第9話
「田巻先任二佐」
田巻己士郎は狭い特別個室でコーヒーを飲みつつ、本を読んでいた。同期任官幹部では「最高齢」である。顔をだしたのは赤ら顔の若い士官だった。
「艦長室へお越しください。ファロ島全土に警報が出ています」
「……勘付かれたか」
「多分。索敵波をしきりに発してます。それに島北部にも動きがあります」
白い第二種軽装戦闘服姿の田巻は立ち上がり、大きな部隊略帽を被った。
薄暗いトンネルのなかに、震動音がひびく。明り取りなのかなにか、幅のあるスリットがあった。そこからのぞいてみた。
真奈はトンネルと言うより大きなパイプの中をすすんでいた。そのパイプは、高さ五十メートルはある巨大なカマボコ型地下洞の、天井付近を走っている。ところどころスリットがあって、外をのぞくことができた。
眼下には、大小さまざまな機械がゆっくりと動く工場が広がっていた。
「すごいもんだ。
そして人はほとんどいない。たまにみかける人間らしき影は、ロボットや自動機械のあいだを遠慮がちに歩いている。
「ここでいったいなにをしているかだ」
そのとき、奥でまた銃声を聞いた。真奈は本能的に身を伏せた。
ミレートスは案内人の銃で、磁力弾丸を撃ち込んだ。警備ロボが沈黙する。
アミーカがロボのサブマジンガンを奪って、蹴りたおした。
「いそごう。次々と新手が来る」
「ねえ、アルティフェックスはこんな堅牢な地下要塞なんかを作って、どうするつもりかしら?
まさか全世界相手に、戦争でもやるつもりじゃあ……」
言った危険な美女の目は、おびえていた。さらに美しい顔立ちの、伝説化しつつあるテロリスト「メシア」は、すこし凄みのある笑顔を見せた。
「そのまさか、だろうな。すでに先進各国の国家脳にアクセスを試みている。
自分達は絶対安全圏にいて、人間どもに殺し合いをさせるんだ。しかも地球に優しくな」
「国家脳? 先進各国の政策に寄与しているハイパーAIのことかね。
英語圏では確かナショナル・ブレインと呼んでいるが」
艦長田崎一佐は発令所の椅子に座ったまま、尋ねた。口ひげが印象的である。
平面モニターを見つめていた田巻は、顔をあげた。
「そうです。わが国のブラフマンをはじめ、ドイツもフランスももってはります。 アメリカさんも最近だいぶ大きいの、新たにこさえてはりますやろ」
ここ数年、スーパーコンピューターを上回るハイパー・コンピューターを、先進各国は競って建設していた。
これは各種住民サービスを管理するのみならず、経済や農作物収穫量の予想、その他国家経営のさまざまな面で寄与する、まさに「ナショナル・ブレイン」と言うべきものであった。
もともとはアメリカの国防統括電子脳が最初だとされている。わが国では富士山麓の双子山の岩盤奥深く、「ブラフマン三世」とよばれる地下五層にわたる巨大なものを完成させている。
その一部には、アンナと同じ最新式人造ニューロンが使われていた。
「国家だけやない。世界的な企業のたいていは中央電算機構ちゅうか、カンパニー・ブレインもってはります。
日々とびかう情報の量は、とっくに人間が扱える限界を超えてます。それらに数ヶ月前から妙なアクセスが増えてきた。たとえば八洲重工の奴には、密かに製造ロボの良心回路を無効にするようなプログラムが、送りこまれてたそうですわ」
「なにい……」
「まあ水際で阻止できましたが。良心回路組み込んでるからロボ・セントリー。はじめっからはずしといたらそれは全自動歩兵。民需用と軍用の差は一歩ですわ。
でもセントリーや思って民間警備会社に、自動兵器売ってまうところやった。
それだけやない。ブラフマン三世の脳幹に侵入して、各病院や医療機関へ間違った医療指示をだそうとした形跡もあります。下手したら、患者皆殺しや」
「なぜそんな恐ろしい真似を。
いったいアルティフェックスとはなんだ。われわれは連合部隊を結成してアルティフェックスと言う危険な電子脳を攻撃せよとしか、命令を受けていない」
「その正体を語ることは、禁じられとるんですが」
日ごろは小心を糊塗するためにわざと尊大にふるまう謀略参謀が、細い目の中で黒い瞳を不安げに泳がせた。
立ち上がろうとしたところを突如、後方から発砲された。乾いた銃声が響く。真奈は本能的に伏せた。しっかりとした肩を、二十二口径の弾丸がかすめる。
貫通力は弱く、機械にあたっても損傷はすくない。しかしダムダム弾と同じで、殺傷能力は高い。肉体には大穴をあける。弾丸は壁にあたって火花を散らせる。
真奈はふりかえった。直系二メートルほどのトンネルに頭がつかえそうな、二十世紀初頭の郵便ポストにキャタピラーをつけたような機械が、五十メートルほどにせまっている。
突撃銃を装備しているが、本来は工作機械らしい。
また発砲してきた。真奈は床を転がって、立ち往生したままの警備ロボの影にかくれた。作業ロボはフルバーストで発砲しだす。
真奈も重い円形弾倉のついたサブマジンガンを、警備ロボの脚の間から伏射しだした。しかし鉛の弾丸はロボットにあたって砕け、火花にかわるだけでさほどダメージをあたえない。
武装作業ロボは聞こえない警報を発しつつ、接近してくる。
「クソ、これじゃヤバいよ」
武装作業ロボの射撃で、壊れた警備ロボは火花と硝煙につつまれつつぐらつきだした。そして真奈が伏せているほうへと倒れだした。
「キャ!」
思いがけない女らしい声をだして、真奈は飛びのいた。そのあとへ、五百キロはある警備ロボが倒れてきた。さらに銃撃が続く。真奈は頭をかかえて伏せているしかなかった。
そのとき、二十メートルほどむこうにせまっていた作業ロボの動きが止まった。 「上半身」だけが後ろをむくが、攻撃しようとしない。次の瞬間、かがんで走っていたアンナは作業ロボに飛びつきつつ、突撃銃をもぎとった。
「ア、アンナ!」
殺人可能な作業ロボットは、人間との戦闘だけを想定していたらしい。人間ではないアンナからの突然の攻撃にはとまどい、対処できずにたちまち撃破された。
アンナは後ろにたおれてキャタピラーを空回りさせている作業ロボの、腕と円筒の接続部、キャタピラー内側の回転軸などを銃撃する。ほどなく作業ロボは、火花を噴出して停止した。
小柄な真奈は、アンナに突進して胸に顔をうずめた。
「助かったよ」
「真奈、けがはないか」
「転んですりむいたり銃弾がかすったぐらいだよ。ただちょっと喉がかわいたな」
アンナは沈黙している作業ロボの「底」にある小さなカバーを外し、半透明なシリンダーをひきぬいた。
なにかの冷却水である。油臭かったが、喉を潤すことができた。
「それでは脱出しよう。警戒レベルがあがっている」
「いや、あの美形テロリストたちを追うんだよ。そのためにこの島に潜入したんだ。こんな場所でなにをしようとしているのか、きっととんでもないことさ」
「このファロ島は危険すぎる。さきほどから各種警報が響き、命令が飛び回っている。ただし人間には聞こえない」
「テロリストや自分たちを警戒してんだろ。そのわりには追っ手が少ないけど」
「いや、われわれだけではない。むしろ我々どころではないらしい」
「なにがおきてるんだい」
「通信の暗号が解読しづらいが、移動できる戦闘用ロボは島の北部に大半が移動している。島全体が警戒態勢に入り、人間の技術者は東部のシェルターなどに退避しつつある」
「まるで戦争じゃないか」
「地下部分の大半はロボットが設計し、自動掘削機や建設機械が作り出した。
しかしまだ防衛システムは未熟だ。兵士ロボの数も足りないし、ミサイルその他は人間が設置したものしかない」
「この島はやっぱり完全自動のロボット生産工場、いやロボット王国なのかい」
「統治すべき世襲君主が存在しないので、王国ではない。人間の手を借りずに自分たちで改良し設計し、生産ラインをくみたてる。現在ではその過程でまだ人間の協力が必要だ。
そして生産に関しても、機械独自では行えない。コスト管理、資材調達などの経済面がロボットや人工知能では扱いづらいらしい」
「そう、どんなに発達しても商売は無理か、機械にゃ。
自分だって難しいけどね。ともかく奥へすすもう」
左上腕をすこし負傷したアミーカは、EMP手榴弾でさらに倒した警備ロボから奪った短機関銃を構えている。ロボット用の円形弾倉は重い。ミレートスは右手に拳銃を構え、腰のベルトには小型拳銃のような「器具」を挟んでいる。
「なかに入ってしまえば、どこも警備は手薄ね」
「今はわれわれどころじゃないんだ。侵入した病原菌はあとまわしさ、幸いに。
でも急がないと、我々も攻撃に巻き込まれる」
「脱出方法を聞かされていないのが、不安だわ」
「……必ず生きてかえってやる。そして肉体を取り戻してやる。
脱出方法は、ヤツを信じるしかない。そう言う条件だ。陰険で残酷な謀略家を。あんな奴でも、言ってることは正しいらしい」
「そう。あたしはいいは。姉さんの仇がとれたから。
それに人生の大半を捧げてきた運動の、正体を知ってしまったからなぁ」
アミーカはやさしく聡明だった姉の言葉を思い出していた。あれはどこかのバーだったか。
「きれいすぎる理想ほど如何わしいものはないわ。美しい自然環境を守れって言うのは、誰も反対できない。
なら自然からの収奪に頼るしかない十数億の人たちはどうしたらいいの?
貧しい国々を救え。すてきなスローガンだわ。でも援助するほど、人口は増え貧困は深刻化、そして自然環境が徹底的に破壊される。
……矛盾はみんなが気づいている。そのことを指摘すると、袋叩きにされる。
あなたはなぜ、そんな矛盾した運動に命を捧げるの。単に美人でチヤホヤされているだけじゃ、満足しないのかしら。
ただの美人じゃない、目覚めた知的な女だとアピールしたいの」
そのあと姉とは喧嘩になった。しかしそのときですらアミーカは、『真実の夜明け』とそれをとりまく世界的ムーヴメントのいかがわしさ、醜さには気付いていたはずだった。
「君もいっしょに戻るんだ。死にに来たんじゃない」
アミーカは立ち止まる。ミレートスは驚いた。
「生きて戻れたら、いっしょになってくれる?」
「……無理なことは判ってるだろう」
「ふふ、冗談よ。あなたの正体判ってるけど、時々勘違いしちゃう。
あなたが体を取り戻したら、いっしょになにか商売でもはじめようかな」
「ああ。もうこんな仕事はごめんだ。テロリストのメシアなんて。
結局やってることは人殺しだ。破壊と混乱だ」
「……わたしもそう思う。低開発国や難民を救うためと思ってはじめはボランティア団体に参加したのに、裏ではこんなことやってるなんて。
貧しい国や戦乱のうち続く地域は、先進国やかつての帝国主義の犠牲者ばかりじゃない。陰惨な勢力争いや自助努力の欠如、その他自分達にもかなり問題があるのに。努力せず援助だけを求めて、その援助は権力者たちで奪い合い。いつも悲惨なめにあうのは、本当に援助を必要としている庶民ばかり。
そして先進国に鉄槌を下すはずの『真実の夜明け』すら、その先進国に半ば操られている」
「ともかく今は行こう。脱出できることを信じて。偽りの救世主を倒してやる」
「真奈。伏せろ」
どんなときでもアンナは冷静に言う。真奈がふりむいたとき、長身のアンナが覆いかぶさってきた。その上を弾丸がかすめる。後方からまた警備ロボが発砲してきたのだ。今度はロボ・セントリータイプだった。
「アンナ、遮蔽物まで転がって」
アンナと真奈は反対側に転がり、トンネル壁面の出っ張りに身を隠した。赤く輝く弾丸が薄くらがりのなかを飛来し、火花を散らす。
真奈は重い短機関銃を伏せたまま発砲した。円盤状頭部をのせた四本脚の警備ロボは、極力壁面のパイプや配線を傷つけないように撃っている。拳銃弾の口径は小さく、弾丸は柔らかい。殺傷能力は強いものの、貫通力は弱い。
「くそ、やっぱり弾をはじきやがる」
「真奈、わたしが突進する」
「だめだよ、その簡易パンツァーヘムトは小さすぎる。それよりも注意をひきつけてな。近づいてきたら、飛びついてやる」
「失敗の確立が七十パーセント以上ある。それにもう一基が接近しつつある」
「どうすればいいんだよ、山神さま!」
「真奈。相手の銃を狙え。特にトリガーの部分を。わたしが相手をひきつける」
アンナはメンテナンストンネルを補強している突出部から、体を三分の一ほど出した。警備ロボは短機関銃の銃口をアンナにむける。アンナの周辺で火花が散る。
立ち上がった真奈は、相手の短機関銃に弾丸を集中させた。
銃は火花と硝煙につつまれるが、機械の腕から落ちることはない。しかし突如、警備ロボの銃撃がやんだ。
「どうした、弾がなくなったかい」
「いや、故障した」
と言いながらアンナが飛び出し、銃を使えなくなった警備ロボに突進した。セントリー型警備ロボは左手に警防を持ち、大きく振り上げた。アンナは避けようとせず、白刃どりの要領で受け止めた。そして力任せに特殊警棒をもぎとってしまう。
相手はアンナより高いが、動きはアンナほど機敏ではない。そもそも、国際ロボット格闘大会第三回バトル・ステーションの覇者の、敵ではなかった。
「また……あの銃声は」
ミレートスもふりむいた。涼やかな目の中に、悲しみの色が光る。
「例の不思議な女だろう。逃げろと言ったのに。今度こそ最後かな」
「なにものなのかしら」
「例の世界的な格闘アンドロイド、アンナのトレーナーだそうだ。ロボットのメイドに君が化けたことを、よほど怨んでいるらしいな。まったく命知らずな」
「でも彼女らが、機械どもをひきつけてくれているわ。まったくご苦労なことね」
「……行こう。このあたりで下へ降りる」
ミレートスとアミーカは協力して、潜水艦にあるようなハッチのハンドルを回した。かなり固いが、左腕が一部機械であるミレートスはなんとか回した。
ハッチを引いてあけると、あの巨大な空洞である。妙にかわいて冷たい風が、吹き込む。三十メートルほど下までラッタルがついている。
「見てごらん。ご本尊だ」
アミーカも顔をだした。高さ約五十メートル、幅は百ほどの半円形トンネルの中をごくゆっくりと移動しつつある、巨大な「意識」。または怪物だった。
傾斜をもつ巨大な銀色のパネルが四つたっている。幅三十メートル、高さ二十数メートルはあろうか。その表面は無数の超圧縮型集積回路らしい。全体的な形は、マヤあたりのピラミッドに似ている。
四つの巨大パネルが囲む中心には「輝き」があった。光るファイバーが複雑に絡まりあって、巨大な樹木を形成しているようにも見える。いや輝く脳であろうか。 その異様で美しいさまは見るものに恐怖と崇敬の念をおこさせる。
「これが、そうなの」
「ああ、人類史上最大最高のハイパー・ブレイン、アルティフェックスさ」
ミレートスは言う。アルティフェックスはこの島をすべる巨大コンピューター。そしてそれを設置した連中の意図を離れ、独自進化をはじめているらしい。
ここではロボット自身が「研究」し「自学自習」してさらに高性能のロボットを生み、ロボットの「社会」すら作る。
「プログラムを遺伝子とする、あらたな生命を作り出そうとしているんだったな」
「……まさに神をも恐れぬ行為ね」
「いや、こいつは神様気取りなのさ。そして哀れな、衰退し行く人類を本気で救うつもりさ。その前に傲慢と強欲の罰を与えてね。特にこいつを生んだ阿呆どもに」
「随分馬鹿なことをしたものね、
トリニタースだったっけ。ナチスでもボルシェビキでも、自分達は賢いエリートだ、人類を導くためにいるんだって信じている奴らほど、危険で愚かなものはないのよ。……わたしたちの周囲にも、たくさんいる」
「トリニタースと言う秘密結社は、ご存知ですか」
艦長田崎一佐は立派な顔をすこし強張らせた。田巻の厚いレンズに、薄暗い発令室のさまざまなランプが反射している。
おかげでこの男の細く陰険な目を見なくてすんだが。
「聞いたことがある。日米、そして欧州。一部ロシアやアジアも含めた保守的な政界、財界人の秘密結社だと説明された。権益保護団体かな」
「もう少しまがまがしい、強力で危険な組織です。
いつできたんか。あるいは前世紀の冷戦中や言う意見もある。ともかく、腐敗しつつある人類文明と、破滅的状況にある自然環境を憂う、賢人会議。
哀れな衆愚を救うためのね。いつの世でも自称頭のエエ方たちのおせっかいが、どんだけ人類を不幸にしたことか。
自然環境を守りつつ人類全体が幸福になる。そんな夢物語みたいなことを本気で考えてはるみたいですわ。ま、万国のプロレタリアが結束して地上に楽園作る、言うぐらいの与太話。
恐ろしいことに奴らはそれを実行した。それがメシア計画言われるもんです」
「メシア。救世主かね」
「救世主メシアとは綴りが違います。MESIA。発音は同じメシア、またはメサイアやけど。トリニタースの考え考えとんのは、
the Masterplan of the Earth Suppressive International Actionの頭文字ですな」
「インターナル、アクション……サプレッシヴ?」
「そう、世界制圧国際行動主計画とでもいいますか」
「世界を制圧するのかね。
この複雑で肥大化し崩壊しかかっている世界をか。なんのメリットがあるんだ」
「崩壊をとめるためやそうで。究極の自然保護のためにね。
自然保護のためには、人々の生活なんぞ犠牲になっていい、ちゅう考え方はむかしからありますが。トリニタースは人類の生活レベルをたもった上で、自然保護したろうと考えてはるみたいですな」
「……どうやってそんな魔法みたいなことを」
「徹底的な人口抑制と資源の保護。国際連邦とは違った意味での、全地球規模での文明の停滞を画策していると報告を受けています」
「文明を停滞させたいやつらが、なんでアルティフェックスなどを」
「先進国の足並みをそろえるのが第一段階、ちゅうわけですわ」
「アルティフェックスを使い、先進各国の国家運営システムをのっとるわけか」
「人間をコントロールするより簡単や。
システムを乗っ取り、その国の国政を自由に操れる。最近はやりの電子投票の結果をいじって、都合のええ議員ばっかり当選させられます」
「なんだと」
「そんな恐れもあるから、わが国はいまでも紙とエンピツや。
さて先進各国の政権をコントロールできたら、次は巨大企業ですな。先進国群あげての世界的国家総動員、翼賛体制をつくらはりますやろ」
「それでどうするのかね。非先進国に対して宣戦布告でもするのかね」
「そないなアホなことはせえへんでしょ。たとえば経済をコントロールして、自分のたちに逆らう中小国は破綻させる。隣国どうしの紛争を煽る。
警戒システムをちょいいじっただけで、たちまち隣の国と交戦状態。
産児制限、病気の蔓延、平均寿命の低下。先進国では人口をコントロール。それ以外では穏やかな形で人口の逓減を指導する。
ただし先進国に関しては、現在の社会水準を維持する」
「……神の領域にふみこんでいる。恐ろしい」
「わが国にもシンパはかなりいてます。これをきっかけに、危ない方には消えてもらわな。でもトリニタースの言うことももっともや。
自然環境の最大の敵は、なんのかんの言ってもわれわれ増えすぎた人類やよって。いっぽうで人類を救おう、貧しい地域を豊かにしよう。
そないなことすればするほど、自然環境は徹底的に破壊されます。
自然保護環境保全なんちゅうのは、いわば恵まれた国の贅沢です。
全人口の二割を超える最貧困国家では、残された自然を食いつぶしてでも、生き延びるのに精一杯や」
「トリニタースと言う舞い上がった連中は、正しいことをしようとしているのか」
「ある意味ではね。そのために莫大な金をつぎ込んで、奴らはファロ島を電脳要塞化した。なんでもバトル・ステーションその他の賭け事や、世界の証券市場で大規模な操作が行われたのも、アルティフェックス建設資金のためやったそうで。
ところがです。飼い犬に手を噛まれるちゅうよくある事件がおきたようですな」
「アルティフェックスの叛乱かね」
「叛乱、といえるかどうか。ある意味命令に従った当然の結果でしょうか。
あの電脳のバケモンはついに、唯一の答えを見つけてしまいよったらしい」
「答えを?」
田巻は厚い下唇を一度、かみしめた。
「………ええ。自然保護と、人類保護の相反する問題の同時解決法を」
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