同級生の吸血鬼くん 8

 食事が終わり、私は食器の後片付けを始める。

 茶碗にお皿。スポンジでそれらを擦っていると、居間にいる八雲と基山の話す声が聞こえてきた。


「そう言えば、基山さんも吸血鬼なんですよね」

「そうだけど、八雲は吸血鬼の知り合い初めて?」


 基山の言葉に八雲が頷く。女子アレルギーのことは八雲にも知られたくなかったようだけど、吸血鬼の方はそうでもないらしい。


「実は学校に吸血鬼の子がいて。その子は吸血鬼だって理由で虐められているんです。それで、どうにか力になってあげたいのですが」


 なるほど。吸血鬼だから虐めるなんて、酷いやつがいたものね。

 話を聞いていた私は洗い物を中断して、居間に戻る。


「吸血鬼だから虐めるって、まだそんな奴いるの?」


 八雲の声は深刻そうで、基山が女子から虐められていたのとは、程度が違うという事がうかがえた。


「吸血鬼の子は悪い子じゃないのですが、どうやら虐めている子の家が熱心な宗教家らしくて。事あるごとに酷い事を言っているんです」

「アンチ吸血鬼か。数は減ってきたけど、まだなくならないね」


 基山がため息をつく。この様子だとどうやら私の気づかない所では、まだ小さな問題は残っていそうだ。


「だったら、八雲がまずその子と友達になってあげれば良いんじゃないかな。八雲と仲良くしているのを見たら周りの子も、その子が悪い子じゃないって分かってくれるかもよ」

「そうね。私も昔吸血鬼の友達がいて、その子もなかなか周りに馴染めなかったけど。私と仲良くなってからは周りの態度も柔らかくなったわ」

「え? 吸血鬼の友達なんていたの?」

「幼稚園の時にね。ちょっと待ってね」


 そう言って私は、棚の上に置かれた写真立を持ってきた。

 中にある写真には幼稚園の庭で、ドラキュラ伯爵の格好をした女の子と、魔女の格好をした女の子が並んで写っていた。


「このドラキュラの格好をしているのが吸血鬼の子?」

「ううん、それは私」


 そう答えると基山は、写真に写った子と私を、驚いた様子で見比べる。だけど面影を感じたのか、納得したように頷いた。


「吸血鬼は隣の魔女の格好をした女の子の方。この写真はハロウィンの時撮ったんだけど、この子は毎日吸血鬼やっているんだから、この日は別の何かになったらどうって私が提案したの。それで、私はこの日はこの子の様になりたいからって言って、ドラキュラの仮想をしたのよ」


 すると今度は八雲が、写真をまじまじと見つめる。


「そんな事があったんだ。そう言えばこの写真は何度も見てるけど、この人のことは聞いた事なかったっけ」


 そう言えばそうだったっけ。けどこの魔女の子は幼稚園の時最も仲が良かった子で、吸血鬼とか関係なく、よく一緒に遊んでいた。


「八雲、一度その子をうちに連れてくると良いわ。基山を見ていれば分かるだろうけど、吸血鬼も人間もそう変わらないもの」

「うん、そうしてみるよ」


 八雲は笑顔で頷いてくれて、一方基山は、穏やかな目で写真を見つめる。


「たぶんこの魔女の子、水城さんと友達になれてとても嬉しかったと思う。この頃はまだ吸血鬼に対する偏見が今より酷かったから。この子は今どうしてるの?」


 そう聞かれたけど、ちょっとわかんないんだよね。

 卒園と同時にその子は引っ越してしまって、それ以来会っていないんだもの。連絡先が分からないとはいえ、我ながら薄情だと思いながらも、その事を基山に話す。


「そうなんだ。けど、この子は今でもきっと水城さんを友達だと思ってるんじゃないかな。水城さんだってそうでしょ?」

「そりゃあ、ね」


 引っ越す際に不要なものは処分したけど、今でも友達だと思っているその子と写った写真は、こうして取ってある。けど、面と向かって言われるとなんだか照れくさい。そんな私の心情を察したのか、基山が余計な一言を言ってきた。


「照れなくても良いのに。水城さんが優しいってだけなんだから」

「うるさいっ」


 変なこと言うんじゃない!

 何とも言えないくすぐったさを感じながら、照れ隠しに基山を軽く叩いてやるのだった。

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