第11話 駄弁る無職

「で、どうすんのこの娘」


 縛られながらもスヤスヤと眠っている女の子を見ながらよしこは言う。 


「領主さんがあの状態じゃ罪には問われなそうだけど、男衆はカンカンだからね」



 この町の領主は若い女性で、あろうことか彼女のハーレムの一員だった。領主や他の女性たちに話を聞くと、彼女らは軟禁されてたのではなく、自らの意思であの娘に奉仕していたようだ。全員が彼女にメロメロで異常なまでに忠誠心を持っていた。軽めの宗教だ。



 その為、僕は全員から憎しみに満ちた目で見られることになり(あれはあれで良かった)、何とか説得して心配している家族たちの元に帰ってもらい、今に至る。



「とりあえず話を聞いてみようよ。経緯が分からないから何とも言えないし」


「あなた甘いね。関係ないんだから王国軍にでも渡しちゃえばいいのに」


「若い子は過ちを犯すものだからね。大人はある程度寛容でいないとさ」



     

 彼女が起きるまで僕らは館長からパクった地図を見ながら今後の予定を立てることにした。



         ✢


2時間が経った。



「いつまで寝てんのよこの娘」


「ドラ○エじゃ4、5ターンで起きるんだけどね。目も離せないし、駄弁って時間つぶそうよ」



 当面の方針も決まったし少し息抜きをしてもいいだろう。ここまでかなりハードな生活をしてきたし。



「よしこは外国被れキャラなんでやめたの?」


「あんたが馬鹿にしたからでしょ。彼氏の影響でちょっと知ってたから使ってたの。知性的な女感出ると思ってたのに」


「あんな簡単なの誰でもわかるよ。そのくせ普段の会話で全く使わないし」

 

「ぐぬぬ....。あんたこそ『無職』ってなんなの?人前で呼びづらいからどうにかしてよ」



 リアルぐぬぬ初めて聞いたよ。可愛いな。

 

「好きに呼んでくれて構わないよ。この世界では本名は捨てて『無職』として生きていくよ」


「じゃあ「ショーマ」って呼ぶよ」  


「僕の本名1mmもショーマじゃないけど」


「『chômeur』から取ったの。フランス語で無職」


「なるほど、僕にお似合いな名前だね。ところで、よしこの名前の漢字ってさ、もしかして.....」


「ん?『善良な子』でよしこだよ」


「いやどっちだよ」


「ああ、ごめん。善悪の善だよ」



 そこも一緒なのか。それなら僕でもヨハネにしたかもしれない。



「そういえば、なんで『無職』なの?私は名前に由来してるみたいだけど、もしかしてショーマって──」


「うん、無職だよ。ついこないだまでは働いてたんだけどね。会社と揉めちゃってさ....」


「意外と壮絶な人生を送ってたのね。しょうもないフリーターだと思ってた」


「どこでそう判断したんだよ!」




 なんやかんや会話は弾み、僕らのおしゃべりは続く。彼女が起きてることにも気付かずに。「あのー、結構前から起きてるんですけど.....」という彼女の遠慮がちな言葉に僕らは──



『じゃあ早く言えよ‼』



と怒鳴る始末で。ごめんね、大人はたまに理不尽なんです。

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