新生活とお隣さん 6

 私がシャワーを浴びている間、基山は律儀に待っていてくれた。私も待っているような気がしたので、いつもは風呂上がりには寝間着に着換えるけど、今日は部屋着を着ている。

 そういえばよく考えたら、男子がすぐそばにいるのにシャワーを浴びて良かったのかなあ? まあ良いか、基山は変な気を起こすような奴には見えないし。


 まあそんなわけで、私は基山をテーブルの前に座らせ、向かい合う形で私も座った。さっき聞いた話だと、どうやら基山が八雲を看病してくれたみたいだけれど、そこに至るまでの過程がまるでわからない。


「今更なんだけど、なんで基山がうちにいるの?」


 まずはそこだろう。なんだか聞くタイミングをいろいろ間違えたような気もするけど、とりあえずそれは確認しておきたい。すると。


「今日学校帰りに部屋の前で八雲と会ったんだけど、なんだか体調が悪そうだったから、ちょっと上がらせてもらって看病してた。ごめん、勝手に上がって」

 

 両手を合わせて謝る基山だったけど、別に良いから。八雲を看病してくれたのだから、お礼を言いたいくらいよ。

 

「そう言えばさっき八雲に電話したんだけど、その時はいなかったの?」

「あれって水城さんだったんだ。八雲のケータイが鳴っていたことは気づいたんだけど、勝手に出ていいか迷って出れなかった。ごめん、何だか心配かけたみたいで」

「別に良いわよ。それはそうと、基山って八雲のこと知ってたっけ?」


 実はさっきからずっと気になっていたのだ。何だか自然に『八雲』って名前で呼んでいるし。


「まあ、お隣さんだしね。それに、八雲とは帰ってくるタイミングが合う時もあったから、時々話すことも結構あったよ」

「そうだったんだ。全然知らなかった」


 どうやら私の知らないところで、八雲はご近所付合いをしていたらしい。この様子だと基山はクラスメイトの私よりも八雲と話した事の方が多いのかもしれない。


「それで、八雲は本当にもう、大丈夫なの?」

「うん。最初は少し熱があったけど、ひと眠りした後は下がってた。多分、生活が変わった事で疲れが溜まってたんだと思う」


 基山の言う通り、引っ越しや転校があったから疲れがたまっていても不思議じゃない。八雲は決して体が弱いわけじゃないけど、こうまで環境が変わったものだから、知らないうちにストレスが溜まっていったのかもしれない。


「ごめんね、迷惑かけて。でも、八雲が体を壊すなんて。やっぱり私がもっと頑張らなきゃ」


 そう意気込んでいると、不意に基山がなんだか言い難そうに口を開く。


「ねえ、八雲から聞いたんだけど。水城さんって、バイトもしているし、家事も一人でこなそうとしてるんだよね」

「うん、そうだけど。って、基山っていったいどこまで家の事知ってるの?」


 別に知られてマズいことは無いのだけど、八雲がいったいどこまで詳しく話しているのかは、少し気になる。


「ご両親のこととか、八福荘に越してきた理由とかは知ってるけど…ゴメン、これも八雲が話してくれたんだけど、いけなかったかな」

「別に良いわよ。けど、ちょっと意外。八雲ってそんな事まで話すのね。普段は他にどんなことを話してるの?」

「お姉さん……水城さんが学校で上手くやっているかとか。癖が強い性格だから馴染めているかどうかが心配だって…ごめんなさい」


 顔をしかめだした私を見て、基山は慌てて謝ってくる。弟にそんな心配をさせるだなんて、私はどんな姉だ。


「それで、ちゃんと答えてくれたの?お姉さんは学校にちゃんと馴染んでいますって」

「それは勿論。と言っても、こうやって話すことも少なかったから多分大丈夫って答えるしいかなかったけど…馴染んでるよね」

「当り前よ!というかそこは知らなくても多分とか言わないで。あの子が心配しちゃったらどうするの?」


 まあ最近の八雲の様子を見ていてもその辺は大丈夫そうだからいいけど。


「それと、これは僕が言っていいのかどうかわからないけど。八雲、もう少し家のこととか手伝いたいって言ってた」

「八雲がそんな事を?つまり、私じゃまだまだ不安だから任せておけないってわけね。分かってはいたけど、あの子にまでそう思われていたのか」

「いや、そうじゃなくてね。水城さん、全部一人で何とかしようとしているんでしょ。そんなお姉さんに負担を掛けたくないから、少しでも力になりたいんだって。だから、八雲にももうちょっと頼って良いんじゃないかな」

「はあっ!? 何言ってるの!」


 予想外の言葉に、私は耳を疑った。

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