同級生の吸血鬼くん

皐月side

同級生の吸血鬼くん 1

 朝、台所で今日の分のお弁当を用意し終えた私は、続いて朝食の準備に取り掛かる。

 八雲が熱を出したのが昨日。起きた時にまだ隣で眠っているあの子の様子を見たけど、寝息は穏やかで、顔色も悪くなかった。

 これも私がバイトに行っている間、基山が看病してくれたおかげだろう。彼は夕飯の準備を終えると隣の自分の部屋へと帰って行ったけど、後でもう一度お礼を言っておこう。

 

 さて、それで朝食だけど、八雲の事を考えるとお粥でも作った方が良いだろう。お鍋に水とご飯を入れ、火をつけて温めていると、ふいに背中に気配を感じた。


「姉さん、おはよう」

「八雲、もう起きて大丈夫なの?」


 そこにはいつもと変わらない様子の、寝間着姿の八雲がいた。熱を出したばかりなのだからもう少し眠っているものと思っていたけれど、時計を見るといつも起きてくる時間とさほど変わらない。


「熱はもう下がったの?気分は悪くない?きついなら、今日は学校は休んでゆっくりしないと」

「もう平気。さっき熱を測ったけど下がってたし、学校にも行けるよ」


 そうは言うけど、本当に大丈夫? 無理しているんじゃないかと少し心配したけど……まあ、平気そうかな。


「だったら良いけど、薬はちゃんと飲んでよね。あと、朝食はお粥だけど、食べられるよね」

「うん。ちょっと待ってて。顔を洗ったら僕も手伝うから」

「いいから、そんな事より休んで……」


 そこまで言って、慌てて口を閉じた。

 八雲はどことなく寂しそうな眼差しを、こちらに向けている。昨日基山に、もっと八雲に頼った方がよいと言われたばかりだというのに、ついいつもの調子で言ってしまった。

 思えば私のこんな態度が、かえって八雲のストレスになっているのかもしれない。昨日熱を出したのだって、そういう精神面での負担が原因なのかも。

 だったら、やっぱりちょっとは八雲を頼った方が良いのかな。でも病み上がりなのに手伝わせるのはやっぱり気が引けるし……。


 どうしようかと少し悩んだ末、私はそっと八雲の頭を撫でた。


「今はまだ休んでて。その代わりもし体調が悪く無ければ、今夜から手伝ってくれるかな」

「良いの?」

「うん。ごめんね、今までだって手伝ってくれるって言ってたのに、蔑ろにして。けど、絶対に無理はしないでよ。体調が悪かったり、宿題が多かったりしたらそっちを優先すること。それで良い?」

「分かった。けど、その代わり姉さんも忙しい時はちゃんと言ってよね。熱を出した僕が言える事じゃないけど、姉さん、すぐに無理しようとするんだから」

「そんな事……」


 無い、とは言えないかも。実際最近は寝る時間を削ってバイトや家事に力を入れていたし。


「わかったわよ。忙しい時は、ちゃんと八雲を頼るから」


 そう言うと、八雲は途端に嬉しそうな顔をする。考えてみれば、この子のちゃんと笑った顔を見るのは久しぶりな気がする。

 これも基山からアドバイスをもらったおかげかな。この事も後でお礼を言っておこう。


 そんな事を考えていると、ふと八雲が聞いてくる。


「そう言えば、姉さんって基山さんと同じクラスなんだよね」

「そうよ。それって、基山から聞いたんだよね」

「うん。姉さん、学校のこと全然話してくれないんだもの。どうして教えてくれなかったの?お隣さんなのに」


 少し不機嫌そうな顔をする八雲。別に隠していたわけじゃないんだけどな。


「言う理由が無かったからよ。学校ではほとんど話すことも無かったし」


 正確には学校だけでなく、ご近所さんとしても話すことはあまりないけどね。私より八雲の方がよほど基山と話をしているのだろう。


「お隣さんだし、基山さん良い人だから。学校でももうちょっと話して良いんじゃないの」


 確かに。昨日のこと以外にも八雲が色々とお世話になっているみたいだし、一度ゆっくり話をしてみても良いかも。昨夜は結局、八雲の様子を聞いたのと、実は女の子が苦手だという事以外は何も話せなかった。


「そうね、考えておくわ。さあ、もうすぐ朝ご飯ができるから、顔を洗って着替えておいで」

「了解」


 そう言って八雲は洗面所に向かう。すっかり元気になったその後ろ姿を見てから、私は朝食の準備を再開するのだった。

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