第8話 性欲の強い方が勝つ、それが戦

 男に案内され町に入る。町には全く活気がなく、幼少期の僕に酷いトラウマを植え付けたシ○ンタウンを思い出させる。大丈夫かな、ゴーストタイプのあいつとか出てくるんじゃないだろうか。



 辺りは猫耳のおじさんやおばさんで溢れかえっている。皆、有難そうに僕に過剰なスキンシップを取ってくる。獣人だからだろうか。早く若い娘とスキンシップしたいものである。

 ‎


 勇者がケモミミ娘たちを軟禁してる屋敷まで案内してもらった。ついに憧れのケモミミ娘とご対面だ。わくわくが止まらない。



【エッチなことはできませんよー】


 また貴女ですか。


【勇者がこの世界で性的な行為を少しでもすると強制的にHPが0になる仕組みにしてます】


「酷いよ!ケモミミ娘が僕を待ってるのに」


「ちょっと、なに急に喋りだしてんのよ」

 


 どうやら僕にだけ聞こえるパターンのやつらしい。 



「ごめん、今ヒ○ルの碁的な感じにあの魔女が話しかけてきてるんだ。ちょっと待ってて」


「あんたよくあの人に絡まれるね。待ってるから、さっさと神の一手しちゃいなさい」


「ごめん、ありがとう」



 こういうところは物分りがよくて助かる。



【いいコンビですね。でも彼女ともそういうことしちゃダメですよ】


「なんとかケモミミ娘とだけでも、ちょっとエッチことできませんか」


「どんな話してんのよ......」


【魔王的なのを倒した際のご褒美としてなら考えてやらなくもないです】


「本当ですか‼」


【魔王的なのが倒されれば私はこの世界にがっつり干渉できるので、その際には勇者の皆さんに好きなタイミングで元の世界に帰れるアイテムを渡そうと思ってます】


「はあ」


【元の世界に戻りたくない方もいるでしょうからね。ですが、貴方にだけ代わりに一度だけこの世界でエッチなことができる券を差し上げましょう】


 割りにわないよ!くっ、僕のケモミミライフはどうやら実現不可能らしい。



「すみません、僕が悪かったです。見るだけで我慢します」


【分かればよろしい。私結構貴方のこと気に入ってますから、こんなとこでやられないでくださいよ。ではさらばだ】



 ならもう少し待遇を良くしてほしい。好きな子に意地悪したくなるのは分からなくもないが、死に直結する意地悪は本末転倒じゃないか。



         ✢

         ‎


 僕が落ち込んでいると、よしこが心配そうに僕を見る  


「なんか大丈夫?やっぱり私も戦おうか?」


「いや、全然大丈夫だよ。こんな町に強い勇者なんていないだろうし。それにあの日約束したでしょ、君は対人戦はしちゃだめって」



 そう、4日前の悲劇を僕は決して忘れない



............



 この日僕らはいつも通りレベリング作業をしていた。度重なるスライム狩りで僕たちの精神は疲弊していた。そして、ついに彼女がやらかす。


「あ、やっちった。軽くする能力使っちゃった」



 刃がスライムに触れた瞬間、スライムは消えた。通常であれば倒したモンスターは溶けて土に染み込むトラウマ仕様であるため、異常事態だとはすぐに分かった。



 彼女曰く、彼女の武器は常にオートで質量を奪う能力が発動していて、意識することで質量を与えたり、能力をoffにしたりできるらしい。彼女のうっかりでこのような事が起こってしまうのだ。



経験値は入らなかった。つまり、"これ"はこの世界では死と判定されないらしい。対人戦闘でこのような事が起これば、原子レベルでバラバラになり、海に落ちることすら不可能になる。この能力はこの世界で人を"完全に"殺すことができる。



 試しに落ちてる木の枝に奪った質量を付与させたところ、5kgほどの木の枝ができた。

一回の攻撃で5kgなら、スターバー○ト・ストリームを使えば80kgだ。本当の意味で"必殺技"となってしまった。

 


「スライムよ安らかに眠れ、僕は君のことを決して忘れないよ、いろんな意味で。」



 5kgの木の枝を地面に刺し、悲しきスライムのお墓を建ててこの日は帰路に着いた。




............


「僕たちはあの悲劇を忘れてはいけない。

本当に万が一時だけ頼む。」


「わかったよ。本当にこの能力面倒くさくて嫌だなー」

 


 君はあまり理解してないようだけど、本当に面倒くさくて、危険で、なによりチートな能力なんだ。何故あの魔女はこいつにこんな難しい能力を与えたのだろう。



 嫌がらせだな、この世界の全ての生物に対しての。本当に仲間になっていてよかった。



         ✢


 彼女を諭し終え、屋敷のベルを鳴らす。

反応がない。仕方がない突入だ。


「普段は死ぬほど慎重なのに、なんで今日はこんな大胆なのよ」


 

 中に入ると、奥の部屋から人の声がする。

あそこに僕のケモミミ.......いや、悪い勇者がいるのか。意を決して扉を開けるとそこは




 楽園だった。ケモミミ娘たちがいちゃいちゃしているだけの、ただの楽園だった。どうやら部屋を間違えたようだ。


「お邪魔してすみません、どうぞ続けてください」


 光景を目に焼き付けながら部屋を出ようとすると



「待ちなさい!情報は入っているわ、あなた達が私の楽園を邪魔しにきた勇者ね」



 ケモミミ娘達の中から、かわいい猫耳娘が出てきて、猫耳を外して武器を構えた。



 悪い勇者って女なのかよおおおおおおお!



「同性ならセーフというルールの穴を突く、私の最高のハーレムは誰にも邪魔させない!死なない程度にボコってあげるからかかってきなさい!」    



 えぇ.....。女の子と戦うのかよ。

 ‎

 しかし、村の人々のためにも、僕たちの精神衛生良好なレベリングのためにもこの色欲女は倒さなくてはならない。勇者『無職』、女相手でも容赦はしないぞ。






  



 史上最低の欲まみれの戦いが幕を開ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る