025

テレビの中でしか見たこともない輝きは、二度目だから驚くことでもない。

相変わらず悪趣味だとは思うが。

職員室に入った時のように声をかけるべきか少し悩んだが、目の前に広がる光景に悩むのも馬鹿らしくなった。

玉座の近くにある椅子に座り、楽しそうに談笑している光助と王様たちの姿が目の前にある。

随分と仲良くなったらしい。

仲間はずれにされても一向に構わないし、どうでもよかったけど、分かりやすい態度の違いが可笑しくてたまらない。

馬鹿らしい。可愛らしい。

幼子が分かりやすい嘘を吐くのを見守っているような気持ちになる。

くつくつと声を潜めて笑いながら、とある考えが思い浮かんだ。

そんなに俺のことが邪魔なら理由をつけて追い出すことくらいできるはずなのに、どうして追い出そうとしないのだろうか。

そう考えると、何を考えているのか分からない王様たちが少し不気味に思えた。

俺がいなくなったら、光助が俺を追いかけるかもしれないから追い出さないだけだろうけど。

それだけ王様たちは光助を手放したくないのだと思うと、滑稽にさえ思えてきた。

本当に随分と気に入られているようで。

 そんなことを考えながら扉の前で立ち尽くしていると、会話に参加していなかった因香と名乗っていた少女が何かに気づいたかのように此方を振り向いた。

彼等を見ていた俺の視線と彼女の視線が交わる。

彼女は驚いたように目を見開いてから、何かを確認するように此方を見始めた。

あまりにも此方をじっと見てくるので、不思議に思って首を傾げてみる。

彼女に嫌な思いを抱かれない様に優しい笑みを浮かべながら。

俺と彼女には接点が無いから、どうして此方をじっと見るのか考えても思い付かない。

いや、光助と関わりがあるから興味があるだけかもしれないが。

一言も発さずに凝視し続ける彼女は何かを言いたげに口を開き、少し迷ったように視線をさ迷わせてから、何も言わずに口を閉じた。

その行動を不思議に思ったが言葉にはせずに、彼らに近づくために足を踏み出す。

もしかして、彼女には人工精霊が見えているのだろうか。

ちゃんと姿を隠すように言っておいたのに、姿が隠せていなかったとか笑い話にもならない。

目だけを動かして周りを確認してみたが、姿は見えなかった。

魔法があるくらいだから、特別な能力があっても可笑しくないのか。

何の知識もない自分では判断することができなかったので、考えるのを止める。

少しの間、お互い見詰め合っていたが、彼女の視線が違う場所を向いていることに気が付いた光助が彼女に話しかけた。

「因香ちゃん、どうしたの?」

 その問いかけに因香は少し嫌そうな感情を瞳の奥に隠しながら光助を見た後、無言で俺の方を指差した。

その指の先を辿るように光助たちが此方を見る。

俺は因香の指を叩き落としたい気持ちと、今すぐここから離れたい気持ちになった。

動かしていた足も止まる。

俺を視界に入れた光助が、嬉しそうに笑った。

「十夜! いつの間に来ていたんだ? 話しかけてくれたら良かったのに」

 爽やかに笑いながら、そう言った光助に俺は「光助たちと話すのが面倒だったから、話しかけなかった」と本音を言いそうになったが、柔らかく包み込む様にして言葉を吐きだす。

「さっき、来たばかりなんだよ」

 ああ、面倒くさい。

当たり障りない言葉に光助は納得したようで、笑いながら頷いた。

「今、来たばかりだったら仕方ないよね。まだ食事も話し合いも始まってないから大丈夫だよ」

 これ以上、食事を抜くのは嫌だったから、その言葉に安心する。

そもそも、ここに来たのはそれが目的だったしな。

人間は一週間くらい食事を抜いても平気らしいが、食べたくない訳ではない。

というか、絶食とか死んでもしたくない。

「間に合ってよかった」

 心の底からそう思って呟いた。

自然といつもより柔らかい笑みを浮かべることができた気がする。

小さく呟いた言葉は誰にも聞こえなかったのか、光助からでさえ何も返ってこなかった。

だが、俺の笑みを何と勘違いしたのか光助に笑いかけられる。

その笑みはどこまでも純粋に俺を慕っているのが分かって嫌な気持ちになる。

ああ、本当にこいつの相手をするのは面倒くさい。苛々する。気持ち悪い。

何も言わず歩き始めれば、光助は自分の隣の席を指差し、こっちに来いと笑いながら言った。

王様も笑いながら、内心は何を考えているのか分からないが、此方へ来いと託す。

「宵野様も、どうぞ此方へ」

 王様の笑顔を怪しいと思いながら、光助が座っている席の隣には座らず、一つ間を開けて椅子に座った。

「それでは、食事を始めましょうか」

 王様がそう言って手を二、三度叩くと、近くで待機していたのだろう女の人たちが部屋の中に入ってきた。

大きな扉からではなく、部屋の中にある隠し扉からスープを手にして現れる。

女の人たちは目の前に真っ赤なスープをおくと、一礼してから去っていった。

その様子をぼんやりと見ながら、王様の手を叩く音がよく聞こえたなと違うことを考えていた。

近くで待機していたと言ってもあんな小さな音が聞こえるのだろうか。

侍女のような立場だと分かる人がこの部屋の隅で何もしないで立っているから、この人たちが合図を他の人に伝える役割を果たしているのかもしれない。

自分が入ってきた扉からではなく、分からない様に隠された扉から出入りしているのは料理を素早く届けるためだろう。

「美味しそうだね」

 光助が嬉しそうに言った言葉に、俺は内心で同意をするか少しだけ悩んだ。

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