第8話

 非公式にゴモラといわれるその小区画は、ジャングルのはずれにあった。

 町といえるほどの規模はない。ここでは機械の活躍する空間が優遇され、人間はすみへ追いやられているようだ。

 店舗らしきものが五軒ほどある。雑貨商や酒場らしいものも見えた。

 そして常に十数人がたむろしている。島で唯一の歓楽街なのだろう。小柄な真奈が目深にキャップをかぶっていると、何人かが不思議そうに一瞥した。

 あのアミーカと言う美女が隠れるとしたら、こんな場所しかない。そして工場の中心にはおいそれと近づけないはずだ。当然厳しいチェックがある。

 こんな場所で様子をうかがい、「すき」を見つけようとしているはずだ。

「あんな美女がいて目立たない場所といえば……」

 西部劇よろしく「SALOON」と書かれた店がある。最新建材でつくった仮設倉庫のようなものを利用している。入り口は開け放たれていた。人の気配がする。真奈は帽子を脱がず、暗い店内をのぞいた。

 中の装飾は、アフリカ奥地の欧州植民地風である。カウンターもそれらしくつくってあり、棚の酒も豊富だった。

 葉巻のかおりがかすかにするが、清潔そうだった。

「おい、子供はだめだよ」

 白い服に蝶ネクタイのそれらしいバーテンが言う。真奈はざっと店内を見回した。客が数人と「それらしい」華やかな女が二人、椅子にすわって談笑している。

 目指す女はいないが、やはり潜むとしたらこんな場所しかないはすだった。

「どこの子だ。めずらしい。親は誰だ」

 長居すれば怪しまれる。真奈は黙ってサロンを出た。サロンの前にはかつてのコンビーニエンスストアを凝縮したような、モダンな雑貨商がある。そとからのぞいてみた。技術者然とした二人ほどが、買い物をしている。

 中をのぞいていると、うしろから声をかけられた。

「珍しい。若い女の子なんて」

 ふりかえると、高価なドレスの水商売風の女が一人。米語で丁寧に話しかける。

「商売したいのかい」

「いえ。ちょっと人探しを」

「中国人、いや日本人だね。ここにも何人かいる。

 人探し。お父さんでも働いているのかい」

「アジア系の美人が、最近この島に現れませんでしたか」

「漠然としすぎてるねえ。こんな島でも入れ替わりはあるから。

 常に働いているのは五百人ぐらいだけど、女は料理関係と医療関係あわせても二十人かせいぜい三十人。

 男はみんな各地の一流企業や大学から引き抜かれた高給取りよ。いい客だわ。

 でもエラい先生たちが好き好んで、機械にこきつかわれてるなんてねえ」

「機械に? 一流の技術者がなんで機械に」

「知んないわ。ここでは機械が考えて人に命令するのよ。ロボットでもない。人工知能ね。

 アルティフェックスとか言うそうよ」

「聞いたことあるよ。あのデカいドームに鎮座してんのかい」

「そうだって。機械の親玉、世界最高の人工頭脳だってさ。五年かけて作ったそうだけどね。それがこの島を支配しているって話よ」

「でも、どこかの会社がつくったハイパー・コンピューターなんだろ。ここらの技師だって会社に雇われてこんなところまで」

 女は冷笑した。

「だから雇っているのはアルティフェックス。やつが世界中を探って、これといった科学者や技術者にメールおくりつけてんのよ。

 条件交渉も、いろいろと諸手続きもやるみたい」

「コンピューターが? そんなの聞いたことない。コンピューターが社長かよ」

「ま、ここで暮らしたいなら機械に逆らわないことね。なんでもここのロボットって、良心回路ないそうだから。特に機械警備兵には気をつけて。じゃあね」

 しばらく女の背中を見つめていた真奈の表情は、けわしかった。

「良心回路がない? 完全に国際法違反だよ。この島はいったい……」


 真奈は夕方まで人目につかぬよう、女性のいそうなところをうろついた。相手はかなりの美女である。化粧直しもしたいだろう。山育ちで森の中で何日も潜める真奈とは違う。アンナには短くユニ・コムで連絡をとった。

 真奈は小柄な男の子と思われれているのか、珍しそうに見られるだけである。

「そっちは異常ないかい」

「人の気配も、機械の作動音もしない。真奈のほうは目標に接近できたか」

「歩き回ったら腹減った。雑貨屋で食べ物と飲み物を買ったけど、足りない。

 ロボットの店員はともかく、客は妙な目で自分を見てたな。日が暮れたらそっち戻るよ」

 真奈は「歓楽街」はずれ、建設途中の壁のわきで通信していた。陽がおちはじめると人通りも増えてきた。もう一通り回ってみる。

 真奈はふと顔をあげた。作業着をきたやや小柄な影がちかづいてくる。

 頭には真奈同様、つばつきのキャップを目深にかぶっている。手には餅をつく杵のような、金属の計測器をもっている。腰にはガンベルトのようなものを吊るす。

 真奈は緊張した。顔をややふせ、歩き出そうとした。行く手をさえぎるように立った影に驚くと、聞き覚えのある声が言った。

「ひょっとして、わたしをお探しかしら」

 真奈が顔をあげると、アミーカは手にしていた計測器具を放り出し、同時に真奈の鳩尾に強い正し拳突きを、くらわせた。


「真奈、なにかあったか。脈拍があがり、呼吸が落ちている」

 アンナは闇に隠れつつ、真奈のユニヴァーサル・コミュニケーターで体調などを監視していた。それが劇的な変化を観測した。

 返事がないどころか真奈のユニ・コムが「計測不能」と表示してきた。ユニ・コムが外されたらしい。入浴以外、眠るときにもつけていることが多いのにである。

「真奈」

 アンナは夕闇の中で立ち上がった。自分ひとりで歩き回ると目立つことは判っていた。アンナは無表情のまま、眼と耳の感度を最大にした。


「確かに、もぐりの改造屋でみた女だ。こんなところまで追ってくるとは」

「あのアンナタイプのアンドロイドもいっしょかしら」

 美しいミレートスも青い作業着姿である。肉体は細身の男性のようだが、顔立ちはかなり女性的だった。うしろに大きく「メンテナンス」と書かれている。

 気を失った真奈は地下洞のようなところに運ばれ、大きな手押し車大のカーゴに横たえられていた。

「どうする。始末するか放置するか」

「あのデカいアンドロイドよけになるかもしれない。連れて行こう。

 足でまといになれば放り出せ。殺す必要はない」

「あいかわらずね。そのやさしさが命取りになるわよ。おまわりさん」

 アミーカは杵状の器具でミレートスの肩を軽く叩いた。


 アンナは仮設倉庫のようなところを抜け出した。木々のむこう、夕闇せまるなかに街が見える。それは住民のほとんどいない、機械に支配された要塞都市である。

 建物からすこしづつ、人が現れだしている。

 決して狭くはない島の北部に、建物と「施設」は集中していた。中央の巨大ドームを中心とした放射状の町並み。しかし建物には窓がなく、道路には街路樹も街頭もない。ここは人間をまったく排除したような、機械のための王国だった。

 周囲は森となだらかな岡に囲まれている。南に広がる密度の濃いジャングルの中にも、金属質の建造物が見え隠れしている。木々の中を走る道のむこうに、なにかが動く。それは案山子にキャタピラがついたような、警備マシンだった。

 アンナは手近な大木を見つけて、よじのぼった。これも真奈に習った「山の戦い」の一つだった。身軽な真奈なら樹冠から他の木に乗り移ることはできるが、自重四百キロのアンナにはのぼるのが精一杯だった。

 警備マシンは木の上まで気にしない。そんなところにいるのは、野生生物ぐらいだった。そのまま大木の前を通り過ぎていく。

 アンナは警備マシンが機械語で報告しているのを傍受した。

「潜入したヒューマノイドはいまだ発見できず。こちら三八六地点」

 アンナを探しているらしい。警備マシンをやりすごしたあと、アンナは隠れる場所を探した。聴覚を最大にすると、さまざまな雑音が四方からきこえる。

 そのなかで人の声や森の音を排除して、低い機会音を濾しとった。森の奥にある岩陰からする。闇につつまれつつある森をすすむと、岩陰の草にかくれて、マンホールのようなハッチがあった。メンテナンス用かもしれない。

 ハッチには鍵がかかっている。アンナは両手でハッチにふれた。

「微弱電流、電磁波を検出。警報装置あり」

 アンナの爪はのびない。つねにきれいにそろえられている。その素材は爪より身かたい硬化プラスチックである。

 その爪をねじ回しにして数箇所のねじを外し、四角いふたのようなものを開けると、配線が見える。アンナはそれを凝視し、構造を読み取った。

 そして配線の一つを指でひきぬいたのである。

「警備装置無力化」

 ハッチの小さな取っ手を立ち上げ、力任せにひっぱった。鍵がこわれてハッチがあく。なかは暗いが、ハシゴがついていた。そこは下水と言うか、湧き出る地下水を逃がすためのトンネルらしい。

 また聴覚をあげると、さきに震動音がする。アンナはそれを追った。暗いがアンナには関係なかった。高さ二メートルほどの排水溝は、アンナにはややせまい。

 足元をながれる水はやはり地下水や雨水のようだった。機械に水は大敵である。やがて排水溝は、より大きなトンネルに合流していた。

 それは高さ五十メートルはある、かまぼこ型の構造を持つ巨大なものだった。

 ところどころ照明もつき、大小のバイプが側面を走っている。小型機ならこの中を飛べそうだった。


「ミレートスか。あいかわらず美しいな」

 白衣をきたやせぎすのコーカソイドは、手をさしのべた。作業着のミレートスはすこし不快そうに握手した。

「そっちのベッピンは?」

「助手のアミーカ。潜入できたのは二人だ」

「カミカゼだな、さすがは日本人だ。それで、発信器は」

 アミーカは手にしていた小さな杵状の観測機器を分解しだした。なかから小型拳銃のようなものを取り出す。

「この弾丸にしこんであるわ」

「ともかく、アルティフェックスにそれを打ち込めばいいのか」

「ああ。化け物の直接攻撃は不可能だ。でかいドームは囮、しょっちゅう位置をかえてる。その小型で強力な発信器を埋め込めば、地の底にでも潜らないかぎり逃げられない」

「そのあとはどうする。『真実の夜明け』が核自爆攻撃でもかけるのか」

「あとのことは別のグループがやる。我々の使命は機械の化け物の位置を割り出すことだ。そしてわたしは……肉体を取り戻す。

 このいまいましい機械の肉体には、飽き飽きだ」

 美しいミレートスは作業着の胸を荒々しくはだけた。なかはメタリックな胸と腹である。白衣の内通者は、息をのんだ。


「外部警備七十号より報告。排水トンネル北七号の十二番メンテナンスハッチのロックが破壊れている。なにものかが潜入したるもののごとし」

「機械の案山子」は森の闇のなかで、そう報告した。潜入したアンナは巨大トンネルの震動音を追って奥へとすすむ。トンネル内部にも低く警報がひびきだした。

 しかし内部警備ロボの数は多くない。危険人物など、そもそもこの島には潜入すらできないはずだった。

「真奈、どこにいる」


「……ここは」

「お目覚め、眠り姫さん」

 真奈は後ろ手に縛られ、ゆれるカーゴに転がらされていた。アミーカとミレートスのほかに、見知らぬ白衣の白人がいる。内通者は不思議そうにきく。

「なんだってこんな奴を連れてきた」

 ミレートスは冷たく、真奈を見下ろした。

「本当にそうだな。人質と思ったが、役にたたなかった」

 真奈は起き上がろうとした。

「もうついてくるな」

 ミレートスは真奈の胸を蹴った。起き上がりかけていた真奈は後ろ向きに一回点して、床に落ちた。

 痛みが全身に走ったが、けがはしなかった。なんとか起き上がる。

「クソっ!」

「もう十分だろう。なんとか島から脱出しろ。ここは地獄になるぞ」

 ミレートスはそういいつつ、奥へと消えていく。

「どうして、どうしてまたも自分を助けるんだっ!」

 ミレートスは振り返り、手をあげた。おどろくほど美しい笑顔をみせたが、悲しげだった。


「真奈……」

 聴覚の感度を最大にしていたアンナは、さまざまな音のなかから遠くに響く真奈の声を濾しとろうとする。

 だが巨大地下トンネルを中心とする広大な地下世界で、人間の声は難しい。

 彼女の前には、巨大トンネルの底にあいた大穴があった。直径百メートルほどの穴には、急角度の勾配がついている。

 それは航空母艦の艦載機昇降リフトを、巨大化したもののように見えた。


 三人を乗せた自動カーゴは、小トンネルの突き当たりでとまった。

「ここからは歩こう。カーゴでは無理だ」

 白衣の内通者は警備システムのない、狭い配線用のトンネルに入った。時おりメンテナンス・ロボがとおるぐらいだという。

「アルティフェックスの本体には近づけるのか」

「地下部の警備はたいしたことない。これだけの施設だ。全部は監視できんさ。

 それにロボットが勝手に拡張したんだ。地図にものってない。そもそも奴らは、地図なんていらないんだ」

「勝手にか、ロボットが」

「そうさ。俺も大金に釣られて、ユニバーサル・オートマトンを辞めてこっちに入った。もう一年になる。そしてここの恐ろしさを知ったよ。

 あの世界最大の電子脳を作った連中は、なにをやらかそうってんだ」

「……世界を、救うそうだ」

「へ、メシア様気取りかい。たいてい自称メシアってのは、人々を地獄に叩き込むもんだ。むかしからな」

 ここでは「アルティフェックス」と言う超AI「ワールドブレイン」によって研究者自身が雇われ、心酔し、輝かしい未来を信じてロボットの指示に従ってなにかを研究している。

「見てみな、そっとだ。そこのスリットから」

 二人はゆっくりと顔をだした。広い工場では大小さまざまな機械が動いている。

 各種ロボットが作業を続けているが、数はさほどない。その中にまじる白衣の人間達。最終作業工程は見られないが、ロボットを作っているのはあきらかだった。

「なるほど、ここで最新型ロボットをつくっているわけか」

「それもあるけどな。ここでつくられているのは、アルティフェックスとその支配下のロボットたちが設計したものだ。人間はロボットに雇われた、下僕かな。

 この工場もそうだ。雇われた世界的な科学者、技術者の協力の元、ロボットがロボットを開発し、生産しているんだ。もちろん良心回路なんてない」

「ロボットがロボットを産むわけね」

「……アルティフェックスはな、電子情報を遺伝情報とした生命体を作ろうとしている。遺伝情報を後世に伝える者が生命なら、ロボット生命だってありえるさ」

「……それがアルティフェックスの目的か」

「恐ろしいわ。これが、トリニタースの生み出した怪物の正体ね」

「そして怪物は、作り出した連中の手をはなれたのか」

「ああ。まさに化け物さ。そして俺たち人類を滅ぼしかねない」


 薄くらがりのなかに一人とりのこされた真奈は、金属製の柱の角に紐の結び目をこすりつけて、手の縛めを切った。すこし手首が鬱血している。夜目のきく真奈は、周囲を見回す。二重の大きな目が輝く。

「くそ、ここどこだよ……」

 自動カーゴが去っていった方向が、すこし明るい。真奈はそれを追うことにした。左手のユニ・コムはもぎ取られていた。

「それにしてもあの色男、また自分の命を助けやがった。なんだってんだ」

 この機械が支配する島に潜入した目的も、単なる破壊活動とは思えなかった。


「こんな地図しかなくて申し訳ない。毎週拡張してやがるから」

 白衣の案内人は地下警備システムの簡単な見取り図を作り、ユニ・コムに記憶させていた。しかしきわめて大雑把なものであるし、不明なところも多い。

「機械警備兵が、島のあちこちを定期的に動き回っている。

 それに新しく生産された土木作業自動機械が、昼夜問わず大突貫さ」

 三人は暗いトンネルを、手探りですすむ。コーカソイドの内通者は、暗視コンタクト・レンズを使っている。

「作ってるのは多分ご本尊の抜け穴、脱出口だろう。

 地図にあるデカい竪穴がそうだ」

「アルティフェックス本体は、日本製の人工ニューロンを二百億ユニットも使った巨大なコアのはずだ。そんなに動き回れるとも思えない」

 ミレートスは呟くようにそう言う。案内人は皮肉気に微笑む。

「アルティフェックスってどう言う意味か知ってるか。ラテン語だ」

「芸術家と聞いたが」

「そしてもう一つ詐欺師って意味もある。ローマ人は詐欺まで芸術と思ってたのか、芸術家なんて詐欺師だと考えてたのか。ともかくとんでもない詐欺師だよ。

 機械の脳は。ちょっとしたビルほどの大きさはあるけど、じっと鎮座しているわけでもない。移動手段はあるんだ。

 このデカいトンネルを自在に動き回ってたから、位置がつかめなかったのさ。

 それでも安心せず、今度はさらに地下に、頑丈なシェルターをこさえてやがる。

 多分、水爆でもエクスキャリバーミサイルでも平気なやつだ。それに逃げ込まれれば……」

 突然銃弾がミレートスの目の前をかすめた。トンネルの合流部分から、寸詰まりのマネキンのような警備ロボが発砲してくる。顔は能面のようだ。

「ヤバい」

 白衣の案内人はEMP手榴弾を投げつけた。轟音がトンネルに響いて警備ロボは動かなくなってしまった。

「これで発覚したな。いそごう」

「人間を攻撃してくるなんて、ロボットが」

「言ったろう。良心回路もなにもない。人を攻撃できるロボットさ。もっとももぐりの業者なら簡単に良心回路なんて外せるらしいが」

 また銃声がした。後ろから別の警備ロボが発砲してくる。

「くそ、ぞくぞく来やがる。あんたは先に行ってくれ」

「無茶はするな」

「あの化け物の位置を確かめて、部隊に報せろ。どうやってもどるつもりかは知らんが」

 

 薄くらがりのなか、真奈は爆発音と銃声をきいた。そのほうへといそぐ。アンナもまた銃声と爆発音を追っていた。人間には聞こえないが、警報がなり機械言語での交信がとびまわっている。

 ここだけではない、外でもなにか異常事態がおきているらしい。

 島の北部にある砲台などが稼働しはじめていた。


 案内人は強力磁石でできた弾丸をいれた、大型拳銃をもっていた。それをロボットの胸にある電子脳にうちこめば、相手は機能障害をおこす。

 ものかげから飛び出して、目の前に迫った警備ロボのひらたい胸に弾丸をうちこんだ。火花がちり、強力な磁石が電子脳に影響をあたえた。

 立ち止まった人間型警備ロボは両手をばたつかせ、甲高い電子音を発しだした。

「ざまあみろ、デクめ」

 しかし右手に装着していた小口径のサブマシンガンを乱射しだした。流れ弾が白衣の左胸を直撃した。気付いたミレートスがあわてて駆け戻ったが、すでに案内人はこときれていた。

「おい、おい!」

 銀色の大型拳銃を、アミーカが拾った。

「行きましょう。部隊が近づいている。時間がないわ」


 真奈はトンネルを支える柱の陰から、恐る恐る顔を出した。まだほのかに硝煙がただよっているが、いびつな人間型の警備ロボは、まったく動かない。

 薄い白煙が全身から立ち上っている。ほかに動くものもない。

「誰か倒れている。ミレートス?」

 真奈が恐る恐るきてみると、白衣をきた、顎鬚のコーカソイドが撃たれて死んでいる。まだ体温が残っていて、血もすこしづつ流れている。

「……なんてことだ。ここのロボットは人間を攻撃できるんだ」

 ロボットと自動攻撃兵器との違いはまさに間一髪、製造メーカーが各国政府管理機関の許可した良心回路を取り付け、シリアルナンバーを登録するかどうかにかかっていた。

 国際条約では規制されているが、各国が良心回路などのないロボ兵士を開発し、戦時には実戦投入しようとしていることは常識だった。

 真奈は立ち往生しているロボの、短機関銃に目をつけた。大きな弾倉にはまだ弾丸がのこっている。機械を傷つけないよう、小さな口径だった。

 またロボにもちやすいよう、トリガーのカバーなどは外し、銃床もなかった。

 真奈は機械の三本の指をなんとかこじあけ、重いサブマシンガンを取り上げた。

「ともかくドンパチはもうはじまってるんだ。奴ら、なにするつもりなんだ。

 あんだけの人数で、本気でこのデカい地下迷宮を壊そうってのかい」

 真奈の小柄でしっかりした肉体に、アドレナリンが分泌されだした。




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