第10話 Enterキー覚醒、そして下方修正

「なんだよこの能力、僕が動けなきゃ意味ないじゃないか!」



【違いますよ、時を止めたのは私です】

 


「また貴女ですか、最近頻度高いですよ」



【貴方のせいでしょう。性欲に突き動かされて死にかけて】



「貴女が意地悪してなきゃまだ勝ち筋もありましたよ」



【黙らっしゃい。伝説の勇者なんだから主人公補正とかで覚醒すると思ってたんですよ】


 

 三十路間近の無職に主人公補正なんかある訳ないでしょうに。


【しょうがないから教えてあげますよ、能力。ちなみに貴方以外の方には転生前に教えてます】


「どうもありがとうございます......」


【結構面倒くさいですよ、貴方の能力。簡単に言うと"改行"と"実行"です。貴方が見た事象を『改行』、つまり一度無かったことにしてストックしておけます。そして好きなタイミング起こるはずだったように『実行』できます】


「おお!俺TUEEEEじゃないですか!」


【そんなことはありませんよ。『改行』する事象に応じて貴方のHPは減ります。HPの限界まで『改行』を行えますが、『実行』する際は事象が全て一度に起こりますし、『実行』対象も変更できません。私の介入で行った、この世界の風化を正の無限回まで改行し、全てロンギヌスに実行するようなことはできませんよ】



 あれはあいつの力だったのか、とんでもないチート能力だと期待していたのに。


 でも、なかなか面白い能力だ。活かすも殺すも僕次第だろう。


「ちなみによしこの能力を『改行』したらどの位HP持ってかれそうです?」


【私の気まぐれで最強クラスにしてしまったあの能力ですと、今の貴方なら8割ですね。まあ、どんな事象でもあなたのHPが満タンなら、最悪HPは1だけ残ります。き○いのタスキだと思ってください】



「じゃあとりあえずこの場は何とかなりそうです」



【貴方には期待してますよ。実は先日"伝説"の勇者を含むパーティーが魔王的なのにやられたので、この世界にはあなた含めて残り2人になりました】

   

 そうだ、こうしてる間にも何人もの人が魔王的なのにやられているんだ。さっさと解決してレベリングを再開しよう。


【私を楽しませてくださいよ、伝説の勇者さん。ではさようなら......いや、やっぱり強すぎますね、その能力。一度『改行』したら『実行』までHPを回復できないようにしましょう!貴方ならこの位で丁度いいですね。ではまた】




 ええ.......。下方修正早くないですか。そうやってどんどんマゾゲー化するから酷い勢いで勇者がやられていくのだよ。





...........時が動き出す。



 早速使わせてもらおう。この"伝説"のEnterキーの能力を。


彼女の攻撃を『改行』する。



「リフレクト、そして『実行』!」



 リフレクトの弱点を克服し、彼女の攻撃を完全に返す。流石にここまでは読めなかった彼女は10mほど吹っ飛ぶ。HPは半分程削られた。恐ろしい女だ。今のうちに回復しなければ。



「もしかして、能力が分かったの⁉」


「心配かけたね、よしこ。この場は僕だけでなんとかなるよ安心して」



 安心も束の間、瓦礫の中から彼女が這い出てきた。 

「痛いなあもう。結構効いたよー」


「そんなこと言う割にまだまだ元気そうじゃないか。若いっていいね」

 

「まだ能力隠してたんだね。ブランクまみれのおっさんだと思って油断してたよ。次は全力でいくよ」



「ブランクは人生経験でカバーするんだ、大人はね。さあおいで、終わりにしよう」



 彼女はこれまでで最大の速さで僕に斬り掛かる。先ほどと同様に僕は正面から攻撃を受ける体勢をとった。



「能力は分からないけど、剣で受けれなきゃリフレクトは使えないよね!」



 やはり僕の行動は彼女に読まれていて、彼女は常人には不可能であろう体裁きで背後をとる。


「楽しかったよおじさん、バイバイ♪」


 彼女の剣は僕の体を完全に捉えたが───


「残念、リフレクト」


 直ぐに後方に吹っ飛んだ。今度はすかさずラリルーを使い、眠らせた。




 残りHPは3。計算どおりだ。ただ正直、ここまでHPが減るのは怖い。




次からは格好つけないで回復します。


         ✢


 寝ている彼女を縛り、ケモミミ娘たちを全員開放し終わり、僕たちはやっと一息つくことができた。よしこにも分かりやすく能力を説明してあげた。



「どうやって攻撃受けてからリフレクト使ったの?」


「能力の内容はさっき説明したよね。『彼女の剣が僕に触れる』って事象を『改行』したから、剣で受けようが体で受けようが関係ないんだ。このEnterキーを1回押すと改行、2回押すと実行みたい」 



 HPが満タンでさえあればどんな攻撃も一撃は受けれる身になったわけだ。まだまだ使い方はあるだろう。下方修正されなければチート級だったのが残念である。




「あ!『魔王的なのが存在する』って事象を『改行』しちゃえばいいじゃないか!」


刹那、魔女が恐ろしい勢いで捲し立てる。


【貴方ごときが無理に決まってるでしょ。

そこまでの事象はできませんよ。私がそんなインフレ武器渡すわけないでしょう。無職は身の丈にあった冒険をしなさい。では♡】



 無理でした。



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