番外編 タイムカプセル騒動 8
「よう水城。やっぱり来てたのか」
不意にそんな声が聞こえた。声のした方に目をやると、そこには同じ歳くらいの、基山より少し背の高い男子が立っていた。けど……
「……だれ?」
「甘木だよ!友達の顔くらい覚えといてくれ!」
ああ、やっぱりそうか。声が似てたからそうじゃないかと思ってたんだ。しかし……
「人のポエムを勝手に誰かに渡すような悪い友達はいないわ」
「それは悪かったって。いい加減許してくれよ。俺だって気になって様子を見に来たんだから」
頭を下げて手を合わせてくる甘木。まあ悪気があったわけじゃないみたいだし、すんだことをいつまでも攻めたって仕方がないか。
「わかったわよ。無事……だったかどうかは分からないけど、何とか回収できたことだし、今回の事は大目に見るわ」
「ありがとう。俺も次から気を付けるよ」
次があればだけどね。そんな事を思っていると、甘木はふと基山に目を向けた。
「そういやさっきから気になってたんだけど、隣のヤツは彼氏か?」
「ああ"っ?何バカなこと言ってるのよ」
思いっきり睨みつけると、甘木は顔を青ざめて後ずさる。
「ち、違うのか?こんな所まで連れてくるくらいだからてっきりそうなのかと。もし彼氏ならみんなにも教えてやろうかなって……ゴメン、俺が悪かった」
悪いなんてもんじゃない。さっきは大目に見るなんて言ったけど、撤回しようかな?
基山は善意で手伝ってくれただけなのだ。それなのに私の彼氏扱いなんてされたら良い気分はしないだろう。
基山の様子を窺うと、思った通り。何だか悲しそうな顔をしているじゃない。
「どこをどう見ればそんな勘違いをするわけ?」
「悪い、何だか仲が良さそうに見えたから。水城、男子とはあまり喋らなかったのに」
「男子より女子同士の方が話しやすかっただけよ。そもそも、仲が良ければ何でも彼氏って思うのがおかしいわ。生憎基山とはそういうんじゃないから。この先もずっとね」
これだけハッキリ言っておけば、甘木もこれ以上変な勘繰りはしないだろう。だから基山、そんな泣きそうな顔をしてないで元気を出しなって。
すると基山は、何だか力のない声を出す。
「水城さん、本当は僕の事嫌いだったりする?この前の事件の時も色々やっちゃったし」
「はあ?何を言っているの?そんなわけないでしょ」
せっかくフォローしてあげてるのに、いったいどうしてそんなことを言い出すのか。すると基山は尚も力のない様子で、今度は甘木に挨拶を始める。
「僕は水城さんの高校の同級生で、基山って言います。水城さんとは本当にそういうんじゃ無いから……今日はただ付き添いで来ただけだから」
「本当にそうなのか、それは悪かった。けど、基山って言ったな。大丈夫なのか、なんだか凄く辛そうな顔をしてるけど」
「大丈夫、慣れてるから」
そうは言うけどこの元気の無さ。やはり彼氏扱いされた事が相当嫌だったようだ。女子アレルギーだし、きっとそんな風に誤解されることに耐性が無いのだろう。
「甘木がおかしなことを言うからでしょ」
「そうか、俺のせいか。すまん、悪かった」
「本当に気にしないで。君は全く何も悪くないから」
すんなり許しちゃったよ。あんなことを言われても怒らないだなんて、相変わらず基山はお人好しだ。
すると今度は話題を変えるように、甘木が私に向き直る。
「それにしても、水城も元気でやっているみたいで良かったよ。中学に入ってからは学校別になったけど、結構心配している奴もいたからなあ」
「ありがとう。それじゃあその人達に伝えておいて。楽とは言えないけど、何とかやっていけてるって。頼りになる友達もいる事だし」
ちらりと横目で基山を見ると、今度は照れたように目を逸らされる。
「だったら良かった。たまには誰でも良いから、こっちにいる奴に連絡して来いよ」
「そうね。いつか時間を作って、遊びに来るのも良いかもね。今日はいきなりだから無理だろうけど、会ってみたい友達も多いし」
「おう、その時は俺も呼んでくれよな」
「……覚えていたら」
「忘れるな!なあ、電話した時くらいから思っていたけど。水城ってもしかして、俺の事嫌いか?」
別に嫌いじゃない。特に好きでもないし、興味もないだけだ。けどこれを言ったらまた話が長くなりそうだから黙っておくとしよう。
「まあいいや。それじゃあ俺は用事があるから帰るわ。ホント、何かあったら電話でもメールでもしろよ」
甘木はそう言って帰って行った。もしかしたら忙しい中、ポエムの事を気にして来てくれたのだろうか。
「良い友達だね」
「まあ悪い奴じゃないわね。大事な所でやらかすのが玉に傷だけど」
さっき去り際にメールでもしろと言っていたけど、アドレスを交換してないことに気付いていなかった辺り、やっぱりどこか抜けている。
そもそも今回の騒動は甘木が私のポエムを、他の作文と一緒に渡してしまったせいなんだし。もう二度とこんな騒ぎが無い事を祈るばかりだ。
「そういえば水城さん、さっきはごめん。僕のせいで変な勘違いをされて」
「勘違いって…ああ、彼氏と思われたこと?別に良いわよ。それに、嫌な思いをしたのは基山の方じゃないの?」
「そんな事無いから。僕はむしろ……嬉しい…」
基山は何やらごにょごにょと言っているけど、よく聞こえないや。
「それより、水城さんは本当に気にしてない?多分大丈夫だと思うけど、もしまだ誤解していて、誰かに喋ったら。水城さん、昔の友達に好きな人とかいなかった?その人の耳に入ったりしたら……」
「ずいぶん具体的な想像をするわね。心配しなくても、誤解されたら否定すればいいだけよ。それに気にしているみたいだけど、好きな奴なんていなかったから、その辺は無用な心配よ」
「そうなの?ちょっとでも気になったり、タイプだなって思った男子もいなかった?」
「いなかったわね、全く。そう言うのに興味なかったし」
「そうなんだ。良かった」
ホッとしたように息をついた。最近の基山は、たまに変な事を気にするんだよね。
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