兄貴と次男と三男三女

石窯パリサク

兄貴と次男

豊雲野「ぅぅぅぅうううおおおおおお!、国之常立兄貴!、俺は行くぜえええぇぇぇぇ!」


国之常立「弟よ、雲だけは置いて帰ってこいよー。」

開闢をやって帰った国之常立は前をがしがしと駆けてゆく弟の豊雲野に声をかける兄。


駆けて遠ざかり行く弟の姿が小さくなってゆく様を数十時間ほど眺めていた。


豊雲野「・・っ!・・・?・・?!?!」

何処か遥か彼方へと行ってしまいそうな程に遠くまで駆けてゆき点のように小さくなった弟がびたっと立ち止まり、くるっとこちらに回れ右で向き直り兄の元へものすごい勢いで何かを叫びながら引き返しつつ問うているのだが既に立ち止まり引き返した処が遠すぎて何を述べているのかまったくわからない。


国之常立「弟よ、遠すぎて聞こえないよー。」

こちらに引き返して来つつじわじわと見える姿も大きくなってきた弟をぼんやりまったり待つ。


国之常立はその場でまったりと腰をおろした。


ごそごそと卓袱台を持ち出して湯を沸かしながら茶箪笥も取り出し、茶箪笥の引き戸を開けて歌舞伎揚げをどっさり盛った菓子盆と茶筒と急須と建水に湯のみを卓袱台にならべる。


茶筒を開ける。


ポンっと小気味よい音を立てて、ほうじ茶の香ばしい香りがした。

そろそろ湯が沸き始める頃合いだった。


何度かお茶と食事を繰り返しているうちに、遠すぎてただの点だった弟の姿が弟の姿だと判る位まで近づいてきた。必死さに疑問が混じった表情で全力疾走している。



豊雲野「なんでだよ兄貴?!」

卓袱台に駆け寄り胡坐をかいてどっかりと座りつつ、兄の前を通り過ぎてから二十数時間の後に兄の前まで引き返してきた弟は改めて問う。


湯を沸かし直し始めて、弟の為に湯のみを茶箪笥からもう一つ取り出して沸いた湯を急須に入れて温まった頃合いを待つ。


菓子盆には山盛りのうに煎餅がのっている。


急須を温めたお湯を建水にこぼす。


国之常立「双子の三男三女が砂泥を置きに行くまでになー、世界が雨で水浸しになっていないとよ、帰ってきた時に俺ら相手に拗ねるからなんだよー。」


急須が冷めないうちにほうじ茶の葉をさらさらと入れ、お湯を注ぎながら兄は言った。


豊雲野「いいじゃねえか!兄貴、双子の弟妹(うーくん・すーちゃん(宇比邇・須比智邇)が拗ねてるなんざ可愛いもんじゃねえの!」


兄弟は頬張ったうに煎餅をばりばりもぐもぐと咀嚼している。


うに煎餅がよほど旨いのか山盛りだった菓子盆のうに煎餅が無くなるまで二人はほうじ茶をすすりながら無言でばりばりもぐもぐと食べ続けた。


煎餅が尽き、ほうじ茶でさっぱりとした所で兄が続ける。


国之常立「そりゃ弟妹なんだから可愛い、まったくなんだけどよ-。こないだお前の寝床が砂だらけになってた事を思い出そうかー?」

豊雲野「おおー!、すーちゃんが!、オレの部屋の床から天井まで砂を詰めて逃げていったイタズラか!」


国之常立「そうだーそれだよそれそれ、先に出たお前が雲を置き忘れて帰った事でよー、一滴の水も無い国の有様でなー、弟妹達は出来る事が無いまま帰って来たのさー。真っ先にオレの部屋にプンスカしながら駆け込んだうーくんが部屋の床から天井まで泥を詰めて逃げたんだけどなー、お前がオレの部屋のドアを開けるまでようー、オレは泥の中でずっともがいていたのよー。」


豊雲野「そういえば!、二人が帰って来た時以来だから!、次の開闢前に兄貴の部屋のドアを開けるまで一度も見かけなかったな!、あの部屋の泥に埋まったまんまだったのか!、まじか!」


国之常立「よくあるうっかりだけどなー。流石に上も下も埋まった中でもがき続けるには長かったわー。」







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