす。

 アミーカは盛んに発砲している。そこここに火花が散りコンクリート片が舞う。 巨大な脳の危機を知り、さまざまなロボットがこの巨大な空間に集まりつつあった。しかしアルティフェックスにあたるのを怖れてか、むやみに発砲しない。

 ミレートスは超人的な脚力で作業機械をとびこえ、ジグザグに走る。正面に高さ一メートルほどの掃除機のオバケのような機械が立ちはだかった。武器はもっていない。ミレートスはその上に飛び乗って、作業用のアームをつかんだ。そこへ弾丸が集中する。ミレートスは飛び降りて転がった。

 四方八方からの弾丸が、作業ロボを解体していく。その間にもミレートスは弾丸のなかをはしりぬけ, 巨大なパネルの間の隙間を目指す。

 アルティフェックスに近づくと発砲は少なくなる。ちょうど人間の脳そのものの案外無防備なごとく、この電子脳も本体はさほど厳重に守られてはいない。

 ミレートスは数メートルジャンプすると、不思議な闇の中に転がり込んだ。起き上がって見まわすが、奇妙なほど静かである。

 なにか空間が歪んで、音を遮断しているようにすら思えた。

「………なんだ、ここは」

 ミレートスをつつむ闇は、不思議な清浄さに満ち溢れているように感じられる。 どこか現実離れしている。

 闇のなかで蠢くものもある。ミレートスは高さ三十メートルほどの、淡く輝く「樹木」を見つめた。ごくゆっくりとそれが、脈をうっている。

「おまえが本体だな」

 発射装置を両手で構えた。数発発射するが。音はさほどしない。

 発信装置は空をきり、複雑に絡み合った光チューブのなかに食い込んだ。ミレートスは十弾全部を、アルティフェックスの脳幹に打ち込んだのである。

 警報もなにもなかった。史上最大最高の人工頭脳は静かに輝いている。

「ミレートス!」

 その声に吾にかえた美しきテロリストは、戻ろうとした。不思議な空間から、巨大パネルのあいだを通り抜けて飛び出す。

 いっきに「過酷な現実」に引き戻された。銃撃音が鼓膜を襲撃する。

「おう!」

 右胸に火花が散った。至近にせまった四脚の警備ロボが、拳銃弾を発射したのだ。ミレートスの硬化炭素繊維製の胸に、凹みができた。

 ミレートスは走り出し、サブマシンガンを発砲するロボのわきを通り抜ける。

「ミレートス、こっちよ!」

 壁際の金属コンテナの陰から、アミーカが叫ぶ。弾雨しのつく中、ミレートスは走る。胴体や足などは機械と人工臓器だが、右腕と首から上は「生身」だった。

 やっと金属コンテナの陰に転がり込む。直後、コンテナは火花と硝煙につつまれた。アミーカに助けおこされ立ち上がるミレートス。

 そのとき、自分たちがおりてきたハシゴの上、ハッチから顔をだしている真奈の童顔に気づいた。日焼けした顔は、呆れたように二重の目を見開いている。

 見上げて一瞬驚いたミレートスは、微笑んで見せた。


「信号確認!」

薄暗い発令室に通信士官の声が響いた。艦長以下が緊張する。ずうずうしく副長席に陣取っていた田巻だけは興奮していた。

「よっしゃ、ようやったミレートス。これで所在のはっきりせなんだアルティフェックスの位置が、まるわかりや。

 艦長っ!」

「あ……ああ」

 日本国統合自衛部隊情報統監部次長は、今時珍しい度の強いめがねを右手の中指一本で上げ、大きく息を吸った。

「ファロ島沖合いです。接岸艦砲射撃の準備を」

「よし、全艦浮上する。部隊司令官に連絡。無線封止を解く」

 田巻はひきつった微笑を見せた。

「よっしゃ、通信士官、市ヶ谷に通信。国際連邦本部への通達を依頼。

 ファロ島の巨大電脳が、凶悪なる国際テロリストに占拠されたるもののごとし。 同島付近を訓練機動せる本連合部隊は状況を確認。テロリストによる占拠が確認されたる場合は、島奪回のための必要行動をとる。

 島より攻撃を受けたる場合は、ただちに反撃せんとす。

 ええな! 暗号なんかいらん。平文で発信せい! 世界中に聞こえるようにな」


「無線封止を解く。全艦浮上、戦闘態勢」

 旗艦であるUSSカーター・ジュニアの部隊司令官ソルト提督から命令があった。護衛潜水艦をのぞく日本の潜水空母橋立、環太平洋連合所属の水中攻撃艦リヴァイアサン、欧州総軍のカナリスなどが次々と浮上した。

 橋立の発令所がせりあがり、全長三百メートル近い水中空母が全容を現した。

 ステルス性の高い艦体はつやのない黒一色である。セイルをかねた艦橋は、広い甲板の端についている。

 舷側の一部が割れ、レーダードームや対空兵器が次々と現れる。

 カーター、カナリスも同様に各種装備を露出させだした。もともと「海中巡洋艦」として改造されたリヴァイアサンは飛行甲板をもたず、各種攻撃兵器の防護ドームを外しだした。部隊はファロ島北方沖合いを単縦陣で戦闘機動する。

 橋立の艦橋下、安全な中央戦闘指揮所に籠もっていた田巻は、東京永田町の首相官邸に連絡していた。官邸で固唾を呑んで待っていた首相の上田は、あのいつも人を見下したような謀略家の顔が、青ざめているのを見てとった。

 元来小心な臆病者である。そして小心者の常として、自分が有利になるとしばし平然と残酷な行為をとる。上田の選挙参謀、政策参謀だった男を、父に持つ。

「臨時連合部隊はファロ島接岸に成功、今より攻撃します」

「アルティフェックスの位置は、確かめられたのか。島ごと吹き飛ばすわけにはいかんぞ。人間もまだたくさんいるんだろう」

「そのために手間ヒマと金をかけてんですわ。おまかせあれ。

 地下を逃げ惑うてるようですが、今度は確実です。ただし人的被害は、ある程度仕方ない。もちろん、極力人命救助にはつとめますが。なんせ世界的な技師と研究者ぞろいやし。

 いよいよ作戦の仕上げ、あの電子の悪魔を完全に破壊してやります。

 いや、自称世界の賢人たちが考えた、狂気のメシア計画をね」

 各艦艇は対空防御準備をいそいだ。まずは電磁パルス兵器の応酬からはじまるだろう。EMPミサイルの至近距離での爆発は、いっさいの電子機器を破壊させる。

 コンデンサを使って電磁パルスを発生させるのだが、有効半径は数百メートルほどである。


 警備ロボは短機関銃の弾幕を作る。ミレートスは手近にあった特殊鋼板のバネルを持ち上げ、盾にして弾幕のなかに飛び込んだ。

「うっ!」

 左肩をレーザーがかすめた。人工肩でも感覚回路はついている。

 天井のレーザー発射筒は、真奈のサブマシンガンが粉砕した。アミーカは驚いて見上げた。長身のアンナが、高さ二十五メートルはあるメンテナンストンネルから飛び降り、片膝をついて着地する。

 アンナはすぐに見上げた。

「真奈」

 ハッチから上半身をだしていた真奈は、重いサブマシンガンを抱きしめるようにして飛び降りた。その直後、無数のパラベラム弾がハッチ周辺と火花と硝煙でつつむ。真奈はコンクリートの破片とともに自由落下した。

 それをアンナが両手で受け止めると、金属製のコンテナに隠れた。七基に増えた警備ロボの火線が真奈たちに集中しているあいだに、ミレートスは特殊鋼板を投げ捨てて、アミーカの待つ遮蔽物のところに戻ってきた。息があらい。

 真奈は物陰から顔を出す。

「あんた、いったい何したんだい。たいした歓迎だね」

 ミレートスは驚く。

「……戻れと言ったのに、ついにここまで来たか。しつこいな。そっちのデカいのはやはり有名なアンナか。それとも流行の、アンナに似せたアンドロイドかな」

「モノホンだよ、ありがたくって涙ながしな。

 ところでどうなってんだい。いきなり戦場に出ちまった」

「…沖合いに部隊があらわれた。ロボットどもはそっちの対応で忙しいらしいな」

「部隊だって?」

「アメリカ機構と環太平洋同盟、そして欧州連合の特別連合戦隊だそうだ」

 そのとき巨大な空洞が震動し、かなり大きな音がかけぬける。

 人間達は緊張した。すると目の前にそびえていた巨大なパネルが、ごくゆっくり動き出したのである。

「なんだ、どうなってんだい」

 ロボ警備兵の発砲はやんだ。巨大な人工脳アルティフェックスの動きにあわせて行進していく。次々と警備ロボや各種作業用自律歩行ロボットが集まり、国葬の棺に随伴する衛兵のように、ゆっくりと行進しはじめる。

「どうなってんだよ。あのデカブツがアルティフェックスとやらかい」

「ついに退避しはじめたんだ。部隊の攻撃目標が自分と知って」

「あんたハンサムさん。なんで二度も自分を助けたな。どう言うつもりだい」

「……助けちゃわるかったかな」

「ただのテロリストじゃない。なんでこんなところに潜入したんだい。連合部隊がどうしてこの島に接近してんだい。攻撃しようってのかい」

「マナ、アルティフェックスは地下シェルターに退避するようだ。わたしはその竪穴と推定されるものを目撃している。

 ユニ・コムがあれば画像を転送できる」

「ハンサムさん。あんた本当にテロリストのメシアなのかい」

 ミレートスは悲しげな表情を見せる。

「そうだとも、そうでないとも言える」

 各種ロボットは真奈たちのほうを警戒しつつ、行進を続けている。攻撃してこないのは、あくまでアルティフェックスを守るためだった。

「目的はここだったんだろ。シュピーゲルその他は陽動だね、思ったとおり。

 この超巨大電子脳を破壊して、全世界を麻痺させるのかい。そして憎らしい先進国の発展をストップさせんだろ」

「……これを破壊するのは、世界を救うためだそうだ。そのために発信器を打ち込んだ。複雑で巨大なコア・ブレインの中心に。

 取り出すにはブレインの機能の一部を停止させなければならない。脳の奥にできた血栓のようなものだな」

「世界を救うだって? 『真実の夜明け』は先進国を滅ぼそうってんだろ。

 突出した先進国、俗に言うセブンシスターズが富と資源を独占してるって」

「そんなことで世界は救われないわ」

 アミーカは銃を構える。

「よせ、アミーカ。もう目的は果たした、みんなで協力してここから脱出する」

 静かな警報が鳴り響いている。科学者や技術者は地下道を通って、急いで島内の退避壕へとむかっていた。なにが起きているのかは判らない。

 作業ロボも警備ロボもいない。すべて、「ご本尊」防衛のために集まっている。

 銃すら持ったことのない技師たちが、右往左往している。退避訓練などなく、親切な案内板などもない。ただ「各自退避せよ」との命令を機械から受けて、島に数箇所あるらしい退避壕へ足早にいそいでいるのだ。

 そのうち科学者の一人が、ユニ・コムに緊急通信が入っているのに気付いた。何人かのユニ・コムその他の個人端末にも、英語で次のように表示された。

「緊急退避命令。米・欧・日および環太平洋条約加盟国による特別連合部隊司令官ハリマン・ソルト提督」

 みながその文章に驚いた。連合部隊とはなにか。いったいなにがおきているのかパニック寸前である。

「ファロ島中枢の巨大なアルティフェック・スシステムは、国際的テロ集団『真実の夜明け』によってのっとられた。『真実の夜明け』は各国に対し声明を発表。世界のコンピューターネットワーク、ナショナル・ブレインに侵入。国政をかく乱し、かつ原子炉力発電所などをミサイルで無差別に破壊すると脅迫している。

 この世界的な危機に際し、われわれは国際連邦の承認の元、一致団結してテロリスト集団に果敢な攻撃をかけるものである。

 同島の民間人および警備関係者に告ぐ。ただちに占拠されたアルティフェックス地下工場を脱し、北部海岸方面へ脱出せよ。

 部隊から光学確認できる場所に退避せよ。救出する」


 地上部は様変わりしていた。巨大なドーム周辺の建物のあいだから、対空ミサイルやファランクスがせりあがってきた。そこに人間がいるかどうかは関係ない。

 突如防護隔壁が出現し、いきなり道が割れる。そしてさまざまな武器が出現する。アルティフェックスは脳であり、島の大部分がその肉体だった。

 建物に見えたものは索敵装置だったり、柱に見えたものが攻撃兵器だったり、整然たる街の景観はみるみるかわっていく。

 地上を走っていた自動カーゴ、清掃装置、メンテナンス機械もすべて「戦闘態勢」につきはじめた。しかしミサイルや対空砲弾の備蓄は不十分だった。その間、巨大なアルティフェックスは人が歩くよりも遅い速度で、ゆっくりと進んでいく。

 両側と後ろには、二本足や四脚、キャタピラなどの各種ロボットが付き従う。

「行ってしまうわ。どうするミレートス」

「あとは部隊の仕事だ。われわれは任務をはたした」

「ベッピンさん。あんたがロボ・メイドのふりしてたおかげで、うちの会社はえらい目にあったよ。でもよく考えたね。復讐のためかい」

 薄くらがりのなか、アミーカは目を輝かせた。

「わるかったわね。あんたの会社に怨みはない。でも他に方法がなかった。

 卑劣でいやらしい木下は、臆病で用心深かったから」

「姉さんの敵討ちだね」

「………そうよ、よく知ってるわね。それと奴は、父さんの会社をつぶした張本人でもあったのよ。悪徳金貸しでね。ヤツはそんなことを覚えてもいなかったさ。

 姉さんは、ヤツに雇われてから知ったの。そして姉さんの恋人を……」

「ま、そのことではもうなにも言わないよ。疑いも一応晴れたし。

 でもあんたらの目的はなに。国際連邦の支援を受けたテロリストじゃないね」

「ここで君たちに総てを話す義務も時間もない」

 ミレートスの声は甲高く、女性的である。そしていつも冷静だった。

「でも無駄な対立はしたくない。そう。わたしは君たちの政府の命令でここに潜入した」

「なんだって。政府って。まさか……日本のかい?」

「日本だけじゃない。先進主要国の共通の意思だ。そしてわたしは、自分の失われた肉体を取り戻すことを条件に、恨みのこもるテロ集団に潜入した。

 あそこも親国連派から独立派、十数派閥があるからな。資金の潤沢だったわたしはたちまち一つの派閥のリーダーになったんだ」

「なんてこったい。あんたもこのハンサムさんと同じかい」

「わたしは元から闘士だったの。難民保護運動からはいった。でも所詮、武断主義的な国際連邦の冷酷さがいやになった。やつらの考えていることも間違っている。

 それに先進国の横暴は、世界的な貧困の原因の一部に過ぎないことも、わかった。もっと根本的な問題だったのよ。

 かつて共産圏で、貧困と腐敗の原因は資本家だって、金持ちを抹殺したでしょ。 でもその国はかえって経済が停滞して貧しくなり、貧富の差が広がって人権が抑圧されたわ。

 経済破綻地域も似たようなもの。大企業や外国資本追い出して、どんどん自分たちの首を絞めていった。停滞と悲惨の原因は、ほかのところにあったのに。

 わたしが青春と財産をなげうってやっていたことは、ほとんど無意味だった。

 どうしようか悩んでいたところに姉の事件。そしてこの人と知り合って、お互い助け合うことにしたの。わたしは復讐、この人は任務を」

「すまないアミーカ。わたしは本当は……」

「マナ、警報がかわった。どうやら戦闘になる」

「ここだと危険かい。なあハンサムさん、これからなにが起きるんだい」

「目的はアルティフェックスだ。でも技師など人間も五百人はいる。それにソロモン諸島の一つを、島ごと吹き飛ばすわけにはいかない。国際問題になる。

 正確にあの化け物だけを狙うために、危険をおかして潜入し、発信器を打ち込んだんだ。あとは連合部隊がとどめをさす。その前に脱出させてくれる約策だ」

「アンナ、部隊が来ているってわかる」

「沖合で、太平洋防衛機構専用回線の暗号通信が増えている」

「ミレートス。ここにいれば攻撃を受けるわ」

「う、うん、急いで退避しないと」

「ちょっと待って、どうやってここから脱出するつもりなんだい」

「………任務を達成すれば、ユニ・コムでこちらの位置を教える。それでなんとかして脱出手段を報せてくれるはずだ。そこまでしか約束していない」

「こんな頑丈な地下でかい。アンテナでもあんのかよ」

 ミレートスの美しい顔は、強張っている。どこか諦めているようにも見えた。

「田巻二等佐官は、位置さえわかれば必ず救助すると言ってくれた」

「田巻っ! あの情報統監部次長の陰険な策士? 謀略参謀のっ?」

 最近では日本ロボット産業の雄、新日本機工になにかとすりよっている。田沢昭二法務一尉の捜査を妨害していたのも、田巻らしい。

「なんてこった、自分達は……あいつに躍らせれていたのかい」

 何十体ものロボットを御供にして、巨大な墓のようなアルティフェックスはごくゆっくりと退避していく。

 こちらが攻撃しなければ、ロボットたちは攻撃してこない。あくまでも「脳」を守ることだけに特化している。無用な戦闘は避けたいらしい。

「不思議ねミレートス、こちらを警戒しているのに、攻撃してこないなんて」

「何故なんだ……」

「そうか……やつらは白血球かリンパ球なんだ。こちらが攻撃しないかぎり、襲ってこない。機械の脳に機械の白血球か。たいしたもんだよ。それでどうする。

 ともかくここから逃げないとヤバいんだろう。部隊が接岸、艦砲射撃かよ」

「……アンナ、君はシェルターとか言ったな」

「その可能性は高い。傾斜のある巨大な竪穴だった。この島の固い岩盤に通じていると想定される」

「そんなものをコツコツと作ってやがったのか。そこへ逃げ込もうってんだね」

「シェルターなんか、部隊は想定していない。逃げ込まれたら、攻撃の効果があるかどうか判らない」

「なら早く攻撃しないとダメじゃん。部隊はなにをやってるんだ。技師たちの避難を待っているのかい。それともあんたらをかい」


「艦長、司令官からの攻撃命令は。もう準備できてるやないですか」

 田崎艦長は艦橋で島を見つめている。田巻は焦っていた。

「まだ技術者たちの退避が終わっていない。確認してからだ」

「そないなこと言うてたら、先に攻撃されまっせ」

「ならばどうどうと反撃できる。君の送り込んだテロリストたちはどうするんだ」

「それこそ位置確認しだい、脱出措置を講じます。べっぴん二人、むざむざ殺したりしまへんがな。準備は万端、ドンナー巨砲の発射準備かて整ってます。

 ……それにしても、はよ連絡してこんと」

 ファロ島の海岸部。浜はほとんどなく、切り立った崖が続く。そのむこうには森が転がり、低い山も見える。そして森のなかにも白い構造物が見え隠れしている。

 艦橋の艦長座席の前に、立体的名地図が立ち上がった。アルティフェックスのある島の北部が映し出されている。

「衛星画像を重ねてくれ。特にかわった様子はない。ドーム周辺に動きはないな」

 通信士官が報告する。

「旗艦より発光信号。沖合い四十キロ地点を第一次攻撃線とす。

 上陸部隊は準備いそげ」

「……いよいよか。副長、艦内に警報。戦闘態勢だ」

 田巻はひきつった微笑みを見せた、


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