番外編 タイムカプセル騒動 6
事故があったり列車に乗り遅れたり。度重なるトラブルに見舞われながらも、私達はようやく目的の駅へとたどり着いた。時刻はもう十一時を過ぎていたけど。
「よ、ようやくついた」
途中からは歩いての移動だったため、私はちょっと息切れしている。同じように歩いてきた基山は平気そうな顔をしているけど。
「大丈夫?少し休もうか?」
「良い。それよりも早くポエムを回収しないと。それにしても、今日はとことん厄日ね」
実はお婆さんの荷物持ちを手伝った後、迷子になって泣いている子供を見かけて親を探したり、田舎から出てきたばかりで道が分からないという人に声を掛けられて案内したりしていたのだ。
「けど急いでいるのに、結局全部に手を貸してたよね」
基山はそう言って優しいと褒めてくれた。だけど、優しいとは違うのよね。
「そんなんじゃないわよ。私の場合、恩返しをしているようなものかな」
「恩返し?でも、今日会った人達とは初対面なんでしょ」
不思議そうに首をかしげている。まあ無理もないか。恩返しと言っても、これは自分に設けたルールに従っての行動なのだから。
「私が恩を返したい相手はあの人達じゃないわ。普段からお世話になっている人、例えば原田さんかな。身寄りのない私達にアパートを貸してくれたし」
お母さんが死んだ後もし原田さんがいてくれなかったら、私は八雲と離れ離れになっていたかもしれない。そう考えると、本当に感謝してもしきれないくらいの恩がある。
「だけど生憎私じゃ、原田さんのためにできる事なんて無いから。だから代わりに手の届く範囲で良いから、誰かの力になれればいいなって思ってるの」
「そうなんだ。何だか立派な考えだね」
「そうでもないわよ。それで、私が手を貸した人は、今度は別の誰かの力になる。その人は次の誰かを助ける。そうやって廻って行けば、ゆくゆくは原田さんや、お世話になった人達に行きつくんじゃないかって思ってるの。『情けは人のためならず』って言うじゃない」
「それって、情けをかけてもその人のためにはならないって意味じゃないの?」
「そう勘違いしている人も多いけど、あの諺は本来『人に掛けた情けはいつか廻り廻って自分に返ってくる』って意味よ」
「そうだったんだ、初めて聞いたよ。水城さんって物知りだね」
「たまたま聞いた事があるだけよ」
確か小学生の時にテレビで聞いた覚えがある。
その時私は、今の基山のようにその意味位に感心して、それを意識したポエムを綴ったっけ。今思い返すとこから火が出そうなくらい恥ずかしい文章で。
「……さて、話はここまでにして、早いとこ行こうか」
あんなものをいつまでも人前に晒しているわけにはいかない。私は駅に向かって歩き出し、基山も後ろからついてくる。
そんな基山を横目で見ながらふと思う。
恥ずかしいから決して本人には言わないけれど、さっき言った感謝している人の中には、基山だって含まれているんだからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます