世界になりそうもなかった。
須比智邇達は世界を目の当たりにしていた。
世界と表してはいるけれど。
「うっかりを繰り返すにも程があるものと常々思っていたのだけれど・・・」
ぽつりと溢してしまう。
私のひとりごとに呼応したのか同時に同じ感慨を得てしまったらしい。
「何ーにも無いじゃんかーっ。」
宇比邇がむくれながら何にも無い場を前に何も無い筈の足元に地団駄を踏み捲っている。
すかすかと空振りの地団駄を踏み続ける宇比邇。
世界に為らない事が解ってしまう弟妹の二人。
長兄の国之常立が開闢を為したこの世界の基礎や素となる砂泥を配する事が双子の弟妹であるスーとウー(須比智邇と宇比邇)の為すべき事だった。
私達がやってくる前に次兄の雲で満たされ、やがて大雨となり世界に必要な水が大量に生してある筈だった此処は、ウーくんが先ほどからぷんすかと地団駄を踏んでいるすかすかな足音のようにすっからかんなのよ。
あんの次兄はぁ、為すべき事を完っ全に忘れて帰ってきやがりましたわねぇ・・・。
ギリギリと歯噛みしながら激情が迸りそうになっている自分のメンタルに気付いたスー(須比智邇)。
「はぁぁ・・・」
スーは口をわずかに開きながら溜息を丁寧にゆっくりと漏らす。
「世界全体に十分な雲を即座に出せる体力も技能もお持ちですのに。勢いやノリで駆け出して行ってそのままボケをかましてしまうのは、いつもの事なのですけれど・・・」
呟きながら私も未だ地団駄を踏みたくなる気持ちは有れど、ウーが先に爆発しちゃったので一息ついてしまった。
憤慨を表に出す事を自重する為、私は更にゆっくりと深呼吸した。
二人で心を一つにして思いを強く共有する訳にもいかない。
そもそも国の源を仕込む最中に私達が感情を露わにしているとロクでもない世界と国になっていたりするらしい。
私達の後に続く皆はそれなりに工夫しつつ、こじ付けでも世界と国の成り立ちを整えてしまうから。
「ウーくん、今回は寄り道しましょう・・・」
すかすかじたじたに精も根も尽きたウーはケロッとした表情で私に向き直って晴れやかに万歳しつつ笑顔満開になる。
「やったー!」
精も根も尽きた筈が既に立ち直ったただけでなく寄り道をする事で歓喜している。
次兄のように底なし体力のウー。
「そうだねスー、完全に不毛だからお休みだよってツヌくんイクちゃんに謝らなくっちゃねー。でも美味しい物が食べられるからあの二人の処に行くのは楽しみだようー。」
ウーはすっかり気持ちを切り替えられた様子で、実に朗らかだった。
むむう、一人で晴れやかに立ち直っちゃって、ちょっとムカつきますわね。
「じゃあ、今のちょっとぷんすかした感じが抜けるまでは、ゆっくり行きましょうよ。」
「うんうんうんうん、随分前だったけどスーが猛烈に怒ったままツヌくんイクちゃんの処に到着したひゃっ!!ひたひひたひひたひ(痛い痛い痛い)」
手のひらを下に拳を軽く握りながら親指を立ててウーのほっぺをきゅっと摘まんで引っ張る。
ウーのほっぺがぷいーっと伸びた。
丁度いいタイミングでちょっとだけ発散させて貰ったわ。
スーが底意地の悪そうな微笑みでウーのほっぺのぷいぷい感を堪能していた。
ツヌくんイクちゃん家で何を食べようかしら?
汚染とは無縁の天変地異で終わりそうになっている世界からこっそり持ってきちゃったいろんなお菓子や調理器具や食材など、世界の外から自由に出入り出来る世代のみが可能な持ち出し物件の数々を思い起こしながら須比智邇は頬がゆるんだ。
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