report.3
母との面会を終え、囚人番号16423番の俺は夕食を食べるため食堂に足を運んでいた・・・・
しかし食堂とはいってもそんなに豪華なものでもないし
壁の周りは通路のようにコンクリートで固められ無機質なものであり窓すら無い
おまけに五人が入れる位のお世辞にも広いとは言えないほどの空間、
なぜ五人組の食堂かと言えばこの収容所でも仕事はある
工業品の加工や溶接組み立て等、
重工業の製造をこの収容所でも行っているのだ
食堂から食事をもらい、水を自分で汲み、
5人座れるかどうかのギリギリの古びた木材で出来た机に腰をかける
一息ついて食事のメニューに目をやる
白米に具の少ない味噌汁、キャベツと目玉焼きにソーセージ、・・・・
毎日栄養のことを考えてかメニューは変わるが決まった変化がない
もうこの食事を食べて10年以上
そろそろレパートリーも変えてほしいと頼みたいが、
AAAの犯罪者がそんな要求をしても突っぱねられるのが精々オチだろう
自身の中で考えを自己完結しいつも通りに食事を口に運ぼうとした途中、
横から突然声が上がる
「おう。今日もしけた面してんなぁ」
ノリの軽そうな軽い挨拶が入った
「あっ、どうも、でも・・・・国男さん」
「おいおい。ここでは囚人番号で呼べよ
もしばれたら今度の仕事増やされるぜぇ?」
口が悪いながらもさりげなくフォロー入れてくれた眉毛の薄い凶悪顔のおじさんは
囚人番号15991番の西田国男さんだ
彼ももともと遺伝子調査で犯罪指数Cの
要注意人物だったが国に対する批判的な著書を描くので有名な作家だったらしく
5年前の再調査で犯罪指数がAAまで上昇、
そのまま拘束され今に至ると言うことらしい
先に食事を終えていたのだろう
食器を置きに食堂の方へ片付けてきた後、
おもむろに横の席に座り、
「どうしたんだ?
やけにうかない顔しやがって
この何もない灰色人生の収容所で悩みなんてあるのかぁ?」
本人にしては気を遣ってくれているのだろうしかし、凶悪顔に合わさって笑った顔はとても人を励ますような顔には到底見えない
「え・・・ええ・・・・
まぁ食事に関してなんですけどね・・・
最近毎日食事のレパートリーが均一化している気がして正直レパートリーを豊富にしてほしいのですが・・・・
まぁ要求が通る事はまずないですけれど」
少し顔を引き攣らせながら答える
すると俺の顔の表情から気持ちを察したのか
国男さんはバツが悪そうな顔で、
「まぁまぁそう嫌な顔すんなって
しょうがねーだろ生まれつきなんだから
俺だってこの顔になりたくてなった訳じゃねんだからさぁ
つってもまぁ・・・・、確かにそうだよな・・・
俺たちはこの日以外は毎週無給で休みなく
働かされてるんだからもう少し食事位豪華にしてくれたっていいのになぁ・・・
後、テレビの報道正直も何とかして欲しいわ」
話につられてテレビに目線をやると、新たな
「遺伝子販売」についての報道がなされていた
「遺伝子販売」とは、
「遺伝子細部調査計画」通称DGPが施行
される4年半前に試験的に行われた取り組みだ
そもそも遺伝子とは染色体のさらに細部・・DNAを担体としてその塩基配列にコードとして打ち込まれているのが遺伝子情報である
DNAを保持する地球上の生物は例外なくこの塩基配列を持っているのだ
そしてこの遺伝子販売とはDNAの二重螺旋構造のイントロンに後天的に追加情報打ち込み能力を発現させると言うものだ
通常この遺伝子を注入しても能力が発言するのは1年から2年かかると言われており、
現在ならば生まれたての子供に後天的に移植する物のが一般的である
(当然新生児で無くとも移植を行っている人は多々存在する)
しかし、当時はまだ試験的なこともあり通常販売されることとなった
おまけに価格もも1番安いもので3000万円からと、とても高価であったため遺伝子を購入する人はほとんどおらず、
おまけに民衆の中では遺伝子をいじると言うのはパンドラの箱を開けると言うイメージがあったようで
当時の使用率は5%未満でとどまったそうだ
しかし、DGPが法律として公に認められ、
身体的に問題がないと政府から公表した為、
富裕層の間で少しずつではあるが流行しはじめ・・・・・
しかし、50年前・・・・日本遺伝子研究所が
遺伝子販売の量産化に成功すると瞬く間に
一般民衆にも広がり今では遺伝子購入者は70%前後にまでのぼる
今や遺伝子販売は一昔、大流行したスマートフォンのような勢いで普及し始めているのだ
テレビから流れる報道ぼーっと見つめていると、突然、横から報道を批判するような声が上がる
「何が遺伝子販売だよ胡散くせぇ
人様の体を勝手に操作するなんざ、正気の沙汰じゃねぇなぁ
おまけに食堂に来てみれば同じニュースばっかり、
洗脳みたいで薄気味悪いから食事のついでにニュース報道も何とかしてほしいって・・・
おい、栄太郎、言ってきてくれよ」
国生さんが冗談交じりで自分に茶々を入れてくる
しかし俺も肩をすくめて、
「困りますよ。
そんなこと口走ったものなら看守に何をされるか・・・・・」
困った顔を示し軽い拒絶を示す
国男さんもそれを聞いてそりゃそうだと言わんばかりにニカッと笑う
しかし話が終わるやいなや国男さんは急に顔を引き締め、掠れた声で・・・
「なぁ、お前・・・・・
実際、この遺伝子研究についてどう思う?」
と小さくつぶやく・・・
正直急な問いかけてあったし、
外の世界を見たことがないからはっきりとは決めかねていた・・・・・
しかし、一応国男さんに同調するように小さく・・・
「俺も、あんまり良いとは思いません」
とだけ返事を返した
国男さんはじっとこちらを覗いてくる、
俺の考えや反応を探っていたのだろう・・
少しの間、お互いは目を合わせたまま、
するとさらに国男さんは顔に耳に近づけてきて・・・・
「いいか・・・・これはここだけの話なんだが・・・・・
実は俺がライターをやっていた時にある噂を耳にしたんだよ」
不意に2人の間の空気が凍りつく・・・・・
国男さんはいつも馬鹿ばかりやり冗談も言う
歳の割によぼよぼでいたずら好きのおじさんだが、元は有名な著者でもある
今から話す情報が全くもってでたらめと言う事はないだろう
緊張からか、口の中でいっぱいになったツバをゴクッと飲み込み、
続きを言うように目線でお願いをする
「実はだな・・・・・・」
と、国男さんが続きを言おうとしたその直後・・・・・
ブーッ!!!!!!!
「食事の時間は終了です
各自、部屋に戻り23時まで自由時間とします23時以降は電気を消灯し就寝するようにしてください
食事が済んだものは、
各自、速やかに部屋に戻ってください」
アナウンスが食堂に響く
緊張から解かれたからか俺は一気に息を吐き出す
国男さんの方を見てみると
国男さんは興を削がれたかのような顔で、
頭をポリポリ掻き、しかめ面で、こちらに喋りかける
「チッ・・・・なんだよ・・・・
今日は少し早いじゃねーのか?
まぁいい。
おい、またこの話の続きは明日の仕事の合間にしてやるよ!」
それだけ言い残し、フラフラとした足取りで食堂から出て行く
この時食堂に残された俺はさっきの会話を1人で考え直していた
正直なところさっきの会話から国男さんの情報を聞けるのは正直ラッキーだと思った
しかし、本音を言うと俺は別に遺伝子販売については心の底から反対ではなかった
確かに自分が生まれながらにして収容所に収監されている今の環境には不満ではあったが実際にGDPや遺伝子販売が行われてからの世の中は確実に良くなっていている
事故もなく犯罪もないこの政策に抵抗する反対派や犯罪者以外の大多数の人間としては素晴らしい世の中であろう
このためこの時俺はどういう考えを示してばいいのかわかりかねていたのだった
しかし、家に戻り中時間を使ってこのことを考え続けるも・・・・
結局、結論は出ず夜中の12時になり考えるのは無駄だと言う結論に達し、
布団の中に入り寝床についたのだった
しかし、次の日・・・・・
職場に顔を出すも国男さんの姿は見当たらずない
たまにある寝坊かなと思い昼休憩まで待ったが一向に姿を見せず、
体調を崩したのかと思い、看守に国男さんの様子を聞くと・・・・
「囚人番号15991番は刑が減刑されたので下のフロア移った」
とだけ告げられたのだった・・・・・
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