第1話 12/22(金) 15:00
放課後の教室にて。
「私、今年こそサンタを捕まえようと思う」
友人たち数名とだべっていた時、突然リョウコがそう言い出した。
「え?サンタ??
いやいやリョウコさ、16歳にもなってまだサンタ信じてるの?」
その場にいた友人に半ば呆れたように返される。
(ああ、この反応、さっきの夢と同じだ)
まだ少し懐かしさを引きずりながら、そんなことではメゲたりはせず反論をする。
「信じるもなにも、毎年我が家には来ているのよ?」
「そんなの、あんたのお父さんが可愛い娘のために一芝居打ってるだけだって。
ハリウッド映画にまで出るほどの演技派なんだから、娘の1人くらい簡単に騙せるわよ」
来ている、と言われても、それだけで信じるほど友人も子供ではない。
サンタ=両親であることは、ある種公然の秘密であり、それはリョウコの家であっても例外ではないだろう、と。
実際、リョウコの父親は日本を代表するほどの名優で、ちょうど今も来年公開予定のかの有名なSF超大作の撮影でハリウッドにいる。
娘を騙すくらいの演技など、朝飯前と言った所だろう。
だが、
「いや、逆にそんなことのためだけにおとーちゃんは帰って来れないよ。
ていうか、帰ってくるなら夜中にプレゼントだけ置いて最愛の娘と会話もせずに戻ったりはしないさ」
「あー、たしかに。
そっとプレゼントだけを置いていく、ってのは“粋”ではあるけど…。
あんたんとこの父親がそれだけで帰る、ってのはありえないね」
「うん、ないね、絶対」
「ありえない」
リョウコが父親に溺愛されていることは友人たちの間でも有名で、口々に『ありえない』という言葉が発せられる。
とはいえ。
それはそれとして、だからサンタクロースが実在する、という証拠にはなりえない。
「じゃあ、母親がそっと置いてった、とか、そんなとこなんじゃないの?
実際に会ったことがあるわけじゃないんでしょ?」
「会ったことはない。
けど、サンタの格好をした何者かが部屋の中にいた事は間違いない」
そう断言すると、カバンの中から1枚の異様な写真を取り出す。
そこにはリョウコの寝顔と、薄ぼんやりとサンタの格好をした人物がプレゼントを置いていると思しき姿が写っていた。
思しきなのは、異常にぶれて写っていたからだ。
何かがぶつかるなどしてカメラが動いてしまうこともあるので、ブレる事がない、とは言わないが、その写真が異様なのは『サンタと思われる人物』だけがブレているという点だ。
リョウコの顔や、他の家具やらぬいぐるみやらはくっきりと写っているのに対し、その人物だけが異常にブレていた。
それは、まるで超高速で動いているかのように…。
「これが去年撮れた写真。
部屋中に11台のカメラとビデオをしかけていたのに、写っていたのはこれだけ。しかも、連射していた中の1枚。前後には写ってなかった。
ちなみに連射スピードは1秒間に20枚」
「…………」
この話が始まってからずっと、笑いまじりに茶化していた友人たちが、一斉に黙りこくる。
リョウコは、たまに突拍子もないことを言うことはあるにしろ、普段はいたって普通の女子高生であり、わざわざこんな手の込んだイタズラをするタイプではない。
それゆえに、その写真の異様さは際立って見えた。
ただの与太話と思っていたものが、どうにも雲行きが怪しくなってきていた。
「なんなら、全部のデータを見せてもいい。
誓って、この写真にしか写っていない」
その静寂に、リョウコは追い打ちをかける。
「べ、別に、そこまでしなくても、大丈夫」
妙な気迫に、友人はそれしか答えられなかった。
「うん、信じてくれてありがとう。
いちおう、その時の動画がこれ」
取り出したスマホには、23:55のタイムスタンプと共に早送りの画像が映る。
だが、23:59を過ぎた辺りで突然ブラックアウト。
暗い画面の中、タイムスタンプだけは止まること無く動き続け、0:01になって再び映像が戻った時には、すでにそこにはプレゼントが置かれていた。
「一応言っとくと」
「加工はしてない、だろ?」
「うん」
「もう、誰も疑ってないから、大丈夫」
「そか。
あ、あとね、もう一つおかしなことがあって」
「…………(ごくり)」
誰かのつばを飲み込む音が響く。
思いもよらない展開に、その場にいた全員が謎の高揚感を覚え、息を呑む。
「全ての出入り口に、開けたことがわかるように仕掛けをしておいたんだけど、朝起きたらどの出入り口も一切開けられた形跡がなかったの。
それと…」
「ま、まだあるのか…?」
「『いつもありがとう』って書いたメッセージカードに…」
一旦言葉を区切り、カバンから今度はメッセージカードを取り出す。
リョウコの癖のある丸字の下に、お手本のようなきれいな文字で『どういたしまして、来年もいい子で1年過ごしてください』と書かれていた。
「こんな風に返事が。
ちなみに…」
再度言葉を区切ると、カバンから別のメモを取り出し、横に並べる。
「これがおとーちゃんの字で、これがおかんの字。
どう見ても別人の字」
そこに書かれていた文字は、じっくり見比べるまでもなく、明らかに別人の筆跡であることがわかった。
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