第3話

 真奈たちは新宿はずれのカフェで一時間ほどすごした。

 やがて真奈のユニ・コムに、田沢からのメッセージがはいった。

「さすが国家憲兵隊だね。泣く子も黙るって言うけど、確かにこわいよ」

「わかったの。場所は?」

「特別区の北のはずれ。遠くない。行こう」

 あたりはすっかり暗くなっていた。雑然とした街をぬけた半ロボット化バンは、比較的すいている自動車道を北上する。

 半時間以内に古い住宅街のはずれについた。震災前からの郊外住宅で、町外れ には雑木林もある。林のむこうにはこれまた古い、精密機器の解体工場があった。

再利用やレアメタルの回収のために、高性能部品を分解しているのである。そこそこ広い工場だが、人の気配はない。バンはすこし離れたところにとまった。

「アンナ、警戒システムは」

「通常のものだ。厳重ではない。正面の大きな工場に二人。

 さらに奥からも機械の作動音がする」

「ここでまちがいないのね」

「解体工場は表向き。この奥が裏家業だよきっと。

 表から入ったんじゃ、逃げられるね」

 赤穂技師はバンの助手席で液晶モニターを広げた。そして会社が契約している多機能情報衛星を呼び出したのである。特殊な使用にはお金がかかるが、菅野に「緊急事態です」と電子メールで申請しておいた。

 静止衛星はこの解体工事を映し出す。赤外線モードに二酸化炭素の密度測定などを加えると、ぼんやりと人間の位置がわかる。

「真奈、聞こえる? やっぱり奥に二人。表の二人は無関係かもしれないから裏口に回って。出てきたところをつかまえればいい」

 アンナと真奈は雑木林の中をすすむ。すっかり暗かったが、真奈は夜間戦闘が得意だった。

「アンナ、入り口わかるかい」

「木立のむこう、かすかに明かりが漏れている」

 近づくと粗末な建物に、古いアルミのドアがある。

 二十世紀末によく見られたタイプだ。

「警報装置は」

 アンナは壁面を見回した。

「ほぼない。このドアに原始的な警報が取り付けられている」

「まかせな」

 真奈はいつもはいている短ブーツから小さなナイフのようなものを取り出した。トビラの隙間にさしこむと、一分ほどでなにかの回路を切断した。

 古いドアは簡単にあいた。中は薄暗く、雑然とした倉庫だった。各種の機械の一部や、マネキンのようにロボットが数体、おいてある。

「これ、すごいな」

 真奈はふるぼけた棚を見つけた。そこには生首よろしく、さまざまな顔が並んでいる。中には有名俳優やアイドルのものもあった。いずれも本物そっくりである。

「まったく、危ない商売だね」

「真奈、奥から人が来る」

 小さな工房につながるドアがあいて、初老の男が出て来た。後ろにむかって声をかける。

「じゃ、迎えにいってくる。十分ぐらいで戻るから。大金期待してな」

 白い髭を生やした職人風の人物は、車の鍵を回しながら出ようとして、ふと気付いた。棚の横に、やけに大きなロボットが立っている。目を見開いて動かない。

「……なんだ新しい仕事か。やけにデカいな。

 顔立ちは完璧だから、背を縮めてくれってえのかな。そりゃ無茶だ」

 ふりむいて声をかけようとして思いとどまった。首をふりふりアルミのドアから出て行く。立っていたアンナの陰から、真奈が顔をだした。するとまた奥から三十まえぐらいの陰気そうな人物が、前掛けで手をふきつつ現れた。

 そして佇むアンナを見つけて、驚いた。しかしひと目でそれが人間ではないと見抜いた。

「へえ、大将またスゴい仕事を引き受けたな。

 こいつあ完璧だ。例のアンナそっくりじゃないか。最近顔を似せてくれって仕事増えたけど、体までつくりこんだのははじめてだ。ちょっとしたブームだからいい金になるけど。

 ……しかしいい顔だねぇ。誰が原型つくったのか、男心をビシビシ刺激するよ」

「アンナの顔にしてくれって注文、かなりあるのかい?」

 驚いてふりむくと、真奈がいた。飛びのいた陰気で痩せた男は、しり餅をついてしまう。

「あわてないでいいぜ、とって食うわけじゃない」

 真奈は近づき、腰をかがめて見下ろした。普段は季節にかかわらず薄手の開襟一般シャツである。その下で、大きすぎる胸が揺れた。

「あんたたち、木下ってオッサンのために特注の顔を作ったね。

 ヤバい金融業者の。知ってるだろ」

「き、木下?」

「ああ。金払いはよかったろ。そう、このあいだ死んぢまったけど」

「な、なんだあんた。知らないよ。くわしいことは親方に聞いてくれ」

「あんたたちが顔を不正改造したロボ・メイドだよ。

 発注者の木下が、撲殺されたのは知ってるよな」

「ああ。ニュースで見た。犯人は判んないって。

 でも俺たちは関係ない。残金さえもらえば、おしまいだ」

「残金? 木下からかな。それとも、メイドに小細工を頼んだ誰かかしら」

「小細工なんてできない。せいぜい体型と顔をかえるぐらいだ。……ただ」

「ただなに」

「セールスしてくれって頼んだヤツがいる。

 その木下ってスケベエに電子パンフレット送りつけて。三ヶ月以上前だ」

「どんな人かな」

「女だ。サングラスで顔はわかんないけど、大金を払ってくれた。

 サンプル写真といっしょにパンフをおくったんだ。あなたの思い出の人、憧れの人の顔に改造しますってね。そしたらさっそく返事が来てね。写真一枚から、顔が作れるかって」

「だれの顔だよ」

「むかしの秘書とか言ってたな。かなりふっかけてやったけど、のってきた」

「それでパンフすすめた女はどうしたんだい」

「その美人秘書のもっと鮮明な立体写真とか持ってきやがった。そっからかなり丁寧に作りこめたんだ。生身の人間そっくりにな。

 そしたらやっこさん大喜びで」

「納品したのは、いつかな」

「に、二ヶ月かかって仕上げて、先月だったかな。親方と都心の豪華マンションに運んだよ。それからのことは知らない、本当だ」

「それで残金って、なぜその女が払うんだい」

「わかんないよ。立体写真とかの全データを消去したら、金をくれることになってる。もちろんそいつが来たことも秘密だ。忘れることにしてる」

「アンナ、どう思う」

「現在のデータでは確実な推測ができない。

 しかしこの人物は本当のことを話している」

「ア、アンナ? これ、本物の?」

 胡散臭そうな男は突然元気になり、立ち上がった。

「これが第三回国際大会バトル・ステーションの覇者、アンナなのかやっぱり」

「あんまり近づくんじゃないよ。その女ってのは」

「アンナ……本物かよ。信じられないよ。やっぱきれいだなあ。ははははは」

「真奈、車が停まった」

 ほどなく親方が「客人」を連れてもどってきた。ドアのむこうで声がする。

「だから全データは消去しましたって」

「この目で確認したいわ。記憶バンクをのぞかせてもらうわ」

「こっちの商売道具ですぜ」

 と親方はドアをあける。

「ありゃ、鍵がこわれている……」

 中にはいると、陰気で貧相な弟子がつっ立っている。

「おい、お客さんだ」

 親方の後ろからはいってきたのは、夜中でも偏光サングラスをかけ、つばの広いキヤップをかぶった黒っぽい女だった。

「あの、親方。こっちもお客さんが」

 横手から真奈が現れた。

「な、なんだあんた」

 後ろにいた女が、とっさに左腕のユニ・コムにささやく。

「ミレートス。ちょっと厄介な事態みたい」

「そのうしろの女の人に用がある」

「これはどう言うことかしら」

「わ、わしゃ知らん。誰だおまえは。すぐ出て行ってくれ」

「違法なアンドロイド改造。警察にチクってやろうかい」

「な、なにを……」

 黒っぽい女は親方の前に出た。グラマラスで、均整がとれた姿態である。

「わたしになんの御用かしら」

「あんたかい。殺された木下ってヤバい奴とどう言う関係なんだい」

 木下の名をきいたとたんに女の顔色がかわった。手をうしろにまわして小型拳銃を構えた。そのとたん、横手からアンナが飛び出して真奈の前に立ちはだかる。

 発射された弾丸はアンナの人工皮膚にめりこんだ。つづいて数発撃つ。アンナはダッシュして飛び上がり、女の目の前に降り立つと同時に、拳銃を取り上げた。

 唖然とするサングラスの女。

「そう、人間は攻撃できないんだっけ」

 突然アンナにまわし蹴りをくらわす。さしものアンナもよろめくほどの力だ。

「アンナ、ドアだ!」

 踵を返して逃げようとする女。アンナは手近にあった金属のクサビのようなものを、投げつけた。女の横をかすめて、ドアノブにあたってそれを破壊してしまう。

 女はふりむいた。すこし日本語が怪しいかも知れない。

「人間は攻撃できないくせに」

「直接ダメージを与えない程度の行動は許可されている。防衛措置の一種だ」

「木偶っ!」

 女も突進して来た。飛び上がると天井の梁につかまり、両足でアンナの胸に強烈な蹴りをいれたのである。

 足の長いアンナはバランスを崩して、仰向けに倒れてしまう。

「くそう」

 真奈も突進した。女が飛び降りたところに新近接格闘術で掴みかかった。突き出した右拳を女はなんなくかわし、手刀を真奈に食らわそうとする。

 それを左肘でうける真奈。つづいて右ひざ蹴りが真奈の腹を打った。「ぐふ」と数歩後退した真奈は、負けずに飛びかかった。

 逃げようとしていた女は身をひるがえして、真奈の顔面に突きを食らわせる。それを右の腕ではらいつつ、真奈は左手を振り回した。左手の先が女のサングラスをふきとばした。はっとする女。真奈も驚いて硬直した。

 その顔は、主人を殺して「身投げ」したあのロボ・メイドそっくりなのだ。

「アンナ、記憶して」

 女はしまったという表情で踵をかえし、ノブの壊れた古いドアに突進した。そしてこれまた古いドアガラスを突き破って外へ転がったのである。

「逃がすか」

 真奈も立ち上がり、ドアに飛びついた。しかしノブがなく、あかない。

 起き上がってきたアンナがやってきて、軽く蹴った。ドアは外へと倒れた。

「追跡は危険だ。相手の勢力がわからない」

 親方の自動バイクの後ろに、小型車がとまっている。女はそれめがけて走った。

 助手席にあわててのりこんだ女は、運転席の人物に報告した。

「木下のことをかぎまわってるヤツがいた。出してっ!」

「……まずいな」

 落ち着いているが甲高い、少年のような声だった。運転席の人物は角刈りの東洋系で、女性的で美しい顔立ちだった。背はさほど高くなく、唇が厚くて艶かしい。

「待てっ!」

 道路にとびだした無謀な真奈を、小型車のライトがとらえた。急速に真奈に接近する。このまま跳ね飛ばされるしかない状況だった。猪突猛進型の山女は、死を覚悟した。しかし小型車は巧妙なハンドルさばきで、真奈をさけて走っていく。

 やや唖然とした真奈だったが、すぐ気をとりなおした。車道にでてくるバンを見つける。

「アンナ、追うよ!」

 走ってきたアンナとともに、赤穂浪子の運転するバンに乗り込んだ。

「追跡モード全自動。あの小型車を追えばいいのね」

「助かりますよ。あいつらが鍵だ。それにしてもなんで………。

 アンナ、さっきの女の顔はしっかり記憶したね。あの車も覚えておいて」

「なにがあったの」

「あの女が、木下にメイドの顔改造をすすめやがった。しかも自分そっくりに」

「なにそれ、どう言うこと」

「わかんねえよ、まだ。とっちめて聞き出してやる」

 小型車は半自動運転でかなりの速度を出している。自動警告装置が道端で光る。

「やつらどこ行くつもりかな」

「真奈。ダクテッドファンの音が接近。九時の方向だ」

 窓から見上げると、黒いダクテッドファン機が急速に接近してくる。

「危ない、攻撃してくるかい」

「武装はしていない」

 統合自衛部隊ご自慢のダクテッドファンVTOL機は、機体の両側と後部に推進器を備えている。両側の推進ファンが垂直から水平に動き、離発着する。

 しかし民間にはほとんど販売されていないはずだった。機は接近すると、先行車の直上を平行してとぶ。統自では「あまこまⅡ型改」と呼ばれるタイプの試作型機体の底になにかが装着されているのを、アンナは確認した。

 それがゆっくりとおりてくる。巻き起こす風が酷い。

「工業用の大型の吸着盤と推定される」

 細いワイヤーにつるした吸着版は、真下の路上を同速度で走る小型車の天井にすいつけた。

 中の空気を抜いてしっかりと吸着すると、そのままダクテッドファン機機は飛び上がったのである。小型車も中空に浮かぶ。

 ダクテッドファンVTOL機はワイアーをまきとりつつ速度と高度を上げ、小型車もろとも南西の空へと飛び去ってしまった。

 真奈たちにはどうしようもなかった。やがて浪子は速度を落とした。

「……敵もさるものね。でも、どうして攻撃してこなかったのかしら」

「あのとき、自分をひき殺すこともできたのに。ともかく今夜の出来事、国家憲兵隊に報告しとかなきゃ。これでロボ・メイドの無実をはらせるかもしんないよ」


 その店は第二次大戦のUボートの艦内を模した、狭苦しさがマニアには有名なビアホールだった。

 その「ミスター・デーニツ」には、ティーシャツ姿の女性がバーテンダーをするカウンターとは別に、「艦長室」と呼ばれる狭い個室もあった。

 情報統監部次長の田巻古参二等佐官の行きつけの店である。この日も、その艦長室で一人、モーゼルワインのグラスを傾けている。

 部署での宴会や上田首相との会合以外、友達もいないこの策謀家はたいてい一人で飲む。そして酒はさほど強くなく、酒癖も悪い。

 田巻はユニ・コムことユニヴァーサル・コミュニケーターではなく、タバコ箱大の携帯端末を机の上においていた。薄いモニターに部下の顔が映る。

 同期入隊幹部では真っ先に二等佐官になったが、同期では十歳近く年長だった。

「そうか、またミレートスが動いたか。犠牲者がでなかったのは幸いだが、あまりこの国で好き勝手やってもらうのもなあ。今は大事の前、波風はたてたないが。

 ひきつづき監視を続けてくれ。例の五百瀬いおせちゅう山女が、抗メシア計画の障碍とならないようにな。なんぼ名高きアンナのトレーナーや言うても、人類にとって重要な作戦を妨害しそうやったら、遠慮はいらん。

 いや、別に始末せぇ言うことやないえ。政治的な圧力や。それにアンナは大切な国の宝や。巻き込むのは御法度やし」

 田巻は通信を終えると、今度は発泡ワインであるゼクトを注文した。

「……なにが人類救済のメシア計画や。トリニタースもろとも、ぶっ潰したる」


「なに! この女……」

 端正でたのもしげな顔の憲兵一尉は、アンナの記憶したデータを見てうなった。

「アミーカだ。国際指名手配になっているが、素性はほとんど知られていない。

 輪郭と耳の形から間違いないと、コンピューターも判断した。これだけでもお手柄だよ」

「アミーカ? なに人です。日本語は達者でしたが」

「国籍は不明。日本で暮らしていたことは確かだ。

 見たとおり、ハーフかもしれない」

「それよりも田沢一尉、例のロボ・メイドの顔を映し出してくださいよ」

「いま修正している。後姿と横顔が多くてな」

「あと、男性らしき人物が運転していましたぜ。自分を跳ね飛ばそうと思えばできたのに、あえて危険な瞬間手動運転で、自分を避けたよ」

 国家憲兵隊本部の田沢執務室は、質素と言うより殺風景だった。

「……ミレートスか」

「だれです?」

 壁面一面のスクリーンに、東洋的で美しい顔が浮かび上がる。

「正体不明の超人的なテロ・リーダーだ。ここ数ヶ月各地で目撃されている。

 高性能機械や施設、ロボットなどは冷酷に破壊する。しかし不思議と人間に危害を加えようとはしない。それどころか、傷つけることを避けようとしている。

 まあまき添えくった警備員、警官なんかはいるが、いまのところこのミレートスが直接かかわった死者はゼロだ」

「不思議な人。女顔だけど、男なんですよね」

「体格から見て間違いないだろう。もっとも相当肉体をいじっているらしい。サイボーグかもしれないが、一介のテロリストにできることじゃない」

 自己細胞をつくっての臓器クローンや、安全な人工臓器の開発もすすんでいる。 しかしまだまだ高価である上、先進国のごく一部の先端病院でしか扱えない。ミレートスの「活躍」が最初に記録されたのは、一年ほど前だという。その正体、経歴含め一切不明だった。

「お、ロボ・メイドの復元ができている。お待ちどう」

 うつしだされた顔は、すこし日本人ばなれした美人だった。

「見てください。アミーカってヤツにそっくりです」

「本当だ。生き写しとはいかなくても。どう言うことだ」

「なるほどね。アミーカって女はもぐりの業者に金をつかませて、自分そっくりにロボ・メイドを改造させたんだよ」

「でも木下はそれでよくオーケーしたな」

「だったら木下の好みをなんとかして知って、自分も整形したかな。

 なんか写真をもらったとか言ってたから、芸能人かなにかかな。

 ともかくアミーカって女は自分そっくりにロボ・メイドを改造させて、木下に仕えさせたんだよ。それであの晩、すきを見てメイドと自分が入れ替わったんだ。アンナ、廊下の映像」

「これが室外推定時刻五分前に、同じフロアのエレベーター付近の映像だ。

 自動カーゴが奥へむかっている。タイアの沈み具合から、五十キロ以内程度の荷物を運んでいると考えられる。そしてこれが事件直後。貨物用垂直リフトにはいる自動カーゴだ」

「やっぱり五十キロまでの荷物を、コンテナの中に抱えているってさ。

 なにかを届けたわけじゃないんですよ」

「つまりこのカーゴの中に、アミーカが?」

「そう。コントローラーで電源きって入れ替わり、木下をクラブで撲殺したんだ。 メイドをベランダまで運んでいって、突き落とす直前に再起動させたんだよ」

「……ハードデータの破壊のためか。メイドの重さは九十キロほどあるが」

「あのアミーカって女、相当鍛えてやがる」

「周到に準備したわけか。直接証拠はないが、壊れたメイドについていた指紋やその他の付着物をもう一度洗いなおすよう、警察にかけあうか。自信はないが」

「なぜです。あらたな証拠があるってのに」

「君も統合防衛下士官の後備役だから判るだろう。お役所仕事と言うものが。

 一度結論が出たらおいそれとは修正しない。先輩や上司が決定したことを覆して、恥をかかせるようなことはできないんだ。

 たとえそれがどんなに間違っていたとしても。

 まして警察とわれわれ憲兵は表面的には連帯しているが、知ってのとおり犬猿の仲だ。それに今回の件では、国家憲兵となにかと対立する情報統監部が横槍を入れてくる」

「役所どうしの対立なんて関係ないよ。自分はアンナも含めたロボットの名誉を守りたいんでね。殺人ロボなんて汚名を、晴らしたいんです」

「おいおい、ロボットに名誉かい。ともかくわたしは理解した。なんとか国家憲兵総監から話をいれてみる。

 ただ問題は、なぜ木下がアミーカそっくりの顔に満足したかだ」

「アミーカが、木下にメイドの顔を作り変えるようにパンフ送ったそうですよ」

「そのモグリの業者を叩いてみるか」

「そんなことしても無駄だよ。なんかデータ消したって親方も言っていたし。

 それよりもアミーカって奴のことを洗ったほうがいい」

「われわれは『真実の夜明け』に関するデータをそろえているわけじゃない。

 国内のテロ対策は警備公安と、中央資料部隊の管轄だ。現行犯での逮捕権はあっても、捜査権は警察や警務隊にある」

「管轄とか上司とか。あいかわらずですね。一尉殿がビビルんだったら、警察庁総合ファイルのアクセスコードを教えてください」

「そ、そんなもの教えられるか」

「やっぱり知ってるんだね、蛇の道はヘビで」

「それはその……」

 太目の眉毛を震わせていたが、やがて法務一尉は、真奈のユニ・コムにデータを転送した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る