番外編 タイムカプセル騒動 7
この駅には展示スペースなるものが存在している。
地域の陶芸クラブの人達が作った焼き物や、小学生の北似顔絵などが定期的に展示されていて、駅利用者を楽しませてくれているのだ。
私達が足を踏み入れた展示スペースには移動式の掲示板が並べられていて、そこには小学校の頃の私のクラスの面々が書いた作文の数々が、所狭しと並べられていた。
夢や希望に溢れた楽し気な作文もあれば、将来日本はどうなっているかを真剣に予想した作文もある。みんな色々と考えてたんだなあ。
本当はこれらの作文をもうちょっと読んでいたいと思う。だけど残念ながら、今の私にはそれを楽しむだけの余裕なんて無かった
「これは田辺さんのヤツ、こっちは雪ちゃんの作文……」
一つ一つ確認して回っているけど、なかなか自分のポエムが見つからない。すると、同じように探してくれていた基山が不意に声をかけてきた。
「あったよ。水城さんが書いたやつ」
「えっ、どこ?」
基山に案内されて移動すると、そこには確かに私の書いた文章があった。
「これだよね」
「うん……確かにこれは私が書いた物。何だけど……」
生憎それはポエムではなく未来の自分に向けて書いた作文だった。拙い文章で、キチンと就職して家族に迷惑を掛けて無いかと書かれている。
「ごめん、探しているのはこれじゃないわ。もっとおかしな、たぶん基山が呼んでも意味不明なやつ」
「意味不明って、本当に何を書いてたの?」
「だからそれは聞かないでって。手伝ってくれているのになんだけど、もしそれっぽい物を見付けても、あまり中身は見ないでほしいかな」
「……分かった、気を付けておくよ」
ホントにごめんね。だけどその後いくら探しても、私のポエムは見つからない。
「本当にここにあるのかな、そのポエム」
「どうだろう、分からなくなってきた。けどそうなると、知らない所で誰かに読まれていないかが心配ね」
最初電話で甘木から、私の入れた品が無いと聞いた時はまあいいかなんて思っていたけど、こうなってくると何だか不安になってくる。いったいどこへ行ってしまったのだろう、私のポエム。そう思った時……
「何かお探しでしょうか?」
不意に後ろから声を掛けられた。振り返るとそこには、職員と思しき男性が立っていた。
「すみません、作文ってここにあるので全部なのでしょうか?」
「そのはずですが、何かお探しですか?」
「作文というか……おかしな詩みたいな物を探しているのですけど」
言葉を選びながら何とか伝えようとすると、心当たりがあったのか、職員さんは「ああ」と声を出す。
「詩、ですよね。たぶんアレのことかな」
「何か知ってるんですか?」
食い気味に尋ねる。職員さんは少し圧倒されたようだったけど、すぐにそれに答えてくれた。
「明らかにこれらの作文とは違う包みがあったので、展示させずにとってあるんですよ。少しお待ちください」
そう言うと職員さんはどこかへ行き、しばらくして茶色い封筒を持って現れた。
「探し物はこれでしょうか?」
差し出されたそれを受け取り、中身を確認する。
何枚かの原稿用紙に書かれたこっ恥ずかしく痛い文章。間違いない、これは小学校のころ私が書いたポエムだ。
「これです、ありがとうございます」
私は深々と頭を下げ、隣にいた基山もホッとした表情を浮かべる。
「見つかって良かったね。それに、展示されていないのは幸いだったね」
「私達も最初は展示しようとしてたのですけど、これらだけ他の物とは毛並みが違いましたからね。面白い内容だったので迷いましたよ。特に情けは人の為ならずの詩は……」
「ああー!それ以上言わないでください!」
慌てて止めに入る。
そうだよね。この人はバッチリ中身を見ているんだよね。とても人様にお見せできない、あんな文章やこんな内容を……
「何はともあれ、持ち主が見つかって良かった。それでは私はこれで」
そう言って職員さんは去って行った。けど、心なしか彼の口元は緩んでいたように思える。もしかして必死に笑いをこらえていたのかも。
「……笑ってた。口には出さなかったけど、きっと心の中では私の事を痛い女だって思ってるんだ」
「水城さん落ち着いて、それはきっと被害妄想だから。それにたしかにさっきの人には見られたようだけど、展示されるよりはマシじゃない」
「それはそうだけど……」
基山の言う通りではあるけど、このポエムを見たのがさっきの人だけとは限らない。他の職員の人も見たかもしれないし、いったいどれほどの人がポエムを目にしたのか見当もつかない。
「読んだ人が中身をネットで拡散しなければいいけど」
「あの人達は職員だからね。もしそうしたら問題になるだろうから、きっと心配いらないよ」
だと良いけど。なんにせよこれ以上できる事なんて無い。あとはこの回収したポエムをどうするかだ。
ちょっと躊躇いもあるけど、家に帰ったらハサミでバラバラに切って、燃えるゴミにでも出そうかな。
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