022

 得意気にも、自慢げにも、見下す様にも、馬鹿にするようにも見える表情で笑っているそれを、少しの恐怖を瞳の中に隠しながら彼女は見ている。

その状況を観察するように見ている俺という変な図になっているけど、他の人が見たらどんな反応をするのか考えるだけなら楽しい。考えるだけなら。

彼女は何を言い出すのか考えて黙っているのだろうか、それを睨む様に見て唇を噛んでいる。

彼女は唇を舐めて、息を吐いた。

言いたいことが纏まったのだろうか。

「…………頂点に君臨するなんてことはブルーメの法王だって、ネージュの長だって、ディアの頭領だって、ムノーガの女王だって、竜だって、魔族だってできはしない。この世界の頂点に君臨するのなら、世界にいる全ての生き物よりも強くなくてはいけないのだぞ。何よりも、誰よりも、強くなくてはいけない! そいつが類まれなき天才だったとしても、世界の頂点に君臨するなんて無理に決まっている」

 その言葉に、それが苦々しく笑った。彼女が製作者のことを甘く見ていることに気が付いて、笑顔を取り繕っているのが分かった。

俺はほとんど知らないが、それでも魔法使いさんに才能があることは分かっている。

というか、今、実感しているところなんだが。

彼女は魔法使いさんのことなんて見たこともないのだろうか。

もし、見たことがあっても本当の実力なんて知らないのだ、きっと。

そんな風に考えていると、彼女が俺を睨んできた。

「お前なんかが、頂点だなんて名乗るのもおこがましい」

俺の顔を指差しながら、そう言い切った彼女にため息を吐きたくなる。

そもそも勘違いしていた。製作者が俺のはずないだろうが。

拍手をして褒め称えたいほど素晴らしい勘違いだ。

話し、聞いてないのか? こいつ。

「……俺は」

製作者じゃないんだけど。

そう言葉を続けようとしたのだが、

「あのお方は天才だなんて言葉で片付けられる方ではない。あの方の力は誰にも勝つことはできないのだから」

俺の言葉を遮るように、それが言葉を発したせいで最後まで言い切れなかった。

冷ややかな、意地の悪い笑みを口元に浮かべながら、それは彼女を見下ろしている。

さっきと同じようなことを言っているけど、彼女は話を理解できているのだろうか。

彼女が口を開いて何かを言う前に、無視されない様に少し早口で割り込むように言った。

「あのさ……もう部屋に帰っていい? 俺、もう疲れたんだけど。……あー、貴女が何て名前か聞いてなかった。貴女がこれと話したいのなら、また会うから今日はもういいだろ?」

正直にそう言えば、彼女は目を見開いて俺を見た。

唇を噛んでから、慌てたように俺に向かって言う。

「用があるのはお前のほうだ! こいつのことなんて、どうでもいい!」

 叫ぶように、彼女は言葉を吐く。

落ち着くために息を吐き出した後、

「しかし、君の言うとおり、結構時間がたっているな。そろそろ俺の部屋に食事を持ってくる奴が来るし、君も飯を食う時間だろう。本当に、面倒くさいことだ。」

 と、笑う。

「そういえば、名前を名乗ってなかったな。俺の名前はマリア・メディア。君の言う通り、また会いに行くことにするよ」

子どもの様に笑ってから、彼女は俺の横を通り抜ける様に走っていった。

彼女の遠退いていく背中を見ながら、小さく呟く。

「……約束なんてしてないから、逃げるけどね」

彼女に届いたのか分からなかったが、きっと届いてないだろう。

適当に言った言葉で喜ぶなんて単純な奴。

はあ、息を吐いたのと同じタイミングでぐう、と腹がなった。

そう言えば、話し合いの後は皆で食事をとるって光助が言っていた気がする。

部屋に帰ってもいいが、これ以上食べ損なうと空腹で頭が動かなくなるだろう。

これでも一応、育ち盛りの学生だしな。

「戻るか」

本当は王様たちに会いたくないけど。

俺は足を引きずりながら彼女の後を追いかけるように歩きだした。

その様子をそれが楽しそうに笑っているのに気が付くことはなく、俺はさっきまで歩いてきた道を引き返していく。

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