番外編 タイムカプセル騒動 9
さて、これからどうしようか。
そう思った時、不意にポケットの中のケータイが鳴りだした。取り出してみると、着信は八雲からとなっている。
そう言えば掃除を任せたまま出てきてしまったから、もしかしたら怒っているかもしれない。何と言って謝ろうかと考えながら電話に出ると、八雲の声が聞こえてくる。
『姉さん、探し物は見つかった?』
「何とかね。今回収したところ。ごめんね、掃除押し付けちゃって。すぐに帰るから」
早く帰って手伝わないと。けど、ケータイからは遠慮がちな声が返ってくる。
『こっちは僕がやるから大丈夫だよ。それより、基山さんはまだ付き合ってくれているの?』
「うん、隣にいるよ」
そっと基山に目をやる。代わろうかとも思ったけど、それよりも早く八雲は言ってきた。
『姉さん。基山さんをここまで付き合わせたんだから、何かお礼をしなきゃ申し訳ないよ。せっかくだから街を案内してあげるなり、二人でご飯を食べるなりしてきて』
それもそうだ。こんなバカらしい騒ぎに巻き込んでしまったのだから、せめてそれくらいの事はしないと。
「でもそれじゃあ、八雲のお昼はどうするの?」
『僕はあるもので適当に済ませるから、気にしないで。一応言っておくけど、二人で、だからね。くれぐれも他の人を誘ったりしないようにね』
何だかやけに念を押してくるな。わざわざ言わなくても、他の人を誘ったりはしないけど。
私が声を掛けられる友達となると女子ばかりだけど、女子アレルギーの基山にとってそんな子達と一緒に食事をしても緊張してしまうだけだろう。
「とりあえず分かった。八雲、どこかに出かける時は、ちゃんと戸締りするのよ。なるべく早く帰るからね」
『だから僕のことは気にしないでって。それじゃあ、基山さんにもよろしくね。ごゆっくり』
そう言い残して電話は切れてしまった。
さて、それじゃあこれからどうしよう。そろそろお昼だからどこかで食事をするのは悪くないけど、それなら基山の意見もちゃんと聞かなくちゃね。
「ねえ基山、今日は迷惑かけちゃったから……」
ご飯でも奢らせて。そう言おうとしたけど、先に基山が喋り出す。
「さっきの八雲との会話は聞こえていたから、言いたい事はだいたい分かってる。だけど水城さんはそれで良いの?無理に気を使ってくれなくてもいいけど」
「別に無理なんてしてないわよ。基山の方こそどうなの?何か予定あったり、迷惑だったりしてない?」
「してない!迷惑だなんてとんでもない!」
それは良かった。今日の一件以外にも基山にはよくお世話になっているから、ここで少しでも恩を返しておきたい。そんな事を考えていると、基山が何かブツブツ言っているのに気が付いた。
「二人で食事か……八雲、ありがとう」
「何か言った?」
「ううん、何でもない」
「そう、ならいいけど。ねえ、お昼に何か希望はある?」
「特には。そもそもこの辺に来るのは初めてだし、どんな店が良いのかもわからないから。水城さんのおススメの店ってある?」
おススメねえ。実はこの辺に住んでいたとはいえ、外食はあまりしていなかったからなあ。全国展開しているファミレスやファーストフード店には行ったことがあるけど、そこに連れて行くのも何だか違う気がする。となると…
「案内できるようなお店はラーメン屋くらいしか無いんだけど、良い?」
「うん、全然大丈夫」
「本当に平気?餃子や炒飯にニンニクを使ってるから、少し臭いがきついかもしれないけど」
基山は吸血鬼だから、これは辛いのではないだろうか。もしかして、ファーストフードの方がまだよかったかも。
「……たぶんいけると思う」
一瞬間があったけど、本人が大丈夫というのならとりあえずは連れて行くとしよう。
基山の事だから一度承諾した手前断り辛いだけかもしれないけど、無理をしていると思ったらその時に何とかすれば良いかな。
「それじゃあ行こうか。ついて来て」
「了解」
私達は連れ立って歩き出す。かつて住んでいた街を基山と歩くというのも、なんだか不思議な感じがする。
「特に面白みの無い所でしょう」
「そんなこと無いよ。知らない町を歩くのも結構面白いし」
「だったらいいけど。ごめんね、大したお礼もできなくて」
「気にしないで。むしろ僕の方が感謝しているくらいだから」
どういう事だろう。感謝されるような事をした覚えは無いのだけど。不思議に思ったから聞いてみたけど「一緒にいられるから」だの、「水城さんの昔の話を聞けて楽しかった」だの言われて、正直何が言いたいのかよく分からなかった。
まあ良いか。足りない分の埋め合わせは、また今度考えるとしよう。
基山はお隣さんでクラスメイトなんだし、廻り廻ってなんて悠長なことを言わなくても、そのうち恩を返せる機会なんてやってくるだろう。
そんな事を考えながら、私達は並んで街を歩いて行った。
【タイムカプセル騒動 完】
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