第6話 無職卒業、その先に待つは職場いじめ

 王立図書館ではあまり情報を得られなかったため、僕らはレベリングをしながら地道に自らの足で情報を集めることにした。



「レベリングするなら安全で効率の良い場所がいいよね。こういうのって情報屋から買ったりするのかな?ア○ゴさんみたいな人から」


「私ここに来てすぐ魔王の攻略法知りたくて探したけど居なかったよ、鼠のアル○さん的な人。でも良いレベリングスポットは分かるよ、あの童貞たちが得意気に教えてきたの」



 ありがとう童貞たち、君たちの命は無駄にしないよ。

 ‎


「街の南の草原が一番手っ取り早くレベル上げできるみたい」


「じゃあまずはよしこの装備を整えよう。そんなんじゃまともに───」


「待ってよ。そろそろ教えてくれてもいいでしょ、伝説の勇者『無職』の能力」



そろそろ潮時かな。素直に話せば分かってくれるはず。


「僕の武器はEnterキーだよ。そう、これが伝説のEnterキー!能力は分かりません!」


彼女の眼前に高らかに掲げる。


「こんなのが私を救ったのね。なんか恥ずかしいな」


「そんな訳で能力が分かるまでは都合の良いレベリング仲間だと思ってて。しょうもない能力だったら捨てちゃっていいからさ」


「捨てないよ。私を助けてくれた能力がしょうもないわけないでしょ」


お、デレたぞ!わーい


.........なんで睨んでるのかな。あ、口に出してた?やっべえぞ!(CV.野沢○子)


         ✢


 ひとしきり怒られた後、彼女の武器の能力を尋ねた。


「私の武器はこの双剣。切った物を軽くして、軽くした分切ったものを重くすることもできるよ」


「随分能力について詳しいんだね。いろいろ試したりしたの?」


「私まだ戦闘もしたことないよ。ここに来る前あの女の人が教えてくれたの」



 なんか僕だけ待遇悪くないすか?あの女への苛立ちを抑えられない。



.......待てよ、そんなことよりその能力チートじゃない?


 運動エネルギー保存則など諸々の物理法則を無視している。というか攻撃して相手の質量が0になったらどうなるんだ?

 ‎留まることができないから光速で動き出して体が耐えられず自壊するのか?

 ‎それともファンデルワールス力とか働かなくなって原子レベルでバラバラになるのか?






とりあえず、怖ええええええええええ‼



絶対彼女には逆らわないと僕は心に誓った。


     

         ✢


 双剣使いとしてその装備がいかに愚かであるかを説明し、なるべく身軽な装備を彼女に装備させ、早速街の南の草原に繰り出す。


 

 僕らを待っていたのは思った通りの草原だった。奇怪な植物もちょい茂っているが、つい100年前までは平和だっこともあり、多少年季は感じるものの、大きな街道が整備されていてる。


 周りには僕達以外にも勇者も沢山いるため、よしこのチート能力がバレると面倒なので彼女には能力を使わないで戦ってもらうことにした。

 ‎  

 最初の草原だからか、敵という敵はスライムしかいない。その上そんない強くない。僕達のレベリング作業は景気よく始まるはずだった。





「「気持ち悪いよおおおおおお!」」




 鳥○明先生のデザインした、いわゆるスライムを予想していた僕らを待ち受けていたのは、なんかドロドロで茶色いやつだった。

 


 ベトベ○ーを彷彿とさせるフォルムにその茶色さは悪い意味でベストマッチしている。

しかも一回攻撃する毎に「グホォエッフ」と限りなく気持ち悪い声を上げる。


 

 レベル5に達したあたりで僕達は肉体ではなく精神の限界を迎え帰路についた。




         ✢


「もうやだ、こんなんだったら海に落ちたほうがましだよ」


「同感だ、もう少しレベルアップして余裕ができたらさっさと次の町に行こう。もっと『モキュモキュッ♡』みたいな可愛いやつとエンカウントできる所で本格的なレベリングをしよう」



 僕らは一週間でレベル20まで上げて、さっさと次の町へ行くことを誓い、お互いの宿へ足を運んだ。




 ベッドに入る前、ふと考えた。レベリング中はスライムの気持ち悪さにやられて冷静さを失っていたが、落ち着い考えるとおかしい点がある。



よしこが強すぎる。



 よしこが2発程度でスライムを仕留める中、僕は12回攻撃しないと倒すことができなかった。僕達は常に一緒に戦っているため、常に同じ経験値が入り、同じレベルだ。彼女は勇者武器で僕は市販の剣であるがそこまで差が開くものだろうか。

 

 やっぱり僕いじめられてる?


【その通りですよー】


ああ、忌まわしい女の声がする。


「お久しぶりですね。やっぱり貴女の仕業でしたか」


【そうですよ。あの年でこんなとこ連れてくるの可哀想だったから、あの娘のステータスは通常の2倍、貴方は嫌いだから半分にしました!】


「いや、僕伝説の勇者なんですよね⁉」


【ええ、そのEnterキーは大事に使ってください。使い方は教えませんが。ちなみに双剣使えるのは彼女だけのユニークスキルです】


 なんでこんなハードモード突き進まなきゃいけないのだろうか。何か悪いことをしたというのだろうか。



......結構してるか。


「僕のことは取り敢えずいいとして、なんで情報の記録を禁じているんですか」


【攻略wikiとか見ながらゲームするの好きじゃないんですよ。やっぱり自分で考えて遊ぶから楽しいんですよ。ユグドラ・ユニ○ンくらいの難易度目指してます】


 この世界を攻略本必携レベルのマゾゲー化しようとしてるのかよ。通りで9000人以上が殺されているわけだ。


「罪悪感とかないのかよ。あるならお兄さんに魔王の倒し方教えなさい」


【ないですよ、よく考えてください。私にはなんのメリットもない慈善活動ですよ。ちょっとぐらい遊び心出してもいいじゃないですか】


んー、まあそうなんだけど、納得いかない。


【今回は貴方を意図的に虐めていることを肯定しにきただけですからこれで失礼します】


「ちょ、待てよ‼まだ聞きたいこと山程あるんですけど!」

 

 とても弄ばれている。いつか痛い目に遭わしたい。



 取り敢えず今のところ戦闘はよしこに頼りっぱなしだ。早いところよしこの手助けができるよう俺だけでレベリングしなくては。





今日はいいとして、明日から本当に本気出さないとダメだぞ。






絶対明日から本気出す。(出しません)





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