第14話 拷問販売

「なぁ、あの女よくね?」

「おー、いいねぇ。すっげぇ美人」

「あはは、可哀想に~」


 一台のバンに四人の青年が乗っている。

 青年達は通行人を見ながら何やら品定めをしていた。


「じゃ、いつも通りに」

「はーい、話してみて無理そうだったら適当にあしらって帰ってくるわ」


 青年達は皆大学生だった。

 本州からこの人工島に来ていた。


「お前、この間のスタンガンちゃんと弱くしたか?」

「あれなー、ヤバかったよな。女の子小便漏らしながらびくびく痙攣して」


 へらへらと笑う。

 彼らは女を騙して強姦を繰り返す、犯罪者グループだった。

 その手口はとても単純だ。

 女に声をかけて車の中に連れ込み、人目に付かない場所まで行って、犯す。

 四人共中々にハンサムで身なりも整っており、在籍している大学も有名な所だ。

 獲物を捕らえる事に苦労はしなかった。

 彼らは地元では犯罪を犯さない。

 やるのは今回のように旅行先でのみ。

 狙う相手も成功しそうな女だけを選び、無理はしない。

 だからこうして警察に追われる事無く何件も罪を重ねる事が出来るのだ。


「薬は?」

「ある」

「じゃあいけるな」


 彼らは捕まえた女をただ犯すだけではなく、犯した後で薬漬けにしていた。

 ただ楽しむ事が目的ならば絶対に使わないような、少量でも脳に後遺症が残るほどキツい薬物で。

 そうやって女の人格を破壊した後、適当なところに売り払ってしまう。

 そうする事で金儲けと口封じを兼ねた処理をするのだ。

 親族に行方不明で捜索されて運よく警察に見つけてもらえても、その時には女は既に壊れてしまっている。

 本人から彼らに繋がる証言は出ない。

 売った先で色々なところをたらい回しにされているせいで、そういうルートの証言を追っても彼らに辿り着く事は難しい。


「じゃあ俺ら車の中で待ってるから」

「わかった」


 ターゲットを見つけたら先回りをして車を停めておき、声をかける役の者が一人車から降りてターゲットが来るのを待つ。

 その時もし通行人がいたり人目につくようならすぐに計画を中止する。

 ターゲットと話をしてみて上手く騙せそうもないならその時も止める。

 無理に一人にこだわる必要は無い。

 言ってしまえば相手は誰でもいいのだ。

 少しでも嫌な予感がしたらすぐに別を探す。

 そういう警戒心も彼らは持っていた。


「あの子よかったよなぁ」

「やべぇ、俺超興奮してきた」


 彼らがターゲットとしたのは、ロングスカートを穿いたいかにもお嬢様然とした、育ちの良さそうな女性だった。

 高校生か、大学生か。

 シュシュで一つにまとめた長い髪が歩く度にゆらゆらと揺れていた。

 世の汚さを知らない世間知らずの箱入り娘様。

 ターゲットとしてうってつけの存在だった。


「お前、今回は髪切るの止めろよ? 興奮したらすぐ切りたがるけど、あれやると引き取り手いなくなるんだよ」

「……しねぇよ。いっつもいっつもうるせぇなぁ」


 そんな事を車内で話していると、女は上手く騙されてくれたらしい。

 無警戒に車に近付いてきた。


「よし、準備しろ」

「「了解」」







「…………ん、ぁ?」


 青年の意識がゆっくりと覚醒していく。


「ぁ……れ? え?」


 体が上手く動かせない。


「はぁぁああああああ!?」


 見ると、自分の手足が金属製のベッドに手錠で拘束されていた。

 更に、何故か下着一枚身に着けておらず全裸にされていた。


「なっ!? おい! おい、お前ら!」


 横を見ると仲間の三人も同じように全裸で拘束されていた。


「…………ん、うぅ」

「……あぁ……なんだぁ?」


 声に起こされ三人が目を開く。


「な、何だよこれ!」

「おい! 何の冗談だ! ふざけんな!」

「ぶっ殺すぞ!」


 四人がガチャガチャと音を鳴らして手足を動かす。

 そこは、窓のない部屋だった。

 広さは学校の教室位と言えばいいだろうか。

 壁も床もコンクリートがむき出しだった。

 部屋にはベッドと天井の明かりと、金属製のドアが一つのみ。

 他には何も無い。

 

「おい! 誰だよこんな事しやがって! おい!」

「ふっざけんな! ぶっ殺すぞ!」


 威勢よく青年達が叫んでいると、ドアが開いた。


「あら? もうお目覚めですか?」


 そこから姿を現したのは、あの四人がターゲットとして目を付けた髪の長い女だった。

 

「……あ?」

「…………あれ?」


 そうなのだ。

 彼らはあの女を捕えようとしていた筈だ。

 なのに何故今こんな所にいるのか。

 反対に捕らえられているのか。

 記憶が曖昧だ。


「……姉さん、早く始めようよ」


 女の後ろから猫背の少年が一人、キャスター付きのラックを押しながら部屋に入ってきた。

 高校生位だろう。

 かなり長身だった。

 身長が百九十センチ以上はある。

 長い前髪とマスクで隠れどんな顔をしているのかわかりにくいが、隙間から覗く目は垂れ気味で、目の下にくまが出来ていた。


「おい! 女ぁ!」

「あのさぁ、お嬢さん。俺らにこんな事してただで済むと思ってんの? 俺達怖いよぉ? あんまり大きい声じゃ言えないような知り合いもいるし」

「早く解け! ぶっ殺してやる!」

「ば、馬鹿! お前ら怒らせんな! 俺ら捕まってんだぞ!? まずは話を!」


 四人が色々と言っているが、女はその様子を横目で見てクスクス笑うだけ。

 

「カメラの準備するよ」

「ええ、お願いします。わたくしはこちらを準備しますので」


 少年が三脚を出して四人にビデオカメラを向ける。


「ばっ、馬鹿!」

「おま、お前止めろよ!」

「この変態!」

「ストップストップストップ!」


 裸を撮られて四人が焦り、顔を赤くする。

 少年は一台、二台、三台とビデオカメラを設置すると、手にも一台持った。


「姉さん、こっちは準備出来たよ」

「はい、こちらも準備OKです」


 指で丸を作った女に頷くと、じゃあ試し撮りを兼ねてオープニングだけ撮っちゃおうよ、と手に持ったビデオカメラのRECボタンを押した。

 すると女が慣れた作り笑いを浮かべ、口を開いた。


「皆様こんにちは、こんばんは、おはようございます、ご機嫌いかがでしょうか。ねじ巻きスライスです」


 女が名乗ったその名前は、まさか本名では無いだろう。

 四人には何の事だかわからない雑談や報告のようなものを数分語ると、カメラの前から半歩横にずれた。

 

「本日はとても素敵な方達に来ていただきました」


 彼女の言葉に合わせ、少年がビデオカメラを四人の方に向ける。


「あの――」

「ふっざけんなクソアマ!」

「ぶっ殺す! てめぇぜってぇぶっ殺す!」

「お前ら黙れっつってんだろ! ちょっと落ち着け!」

「あーーーーーー!!!! あーーーー!!!!!!」

「…………刻さん、一旦カメラ止めていただけますか?」

「わかった」


 少年がビデオカメラを止めると、女が咎めるような顔で四人の方を向く。


「もう、撮影の時は静かにしていただきませんと」

「何がだよ! どういう事だよ!」

「ぶっ殺す! ぶっ殺すかんなお前!」

「あー…………」


 少年が不愉快そうに目を細めると、ビデオカメラをラックの上に置き、拘束されている青年の中で一番声がうるさい者の横に立った。


「あぁ!? んだてめぇ! ぶっ殺すぞ! てめぇ絶対ぶっ殺すかんな!」

「あのさぁ……」


 少年が青年の小指の先をつまむ。


「触んじゃね――」


 不衛生に伸びた青年の爪の先端に指をかけると、左右から力を込めながら指を持ち上げる。

 ペキ、と音を立てて、青年の爪が剥がれた。


「あっ! ああああああああああああ!!!!!!!!」

「あのさぁ、身の程をわきまえようよ、ねぇ。うるさいんだよお前ら」


 少年は爪を剥がした後の血が滲む肉にぎゅっと爪を立て、ガリガリと肉を削ぐように引っ掻く。


「えぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「あーうるさいうるさいうるさい、うるさい。姉さん、こいつらに教えてやんなよ。じゃないといつまでもうるさいよ」

「そうですね。目が覚めたら突然こんなところにいてこんな目に遭うだなんて、何が何やらで戸惑ってしまいますよね」


 ねじ巻きスライスと名乗っていた女が手をポンと合わせる。


「では、撮影の前に少しだけ説明をしましょうか」


 ねじ巻きスライスが可愛らしく首を傾げた。


「私達は貴方達のような犯罪者を拷問にかけて殺害し、その様子をビデオで撮って販売するお仕事をしているのです」

「は?」

「…………え、何? 何だって?」

「理解力低いなぁ」


 刻と呼ばれていた少年が苛立たし気な声を出す。


「あんたらさ、やってた事気付かれてないつもりだったみたいだけど、普通にバレバレだから。俺らの中じゃ超有名人」


 青年に顔を近付ける。


「だから、殺すの。悪い事したあんたらはぁ、今日ここで、殺されんの」

「つまり……」


 青年の一人が声を震わせる。


「あんた達は、俺らみたいな犯罪者を裁く、正義の味方って、事、か?」

「正義の」

「味方?」


 ねじ巻きスライスと刻が顔を見合わせた後、爆笑した。


「あはははははは、はは、は、ふふ、ふふふふ、……面白い事おっしゃいますね」

「無い無い、無い。んなわけないだろ」


 ビデオカメラをポンポンと叩く。


「正義の為にやってるならビデオ撮影して販売なんてしないから」

「価値や値段が上がるように犯罪を見過ごしたりもしませんしね」

「収穫するタイミングが難しいんだよ。値段吊り上げてるうちに他に掻っ攫われたりするから」

「つまりですね? 私達は貴方達と同じ、悪人です。貴方たちが無関係の人々を襲ったように、私達も無関係な貴方達を自分勝手に誘拐してきたんです」

「待てよ! 何で俺達なんだよ! ただ人殺すとこ撮りたいだけなら俺らじゃなくったっていいだろ!?」

「あー……出ちゃった。お前らいつもそれ聞くな」

「テレビでヒーローものの番組を見た事はありませんか? 悪い怪人が暴れて、正義のヒーローがやっつける。あれと同じです。視聴者の方達はただの暴力を見たいんじゃないんです。悪が倒される暴力が見たいんですよ」

「子供の頃はヒーロー番組、年をとったら時代劇。どっちも話の大筋は同じ。悪い事する悪人が正義の味方にボコられる。本質としてそういうのが好きなんだよ、人間は。だから俺達はそういう映像を撮るんだ。とんでもなく悪い事をしてきた悪人が、苦しんで苦しんで苦しんで、やった事と同じ位酷い目に遭って倒されるところをな」

「大分静かになりましたね。もう宜しいでしょう。怯えてくれる分には好きなだけ吠えて下さって構いませんので」


 刻がラックの上にあるビデオカメラを手に取りながら、ねじ巻きスライスに聞く。


「姉さん、配分はどうする?」

「四人いますから、色々出来ますよね」

「あぁ、これも説明しておくか。視聴者にも殺し方の好みがあってさ。じっくりコトコト時間をかけて苦しめるのが好きなタイプと、ごちゃごちゃやらないで短時間で派手にばーんとやるのが好きなタイプがいるんだよ」

「そうですね、前に貴方達と同じような犯罪を犯した方には……」


 ねじ巻きスライスがラックからファイルを手に取り、SDカードを一枚引き抜く。


「あ。……あ~あぁ、折角設置したのに」


 設置されているビデオカメラを三脚から外して手に取り、その中のSDカードとファイルから取り出したSDカードを入れ替えると、再生を行う。


「見えますか? 小さくて見えませんかね?」


 彼女の言う通りビデオカメラの小さい画面じゃ近くにいる者にしか見えないが、再生したビデオカメラから聞こえる悲鳴を聞けば十分だった。


「これはじっくりコトコトタイプですね。スライサーで男性器を先端から根元まで削ぎ落としていくんです。同じような物だと……あ、これがいいですね。こちらはおろし金で同じように男性器を先端から根元まで摩り下ろしています」

「やっぱレイプ犯に対してはそういうのが多くなるんだよ。こっちも面白いよ。尿道に鉄串入れて、飛び出てる端のところを火で炙るんだ。熱で焼けた鉄串が尿道に焦げ付いたところで引き抜くと、どいつも良~い悲鳴上げるんだよ」


 青年達は何も言えず震えあがり、中には失禁している者もいた。


「派手にばーん枠だと……あ、先日撮影したこれは良かったですね。頭蓋骨に空けた穴からホースを入れて、そこに空気を流し込むんです」

「頭蓋骨破裂のやつね。破裂前に死んでたから苦しめ派からはあんまり人気無かったけど」


 そう言って、あぁそうだと刻が青年の一人を見る。


「リーダーだけは殺さないんだよね?」

「はい。手足は切り落としますが体と頭は綺麗なままにしておいて下さい。彼の事を買い取りたいという方がいらっしゃいますので」


 何を言っているんだろうか。

 青年達が歯を鳴らしながら涙を流す。

 こいつらは、一体何を言っているのか。


「いつもみたいに不細工な不人気は派手にばーんで、顔がいい人気者はじっくりコトコトでいい?」

「ええ、そうしましょう。輸血用の血液は?」

「ある」

「これですぐには死にませんね」


 刻が再度ビデオカメラを構える。


「じゃあもう一回オープニングを」

「そうですね……ふふっ、見て下さい、刻さん。皆さんいいお顔になりました。花丸です」


 青年達の悲鳴と共に、狂気の拷問撮影会が始まる。

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