同級生の吸血鬼くん 7

 普段二人でとる夕飯の場に、基山がいるというのもなんだか不思議な気分。けど、悪い気はしない。

 そうして三人で食事をとっていると、ふと昼間に聞き逃したことを思い出した。


「そういえば、基山に聞きたいことがあったんだけと……。ねえ、いったいどれくらい、女の子が苦手なの?」

「うぐっ」


 あ、ちょうど水を飲んでいたもんだから咳き込み出した。

 事情を知らない八雲は、不思議そうな顔をして、何とか落ち着いた基山は、気まずそうに私を見てくる。


「ちょっと、なんで今その話を?」

「今日昼間聞こうと思ったんだけど、タイミング逃しちゃって」


 体育の授業の時聞けずに、それからは機会がなかった。それにしても、基山はやけに慌てているような……ああ、なるほど。

 基山はさっきから八雲の方をやたら見ている。どうやら八雲にも知られたくはなかったらしい。

 よく考えたら、弱点なんて知られたくないよね。学校で黙っているよう言われていたけど、無意識のうちに八雲はノーカウントだと思っていたけど、悪いことしたかな。


「あの、基山さんって女子が苦手なんですか?」


 当然の疑問を口にする八雲。そうだよね、こんな話を聞いたら気になるよね。


「まあ、ちょっと得意じゃないかも。ちょっとだけね」


 慌てて取り繕おうとする基山だったけど、本当にちょっとなのか強がりなのか。私が気になったのはそこだ。


「本当にちょっと? 手を握られるのとかは平気?」

「……頑張れば何とか」


 と言うことは、頑張らないと無理という事か。

 話していて思ったけど、もしかしたら女子と喋るのもあまり得意じゃないのかもしれない。時々おかしなタイミングで目を逸らしている。


「けど、苦手な割には学校では普通に女子と話したり、手伝いしたりしてるわよね」

「それはたぶん、親の教育の賜物だと思う。吸血鬼男子たるもの、子供や女性には常に紳士であれって、小さい頃から言われてきたから。失礼な態度をとったり、避けたりしたらいけないって」

「何よそれ、家訓なわけ?」


 何とも変わった御両親のようだ。もしかして、学校でよく色んな人の手伝いをしているのも、八雲の面倒を見てくれたのも、その家訓の賜物なのかな。

 とにかく、そのおかげで女子アレルギーにも関わらず普段は割と普通に女子とも話せるらしい。


「それに、苦手だからって露骨に嫌がって、相手に不快な思いをさせるのは嫌だしね」


 ああ、だから普段女子にも基本優しく接していたのか。しかし、そうした態度のせいで可愛がられてしまう事に本人は気付いて無いのだろうか。

 そこまで考えた時ふと、昨夜私と手が触れた時基山が湯呑を落としたことを思い出した。


「それにしては昨夜、私のこと怖がってなかった?」

「それは……ちょっと油断していたから。急に手を触れられたり、近づかれたりしたらちょっと」


 常に気を張ってはいられないという事かな。でもそれって、かなり大変そう。これじょあもしかしたら、来週の林間学校中に、バレるのではないだろうか。


「そもそも、油断してなかったとしてもアレは無理だよ」


 アレ? ああ、私が壁に追い詰めちゃったアレか。思い出した基山は私から目をそむけている。



「姉さん、いったい何をしたの?まさか、何か迷惑をかけるような事はしていないよね」


 八雲が不安そうに聞いてくる。もしかしたら私が基山を虐めたとでも勘違いしているのではないだろうか。だとしたらゆゆしき事態だ。


「大したことじゃないわよ。ちょっっっとだけ怖がらせちゃったかもしれないけど」

「十分迷惑かけてるじゃない」


 そう言われても……。私はすがるような気持ちで基山に目を向ける。


「基山からも何か言ってやって。何があったか、基山の口から説明してあげてよ」

「ええっ、アレを説明しなきゃいけないの?」


 何も難しい事じゃないでしょ。壁に追い詰められて、震えていたって言えば良いだけなんだから。


「説明するのが難しいなら、今から再現しても良いわ。ちょっと壁の前に立ってみて」

「再現なんて絶対に無理っ!」


 そんな、それじゃあどうやって八雲の誤解を解くのよ。

 しかし基山は頑なに首を縦に振ろうとはしない。うなだれる基山に八雲は「姉さんがすみません」と謝っているから、絶対に私が虐めたと思っているだろう。


「ごめんなさい。姉さんには後で僕が注意しておきますから」


 深々と頭を下げる八雲。どうやら今は何を言っても無駄のようだ。

 仕方ない、誤解を解くのは後にして、今は夕食を再開しよう。いつまでも話していては、せっかくの料理が冷めてしまう。そう思いながら、スプーンですくったシチューを口へと運ぶ。

 基山が作り方を教え、八雲が作ったそのシチューは、やはり美味しかった。

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