第12話 フレンドリーファイア
「おじさん強かったね。どうやって私の能力見破ったの?」
「え?全然分かんなかったよ。何か僕の行動読まれてるなー、ぐらい」
「じゃあなんで!」
「君の能力がどうかとか関係なかったんだ。君が僕を直接攻撃してくれれば僕の勝ちだったんだよ。そういう能力なんだ」
「そんなのズルい!」
「ズルいんだよ大人は。ズルしないと若い子に勝てないんだ。老獪なんて言う奴もいるけど結局ただのズルだ。ごめんね」
「うぐっ、ひぐっ」
参ったな。極悪非道な無職の僕でも流石に女の子に泣かれるのは堪える。
「やーい、無職が女の子泣かしたー」
「うるさい!」
彼女が落ち着くまでまた少し時間がかかった
✢
「縛ったままでごめんね、まだ君のこと怖いんだ。で、なんでこんなことしてたのかな。女性たちの話を聞く限り、君が完全に悪いわけじゃないみたいだけど」
「もうこの世界が嫌になったの。ここに来たばかりの頃は───」
なんか過去語りの回想的なのが始まった。
..........
「私はほぼ無理やりこの世界に連れて来られたの。早く帰りたいのもあったし、ここに来たばかりの頃はパーティーも組んで魔王的なのを退治するごとに燃えてた。
でも気付いたの。レベルアップのスピードが速過ぎるって。レベル100の勇者がこれまでの何千人も海に落とされて恐らく死んでる。
でも仲間に言っても「きっと大丈夫」「私達なら倒せる」って楽観的で。私はここに望んで来た人達みたいにはなれないって思って攻略を諦めてこの町に来たの。
この町の娘たちみんな可愛いから、勇者なりたての男共が女の子にちょっかいかけてて、追い払ってあげてたの。そのうちみんな私に懐いちゃって、私も必要とされるのが嬉しくて今みたいな状態になっちゃったわけ」
「そういう経緯だったんだね。君はとても賢くて優しいし子だし、頑張ったと思うよ。でも、それは最善の選択肢じゃなかったね」
「そうだね、私もみんなに甘えちゃって、他の町の人達に迷惑かけちゃった」
「最善策を選ぶのは難しいんだ、大人になったらだんだん分かってくると思うよ。じゃあ僕らは攻略作業に戻ろうかな。一年以内に元の世界に帰りたいんだ」
「おじさんも魔王的なの倒せると思ってるの?」
「僕らだけでも不可能ではないと思ってる。それに絶対に帰りたいんだ。待ってる人がいるからね。ただ、君と一緒で僕も望んでここに来てないから魔王退治は楽しくないし、楽観視もできない。だから限界までレベリングはするし、情報も可能な限り集めて対策を練って挑もうと思ってる」
「............」
「君も一緒に来る?大歓迎だよ!なんてね。領主さんがこの屋敷に居てもいいって言ってくれてるから、これからどうしたいか考えてみるといいよ」
「じゃあねー、サリュー♪」
「.............」
✢
翌日から僕らはレベリング作業に入った。僕らの予想通りモンスターはとても可愛い。しかし、問題が生じた
『可愛すぎて罪悪感がやばい‼』
犬のようなモフモフしたやつなのだが。
「(*´ω`*)モキュモキュッ」みたいに鳴く。超かわいい。そのくせ攻撃すると「ブフォンヌップ」みたいな奇声を発するため非常にメンタルにくるやつだった。
メンタルがボロボロの僕らはレベリング作業3日目にして、満場一致で魔王に関する情報があると噂の学園都市「ツクーバ」に拠点を移すことに決めた。
その日、最後のレベリングを終え町に戻ると何やら大騒ぎであった。僕を見つけた初老の猫耳が走って抱きついてきた。(汚ねえ)
「助けてください!沢山の勇者が来て町の娘たちに手を出そうとしてるんです!」
どうやら僕が彼女を倒したことが噂になり、ここぞとばかりに性欲まみれの男共が集まったようだ。30人位いるじゃん。気持ち悪いなあ。
騒ぎの中心にはあの娘がいて女の子たちを庇っている。流石に人数が多いし、倒されたって噂のせいで男共が無駄に強気なため苦戦している。
「ごめん善子、僕が伝説の勇者だって名乗ってもいい?この場を収めるにはどうしてもそうするしかなさそうなんだ。君に能力の制限してもらってるのに申し訳ないんだけど」
「ショーマがいいならいいよ。あの童貞野郎たちぶっ飛ばしちゃってよ」
「ありがとう善子」
この場を収めるだけじゃなく、二度とこんなことができないように奴らにトラウマを植え付ける必要がある。僕はさっき覚えたばかりの雷の攻撃呪文『プラズナ』を遠くからこっそり一人ひとりに唱え、当たるという事象を『改行』した。そして騒動の中に割って入る。
「君たち、か弱いレディー相手によってたかって恥ずかしくないのか(イケボ)」
「うるせえ、この女もぽっと出の勇者にやられちまうくらい鈍っちまったみたいだからよ、今がチャンスなんだよ」
「そのぽっと出は僕だ。町の女性は彼女から解放し、自由にした。今は僕の保護下にある。彼女たちに用があるなら僕を倒してからにしてもらおうか」
「おじさん!流石にこの人数は無理だよ。私も手伝うから連れのお姉さんと一緒に追い払おうよ!」
僕は振り返り彼女にだけ聞こえるように言う。
「そんなんじゃだめだ。二度とこの町に来れないようトラウマを植え付けてあげなきゃ」
ニヤリと僕が笑うと彼女驚いた目で僕を見る。僕そんなキャラじゃないしね、当然だ。嗜虐スイッチが入った僕はもう止まらない。
一人の男が前に出てくる
「じゃあ俺からいくぜ、せいぜい怪我しないよに気を付けてくれよ」
『ギャハハハハ!』と男たちは下品な笑い声をあげる。
「面倒くさいからまとめてかかってきなよ。時間がもったいない」
途端に男たちは険しい表情で僕のことを見る。
『ふざけんなよ、調子乗ってんじゃ───』
「さよなら、実行」
瞬間、男たちは急に雷撃に襲われる。全員が突然の攻撃に地に伏す。楽しいなこれ。僕が攻撃し忘れた方々はもれなく善子にボコられている。ごめんね、忘れて。
「大丈夫?(笑)言ってなかったけど僕伝説の勇者なんだ。ごめんね、格下に手加減するの苦手なんだよね。てなわけで、非常時にはいつでもル○ラで戻ってくるからさ、次は命をもらうよ」
男たちは痺れた足を引き摺りながら逃げていった。妙に満足した顔の善子が言う。
「本当によかったの、名乗っちゃって?スッキリしたけどさ」
「いいんだよ。ここまで大々的にやれば噂も広まってこの町も安泰だよ。だから──」
僕は振り返って言う。
「だから君も好きに生きるといいよ。町に残ってもいいし、好きに冒険したっていいんだ」
彼女にそう言って、僕らは宿に戻り明日の出発に向けての準備をした。
..........
「それも、最善じゃないじゃん......」
✢
翌日僕らが町を出ようとすると、入り口で彼女が待ち構えていた。
「私も、仲間にしてくれませんか。やっぱり私、元の世界に戻りたくて。みなさんとなら魔王も倒せる気がするから.....」
「いいよ。というよりこの間も言ったけど大歓迎だよ。ねえ、善子?」
「そうだね。でも、あんたが手を出さないように当分注意しないとね」
「今回の一件でなんか結構軽い男キャラが定着してるよね。そんなんじゃないからね、僕ピュアボーイだから。キスで子供できるって思ってるから」
「ごめん、フレンドリーファイア」
「ぶべらっ」
明らかに故意的な蹴りで僕は15mほど吹っ飛ぶ。
新たな仲間が増え、僕らの冒険は本格的に幕を開けていく。
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