第5話

 整った顔の中で濃い三角形の眉の右側をあげ、田沢は言った。

「君は……トリニタースと言う機関、組織または秘密結社について、耳にしたことはあるか」

「トリニ、なんです?」

「英語で言うとトリニティー。日本語では三位一体。父と子と精霊だったかな」

「ああ。キリスト教のなにかかい」

「トリニタースは先進三地域、つまり北米州と中西欧、そして極東を示すそうだ。

 この三地域の有力者、どちらかと言うと極右的な政治家や革新官僚、そして国を憂う科学者や財界人の、なんと言うか相互援助組織かな。実質的には超エリートの秘密結社だ」

「エラいさんたちの親睦会ですかい。こちらにゃ別世界の話だね」

「そんなのどかなものじゃない。第二次世界大戦前のナチズム運動が秘教化したものとでも言うかな。

 いわば、世界的で科学的なトゥーレ協会……と言っても知らないか。

 ともかく奴らは、先進各国の政財界に隠然たる影響力を持ち出している」

「その目的はなんです。反国際連邦ですか」

「自然環境保護」

「へえ、いい団体じゃないですか」

「人類、特に低開発国の犠牲のもとにね。

 国際連邦は言ったように、一部の突出した先進国を目の仇にしている。得に富裕層の存在が不平等と貧困をうむ。

 それら突出した階層を弾圧し、資源と富を再分配したいそうだ。むろん自然保護なんて考えていられない。人類の平等化のためには、徹底した自然からの収奪も仕方ないそうだ。

 いっぽうトリニタースはまったく逆のことを考えている。人類の幸福のためには、貧困層を犠牲にしてでも環境を守るべきだ、とね。

 環境保護なくして、人類の未来はない。貧困と騒乱の原因はともかく人口過剰にある。貧しい地域に援助をすればさらに人口は増え、貧困と自然破壊は加速する。

 ゆえに低開発地域の放置、それどころか積極的人口削減策によって、環境を守ろう。資源はえらばれた先進国だけで分配しよう。そんなことを考えているらしい」

「……どっちの言うことも極端だね」

「そして一理ある、どっちにも。

 確実なことは、国際テロ・ネットワーク『真実の夜明け』はほぼ国際連邦の主張に従ったような行動をとる。テロの対象は主として、トリニタースが影響及ぼす国々の先端技術。太陽光発電プラットフォーム。マグレヴ新幹線駅。核融合発電システム、AIなどなど。

 欧米列強に比べて被害が少ないわが国でも、ヤシマなどが狙われている。いずれ新日本も狙われるだろう。

 かつてはオートマトン社の支社がやられた。四年ほど前かな」

「それで、あのえらくきれいなミレートスの正体はなに」

「まだほとんどわからない。日本人だとも言われているが我が国でも犯罪歴はまったくない。

 アミーカと言う女性はわが国での滞在記録はある。そもそもなぜ日本人が国際テロに参加するのか、動機が不明だ。ある情報では、もともと自然運動家で発展途上国の支援活動をしていたとも言うがね」

「あんなベッピンとハンサムさん。なにを好き好んで……」


「寒いか」

 ミレートスは、傍らで小さくなっているアミーカにきいた。

「平気、それよりもそっちの機能はどう」

「大丈夫だ」

 コックピットから髭面のパイロットが声をかけた。

「輸送機なんてこんなもんさ。もうすこししたら高度を下げる。あったかいものでも飲んで、我慢してくんな。あと約一時間だ」

 超高度輸送機は、二人の恐るべき密航者をのせて、徐々に高度を下げていく。

「次の使命がまっている。わたしは絶対、体を取り戻す」

 女性的で彫像のように整った顔が、こわばった。


「メシア計画とは、よくもぬけぬけとつけたもんだな」

 首相官邸地下の戦略会議室「シチュエーション・ルーム」で、上田はうなった。

「英語ではメサイア。ただし救世主とかのメシアとは綴りが違います。MESIAですな」

 たいそうな参謀飾緒をつるした田巻が言った。須藤軍令本部総長などの軍幹部、内閣情報管理局長などのお暦歴は、沈痛な面持ちで黙っている。

 やっと女性総長上級将帥が、重々しく口を開いた。

「特別連合部隊派遣の法的根拠は、なにかね」

「第三報告書にもありますとおり、国際的なテロ防止支援ですな。

 その延長で派遣します」

「わが国は新しい橋立を。アメリカは例のジュニアをかしら」

「太平洋条約機構から一艦。これはアメリカさんからもらったすこし古い原潜を突貫で改造してます。あとは欧州からも」

「それで田巻くん。やつらの処置はその……どうしても必要なんだね」

 そう問うた国家憲兵隊本部長将帥は、法律の専門家だった。

「これは憲法に著しく反する恐れもある。警察庁とも事前に十分な協議が要る」

「お言葉ですが、わが国のトリニタース派がおとなしくつかまってくれるなら話は楽ですわ。むしろ自ら証拠隠滅しよるやろ」

「君はいったい、なにを企てちょるのかね」

 田巻は上田の懐刀といわれている。首相は危険な「諸刃の剣」と考えている。

「生きて虜囚の辱めを受けず。受けたい奴には、より過酷な運命が待ってる。

 もともとの親玉はヨーロッパやけど、今は相当混乱してはりますな。メシア計画とそれを推進するトリニタース派をぶったたくチャンスは、今しかないのです」

 須藤は老いても整った顔を強張らせている。上田は露骨に嫌な顔を見せた。

「ま、ここまでそんな連中をのさばらせた、我々の責任でもあるがや」

「これは一種の革命です。血ぃの流れるのは仕方おへん。国内の段取りは第十課と第三課で最後の打ち合わせ中です。次回会議には提示いたします」

 政権中枢を荷う人々はそれぞれ不愉快な思いで、小心な陰謀家の顔を冷ややかに見つめる。

「そして、次の連合部隊作戦会議には、私自身が参ります」

 田巻は直立し、深々と頭を下げた。その顔はいくぶん、青ざめていた。


 八洲重工が開発したその二人乗りロボ・バイクは「クアドリーガ」と呼ばれている。ローマの四頭だて二輪馬車のことである。

 確かに四気筒の軽装甲自動二輪偵察車にはふさわしい名前だった。ただし後部座席のアンナにとっては、キャノピー内はいさか狭苦しい。

 身長百九十一センチの巨体には、確かに対応していない。ヤシマは来年、より大型化した車種の発表を予定しているが、今度は三輪になるらしい。

 それでもクアドリーガの名を継承するかどうかで、もめていると聞く。そのあたりの些細で奇妙なこだわりが、日本を今も技術王国たらしめていると言う。

 真奈とアンナは新羽田海上空港にむかいっている。クアドリーガは自動誘導システムにのって、「手放しで」空港にむかう。真奈の目の前、風防には田沢一尉の顔がうつっている。その顔を見つめていると、真奈でも安心する。

「君も行動派と言うか、あとさき考えないと言うか」

「でも自分達に行ってほしいから連絡したんだろ」

「ミレートスとアミーカが、東南アジアの空港に現れたと言っただけだ」

「ともかく航空券とアンナの積み出し許可をいそいでください。一時間後には乗れるよ」

「……特別措置でやってる。君のバスポートはあるな、しかしアンナはある意味有名人だからなあ、目立つし」

「今回は荷物カーゴで行く。そのほうがいい」

「貴様の言うとおりにしてやるよ」

「会社のほうはいいのかね」

「ロボ・メイドの件でエラいさんたちが雲隠れしているから、反対は誰もしなかったよ。高高度機で片道二時間。半日で往復できるよ」

「空港についたら高橋憲兵曹長が君たちに接触して、書類をわたす。電子チケットはユニ・コムに転送するから確認してくれ」


 新羽田は東京湾に浮かぶ巨大なメガ・フロートである。台風のときなどは自力で移動もできる。巨大な航空母艦とも言えた。

 到着すると高橋憲兵曹長たちが一切を処理してくれていた。アンナは大型棺桶のようなコンテナにはいって、荷物室。真奈はファーストクラスだった。

 アンナの長身に、日本機の座席は狭すぎた。アンナ自身が荷物室を希望した。

 五百瀬真奈には豪華な椅子が、いささか居心地悪い。かくて旅客機は静かにとびたち、一路フィリピンの中央アジア空港へとむかう。

 ファーストクラスだと、電話が使える。座席についているテレビ電話で、田沢がすこしつかれた顔を見せた。真奈はその顔を見ると、何故か安心する。

「それで、ミレートスがこっちに現れる理由は? 先進国が目標なんだろ」

「五百瀬君は、シュピーゲル計画は知っているな」

「シュピー……えっと、軌道太陽発電だったっけ」

 日米欧が共同で開発した、衛星軌道にうかぶ巨大な太陽発電パネルである。

 一つの大きさは国際空港ほどある。ドイツ語で鏡を表す「シュピーゲル」と呼ばれている。その送電は高出力のメーザーで行う。地上には直径百メートルほどのお椀状の受光装置がいるが、それをビッグ・クロッシュと称している。

「そのビッグ・クロッシュの一つをアジアの低緯度地方につくる。人工島だ。

 それもやつらの攻撃目標の一つだ」

「なんで? 太陽光発電は究極の自然保護発電なのに。そんなものまで」

「そうでもない。環境保護のために火力や原子力に変わって、核融合だ太陽光だといわれているが、技術がすすむにつれて発電コストはあがっている。太陽光発電の電力を受けるためには、ふるい原子炉の解体が必要だ。先進国側の条約でね。

 そのさい危険な放射性物質は、大気圏外に捨てる計画だそうだ。

 その技術はすべて先進国のものだ。発展途上国はますます先進国の技術と金に依存するし、紛争の絶えない低開発国は事実上放置される」

「いつもながら巧妙だね。二世紀以上アフリカやアジア、南米はずっと搾取され続けてた。

 二十世紀も後半になってやっと独立したけど、まだ搾取と支配は続いてんだね」

「それを国際連邦は是正しようとして、かなり強引なことをやっている。南北間の格差是正はけっこうなことだが、インクは強引すぎる。

 やたら紛争に介入するのは知っているね。ひょっとしたら『真実の夜明け』も、やはりそのかたわれかな」

 真奈は貨物室のアンナがすこし気になっていた。ユニ・コムに転送されているデータでは、特に異常はない。

「しかもアジア低緯度地方につくるクロッシュは、日本のお宝である先端技術を、トリニタースが漏洩させたとも言われている。

 入札で欧州の会社が落札したが、見積もりは日本のちょうど一割安く、未公開の機関技術は日本のそれと酷似しているらしい」

「先進国のなかでも足のひっばりあいかい。まったく救われないね」

 アンナはかつて、第三回世界ロボット格闘技大会バトル・ステーションで優勝した。しかし大会参加までにもさまざまな妨害工作があった。犠牲も出た。

 バトル・ステーションは各国が規定にあった格闘ロボットを開発し、戦わせる壮大なギャンブルである。世界的に莫大な金が動く。

 そして多くのギャンブルがそうであるように、ここでも大もうけをするのは主催団体に加え先進国と大企業。そして損は、貧しく刹那的な人々が分割してかぶる。


 空港は緑の多い周辺情景にとけこんだ、やや古風なものだった。アジアのハブ空港の一つで、それなりに活気がある。

 真奈はアンナをコンテナからだし、現地大使館の手助けで通関手続きを終えた。

「山際准尉よ」

 と言ってあらわれたのは、二十歳をすぎたばかりの太った女性武官だった。

 士官候補生で、この春に飛び級で統合防衛大学校を卒業し、語学の才能を生かして大使館付となってキャリアを重ねている。顔だちは悪くないが、やや肥えすぎだった。歩くたびに巨大な胸と腹が制服の下で揺れる。

「憲兵総監から軍令本部通じて協力要請がきたのよ。

 こちらが噂のアンナね。映像よりはずっときれいだわ」

 軍用の古い車輌にのりこんだ。手動運転である。

「大使館には寄れないから、必要なら近くのホテルで休んで。一応大使館付き武官と通訳の身分証はなんとか作ったわ。アンナは何ヶ国語でもオーケーよね」

「一応二十言語のプログラムがある」

「デカすぎるのはなんともならないけど」

「大使館は自分たちのことを、知らないのかい。教える必要もないけど」

「知らない。報せないほうがいい。外務省と国防省ってあんまし仲がよくない。でも情報統監部は外務省内部にも情報網持ってるって。

 国家憲兵と情報系も競合するしね。ちなみにわたしは軍政部所属なので、お役人たちとはけっこういい関係なのよ」

「セクションが変われば敵どうし。むかしもいまもかわんないか」

「お父さん、マタギだって? かわってんのね」

「爺ちゃんがそうだった。おとうは山の案内人で、遭難しちゃった」

「そう……うちの親はあいかわらず地道な役所づとめ」

 などと他愛もない会話をしつつ、車は南下して行く。

「見えたわ。あの島よ」

「島の、どこだい?」

 沖合いにうかぶ人工島そのものが、巨大な銀色のお椀をさかさにしたような受光システムだった。いまその建設がすすみ、仕上げ段階に入っている。

 対岸のこちらには粗末な作業小屋がたちならぶ。まだ二十世紀のような景観で雑然とした下町に、人とものが溢れている。

「狙われるとしたらあれね。厳重に立ち入り禁止になってる。

 でも現地政府はどっちかつうと『真実の夜明け』に好意的だし、ビッグ・クロッシュが壊されても被害をこうむるのは欧州の建設会社よ。

 ここだけの話、日本政府もひそかに工事が失敗すればいいって思ってるかな。基幹技術は日本から盗まれたものらしいし、いろいろと裏でよくない噂もあるわ」

「でもどうやって警戒厳重なあそこにわたるんだろう。そもそもこんだけ人が集まってるなかで、二人を見つけるのって」

「警察の監視システムに侵入できれば、各地の監視カメラの画像を解析できるぜ」

「現地政府の協力がないと、たちまち逆探知されるわよ。

 日本との関係はそこそこいいから、絶対に現地政府を刺激したくないの。だから大使館にはないしょなのよ」

「そう。ともかく一休みだね。今はまだコトが起きてない」

「ホテルでシャワーでも浴びる?」

「それより腹減りましたよ。なんか地元のうまいもん、ないっすか」

 山際准尉は地元の料理をご馳走してくれた。アンナは飲み物を飲むふりだけをした。大食漢の真奈も、多少呆れるほど准尉はよく食べる。品は遥かによかった。

「どう。おいしい?」

「多少味が濃いけど、うまいですよ。准尉閣下は、希望してこんなところへ?」

「本当は虫とか軟体動物が大嫌いなわたしは、ヨーロッパとかに赴任したんだけどね。駐在手当てはいっしょだから、物価の廉いここのほうが贅沢できるわ」

「そう。自分は山育ちだから、虫でもなんでもなれてる。動物は大好き。

 むしろ都会の汚れた空気と、化学調味料がにがてかな」

「化学調味料? 珍しいものが苦手なのね。

 あとは怖いものなしか。バトル・ステーションでは危険極まりない戦場にはいって指導してたんですってね。たいした度胸ね」

「怖いものはあるよ。自分は雷が大きらいだ」

「かみなり? 雨季には多いよ、こっち。わたしはスキッとするけどね」

「雷は山神さまの怒りなんだ。恐ろしいったらありゃしない」

「そう……」

「真奈。道路の交通量に混乱が発生している。

 パトロールカーのサイレンが市街中心部に集まっている」

「なんかあったのかい」

 もぐもぐと口を動かしつつやや太った准尉は、ポケットから小型ノートのような情報端末をとりだして広げた。厚さは数ミリあるが、折っても丸めても元に戻る。

「大変、裏をかかれた。相手の目標は受光クロッシュじゃなかった!」

「どう言うことです?」

「大使館からの連絡では、クロッシュからの電力を安定させて送電する中継ステーションに爆弾をしかけたって」

「そのステーションてぇのは、はどこにあるんだい」

「こっちがわ。近い。普通の送電システムの容量をデカくしたの。既存の施設だから、地元警察や警備会社も油断してた。

 ここをやられたら、膨大な電力を送る手段がなくなるわ」

山際准尉に続いて、五百瀬予備一等曹長が立ち上がった。

「わざわざ予告して人間を退避させるなんて、やっぱりあの色男だね」

 真奈は助手席、アンナは頭を下げて後ろに乗り込む。

「メシアなんていわれてんですか、こっちでは」

「発展途上国にとってはね」

 海辺の送電施設は二十年ほど前に日本の支援でつくった、大きなものだった。

 地元警察と軍部隊が取り囲んでいる。周囲はマスコミと野次馬でごったがえしている。車は警備線でとめられ、近づけない。

 山際准尉は別の道を探した。

「これじゃ近づきもできない」

 山際はふと、大型司令車の前に立って無線をつかっている男に気付いた。

「地元の警察副署長だわ。まってて」

 ざっくばらんだが人のよさそうな准尉は、運転席から降りた。そして浅黒く、口ひげを蓄えた男と数分ほど会話して戻ってきた。うれしそうである。

「来て。アンナって有名だね。副署長もアンナにかけて、けっこう儲けたって」

 真奈もアンナも、窓のないバスのような六輪司令車にはいった。中は移動司令部で、各種機器とモニターが所狭しと並んでいる。

 准尉は達者な英国英語で交渉し、口ひげをたくわえた副署長に許可をもらった。

 そして移動司令部の隅に立つ、古いタイプのなにかの機械を指差す。

「アンナ、ここのコネクターつかえるかしら」

 アンナはうなじの髪の毛の下から、長いコードを引き出した。

「七号サイズのものがあれば接続可能」

 アンナは自分の胸にある主コンピューターと、司令車のメインコンピューターをつないだ。

「接続コード自動検出。障壁無力化。接続した。全監視カメラの解析をはじめる」

 何十時間にもおよぶ何十箇所のカメラを、即座に精査するのである。

 しかしさほど時間はかからなかった。

「真奈、モニターを見てほしい。輸送飛行機用の滑走路のカメラだ」

 サングラスをした男女がうつっている。あの美しい顔立ちは隠しようもない。そのとなりはあのアミーカに間違いなかろう。さほど念入りに変装はしていない。

「これで決まりだね。でもこいつらはもういい。

 送電施設の中のカメラからの映像は」

「障壁の突破に少し時間がかかっている。セキュリティーは厳重だ」

 准尉はまた出入り口の副署長と交渉しだした。副署長はしぶい顔をしている。

「なにやってんの」

「送電施設内のカメラ映像、過去二時間分をこっちに欲しいって頼んでいるの。

 所員は全員退避したけど、あの送電施設をうしなったら、何ヶ月も停電だわ」

 結局副署長はどこかに電話して、指示とやりのことを行った。警戒厳重な送電施設児童警備システムから、移動司令部のコンピューターに画像が送り込まれる。

「真奈。この映像。男のかっこうをしているが顔の骨格から女テロリストだ」

 アンナが探し出した画像には、警備会社の制服とヘルメット姿の人物が大きなトランクほどのケースを運び込んでいる。

「本当だ。これ、あのアミーカって女よ」

 次のシーンではアミーカだけが、通用口から出てくる」

「まちがいない。身長と顔の輪郭が九十五パーセント以上一致している」

「よし、行こうぜ戦友」

「待ってよ。いつ爆発するか判んないわよ」

「奴等はコト起こす前に警告するんだ。職員ごと吹き飛ばすなんて真似。しない」

「危険物は除去する。失敗してもコア・レコーダーに全記憶が残っている。

 再生は可能だ」

 二人とアンナは移動司令車から出た。南国の太陽がまぶしい。

「でも……野次馬でいっぱいだし、警戒線を突破できないでしょ」

「アンナ、肩貸しな」

 心得たように、アンナは片膝をついて項垂れた。真奈を肩車するとたちあがり、長身のアンドロイドは走り出したのである。

「ありがとう。准尉さんは観察してて、なにか危険があったら教えてよな」

 あっけにとられた准尉は、我にかえって司令車に戻った。



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