第13話 無職とストーカー、そして制服泥棒

「いやあ、すごいなこの都市、近代感半端ないな」


 僕たちが次の拠点にした『学園都市ツクーバ』。中世感のある始まりの街とは打って変わって、現代の日本を彷彿とさせる近代的雰囲気だ。宿を取り終えた僕らは一息つくために、近くのカフェに足を運んだ。


         ✢



 新たな仲間に僕と善子に対面するように座ってもらう。

 ‎


『ではこれから面接を行います』


「え、いきなり⁉」



 仲間になったものの、僕たちは彼女についてなにも知らない。名前すら知らない。良い子なのは分かるのだが、ときどき闇が見え隠れするのが気になる。


 ということで急遽彼女の面接を執り行うことにした。


「簡単な自己紹介をお願いします」


「はい、私のこの世界での名前は『ストーカー』です。16歳です。元の世界ではストーカーを生業にしていました。現在のレベルは70です。これまでの経験を御社で役立てていきたいです」


 ノリノリ爆弾をぶち込みやがった。何をどう役立てるというのだ。



「その、生業というのは.......」


「はい、好きな人を付け回して、隠れた一面を探していました」



 マジモンだよおおおおお!ロトの剣拾ったと思ったらとんだ呪いの装備だ。なんかこの娘を元の世界に帰しちゃいけない気がしてきた。


「武術の経験があるようですが.....」


「はい、幼少期から剣道、空手、テコンドーなどを嗜んでます。ストーキングがバレた際にはこの能力を十二分に発揮して口封じをしていました」



 もうこの娘絶対に帰しちゃだめだ。

慌てて僕は善子と一度席を外した


「どうしよう善子、クレイジーサイコレズを拾っちゃった」  


「今さら不採用なんて言ったら半殺しにされるよ。ショーマが拾ったんだから責任持って世話しなさい」


「そんなあ」  


 


 平静を装って席に着き、改めて話を切り出す。


「ストーカーさん、貴女を正式に採用いたします。つきましては貴女の武器の能力を教えていただきたい。攻略の参考にいたします。もちろん我々の能力もお教えします」


「ありがとうございます!私の武器は私の認識した対象の3秒後の場所、体勢などを腕時計型の画面に表示させる『写ルンですpro』です」


 僕や善子ほどではないが、かなり応用の効く能力だ。彼女の高いステータス、武術経験とは相性抜群で、常に相手の裏をかく戦闘を可能にしているようだ。

ネーミングセンスは相変わらずイカれてる。



「ストーカー、僕は『無職』。事象を無かったことにして、好きなタイミングで実行できる伝説のEnterキーを持ってる。よろしくね」


「流石にあんまりだから、すーちゃんってよぶね。私はヨハネ(善子)。物を軽くしたり重くしたりできる双剣が私の武器。あと固有スキルでスターバ○ストストリームを使えるよ」


「流石新進気鋭の伝説の勇者一行、イカれた能力です。そりゃ勝てませんよ」



 新進気鋭ってほど新進気鋭じゃないんだけどね、僕たち。

 ‎なかなかヤバい娘だが、一緒に冒険するには差し支えないヤバさだったのでよかった。かなり戦力を強化できたし、攻略も予定より早く終わりそうだ。


 

 嗜虐モードの僕を見てから僕らに対して敬語になってしまった彼女は嬉々とした表情で善子と話している。彼女を二度失望させないよう彼女を導いていけるよう尽力しよう。



「これからよろしくお願いします!善子お姉さん、無職のおじさん!」


 お姉さん扱い羨ましいなあ。‎それよりも『無職のおじさん』がパワーワード過ぎる。

 ‎

 ‎心を冷静に保ちながら彼女を含めて、これからの予定を立てていく。


         

         ✢



 この街に来た第一の理由は魔王的なのの情報を入手することだ。初老の猫耳が以前教員をしていた、この街にある『ツクーバユニバーシティ』という学校で魔王について隠れて研究してる学生がいるらしい。

 ‎あの魔女によって禁じられながらも研究を行うとはなかなか肝が座った人だ。


 この学校を訪ねて情報提供をお願いし、得た情報から攻略法を練りつつ、レベリング作業をする。これが当面の僕らの予定だ。



 この街に着いたばかりだが今日は早速足を運んでみる。

 ‎かなりでかい。そこらの私大よりも遥かに大きな敷地にそびえ立つ城のような校舎。生徒数も多く、そこら中人だらけだ。

 

 僕が探しているのは『魔法科学研究室』に所属している『エイミー』という女生徒なのだが、見つけるのはなかなか骨が折れそうだ。

 ‎とりあえずアポをとるため事務室に行ってみる。



「すみません、勇者をさせてもらってる者なのですが、貴校の『魔法科学研究室』さんにお話を伺いたくて参りました。いつ頃が都合いいでしょうか」


一応ステータスブックで身分を証明しながら尋ねると


「貴方は伝説の勇者様じゃないですか!当校に来ていただいて大変光栄です。何時でも大丈夫なので勇者様の都合がいい時にお訪ねください」



 あの一件からやや有名人になってしまっていたようだ。面倒だが今回は都合がよかった。

 事務員に研究室棟の『魔法科学研究室』まで案内してもらい、ドアをノックする。


「すみません、勇者をしている者なのですがエイミーさんのされている研究を冒険の参考にさせていただきたくて伺いました」


「彼女の『プラズナ』で2次電池を充電する研究をですか?。私が説明できなくもないのですが、今彼女は実験室棟の方にいるので直接話を聞いてみてください。伝説の勇者様からの取材とあれば彼女も喜ぶと思います。」



 教授は不思議そうな顔をしながら実験室棟の場所を教えてくれた。

 ‎禁じられている研究なだけあって、表向きは別の研究を装っているようだ。



 この学校は本当に広く、実験室棟だけで普通の学校の校舎くらいはある。十数分歩き回ってやっと『魔法科学実験室』のプレートが掲示されている実験室まで辿りつくことができた。電気がついているのでまだ彼女は中にいるようだ。



「失礼します。勇者をやってい───」


「出たわね制服泥棒!早く私の制服を返しなさい!」


 え、僕ですか?。いや、こんな年齢で無職だが僕もそこまで落ちぶれてはいない。


「誤解です、貴女の研究を───」


「うるさい!プラズナ!」


僕の体を雷撃が襲う。あまりに突然で改行が間に合わない。それにこれ僕のより何倍も強力でちょっとヤバい気が────



「ショーマ!」

「おじさん!」





とんでもない冤罪で僕の人生は幕を閉じようとしている。



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