同級生の吸血鬼くん 6
放課後。バイトを終えた私は、そのまま帰路についていた。
昨日八雲が熱を出したばかりだから、本当は学校が終わったらすぐにでも家に帰りたいって思ったけど、すでにシフトを入れていた以上、迷惑はかけられなかった。
それに、来週には二泊三日の林間学校があるのだ。その間はもちろんバイトができなくなるので、今のうちに稼いでおきたい。
「高校生なんだから、そういった行事はしっかり楽しんでくるんだよ」
店長はそう言ってくれて、三日間休みたいという私の要望を、快くきいてくれた。
私は本当に沢山の人に支えられながら生きている。昨日基山が帰った後、原田さんにも電話して八雲の無事と、基山が面倒を見てくれたことを伝えると、原田さんは安心の声を上げていた。
原田さんは電話越しに、「基山君にもお礼を言っておかなくちゃね」そう言っていたっけ。本当は原田さんがお礼を言う事ではないのだけど、よほど嬉しかったのだろう。
そんな事を思い出しているうちに、八福荘に着く。外付けの階段を上り、自宅の前まで来てドアを開けた。
「おかえり、姉さん」
そう言って八雲が出迎えてくれる。もしかしたら熱がぶり返してはいないかと少し心配していたけど、どうやら大丈夫そうだ。そんな八雲の様子を見ていると。
「お邪魔してます」
何故か部屋の奥からおずおずと基山が出てきた。けど、どうしてうちに?
「八雲の様子を見に来てた。昨日の今日だから一応、ね」
頭に浮かんだ疑問に、素早く答えてくれる基山。なるほど、そういう事か。
それにしてもありがたい。持つべきものは良き隣人だ。私がそう思っていると八雲が楽しそうに声をあげる。
「勉強を見てもらったり、料理を教えてもらったりしてた」
「そうなの? ありがとね基山。本当は私がしなきゃいけないんだけど、なかなか時間が取れなくて」
「まあ、勉強は教える必要無かったかもしれないけどね。水城さんもだけど、八雲も頭いいね」
「まあ八雲は頭いいけど。基山、私の成績知ってたっけ?」
まだ学校は始まったばかりで、テストだって行われていないというのに。
「そりゃあ、新入生代表挨拶していたからね。成績良いって分かるよ」
ああ、そういえばそうだったっけ。
お母さんが死んだことで、急に志望校を変えることになったのが冬。その後新居に近いという理由から弧ヶ原学園を受験したのだけれど、猛勉強した甲斐がありすぎたのか、入試の成績が一位だったらしい。うちの学校は進学校だけど、そこで一位というのは自分でもびっくりした。
まあ入学してからは勉強よりもバイトに力を入れているから、次のテストの時にはきっと順には下がっているだろうけど。
私は鞄を部屋に置くと台所へ向かう。コンロを見るとそこには鍋いっぱいのシチューができていた。そういえば、料理を教えてもらったとも言っていたっけ。するとこれは二人で作ったものなのだろう。
「それじゃあ、僕はそろそろ」
「あっ、ちょっと待って」
帰ろうとする基山を私は呼び止める。
「基山も夕飯まだなんでしょ。だったら家で食べて行ったら」
「えっ、でも……」
基山は言葉を濁す。どうやら一家団欒の場に自分がいていいのかと思ったらしいけど、こんな風に夕飯まで作ってもらってそのまま返すわけにもいかない。私は別に気にしないし、八雲だって基山にはなついているみたいだし。
「嫌なら無理にとは言わないけど」
「別に嫌じゃないけど、良いの?」
「私は問題ないわ。八雲もそうでしょ」
「もちろん!」
ほら、そういうわけだから、ゆっくりしといてよ。
そんな感じで、基山を座らせた後、冷蔵庫から野菜を取り出してサラダを作り始める。
ちょっと強引なお誘いに基山は驚いていたけど、観念したのか、今は八雲と話を始めている。
八雲と知り合ってから、そこまで長い時間を過ごした訳じゃないはずなのに、打ち解けてくれちゃって。お姉さんは嬉しいよ。
その後出来上がったサラダとシチューをよそった容器をテーブルに並べ、三人分のご飯を炊飯器からよそった。シチューとご飯は合わないと言う人もいるけど、うちではこれが普通なのだ。
狭いテーブルを三人で囲むとちょっと窮屈だったけど、それでも何とか座ることができた。
「いただきます」
私が手を合わせてそう言うと、八雲と基山もそれにならう。
二人が作ったというシチューを口に運ぶと、クリーミーな香りが口の中に広がっていく。野菜の切り方は家でよくやっている大きめの切り方だけど、基山も大きめに切る派なのかうちの味に合わせたものなのかはわからない。ただ、美味しいことは間違いない。
「美味しいわね。これ」
「基山さんの教え方が良かったから」
「八雲の腕が良かったからじゃないの」
そう言って褒め合う二人。もうすっかり仲良しだ。こうやってすぐに仲良くなれるのを見ると、男の子同士というのも少し羨ましい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます