第07話 オカルト研究部
畳敷きの旅館の部屋に四人の男女がいる。
一人は成人、他三人は学校の制服を着た高校生だった。
「やっぱり連絡取れないね……。皆どこ行っちゃったのかなぁ……」
ただ一人の成人である男性が携帯を見てため息をついた。
太いフレームの黒縁眼鏡をかけ、寝癖なのか癖毛なのかわからない感じに髪の毛先をピョンピョンと跳ねさせている。
顔も体つきも全体的にほっそりとしていて、一言でいうと頼りない風体だった。
「椰子せんせー」
畳に座っていた男子生徒がその男性に話しかける。
先生、という呼ばれ方からわかる通り、彼は教師だった。
外見の特徴と苗字からもじって、生徒達からは裏で『もやし』と呼ばれている。
「あ、あぁ……何だい?」
生徒に返す喋り方に威厳が無い。
確かにもやしだった。
「集まる事言ってなかったんですから仕方ないですよ。皆自由時間だと思ってどっかで遊んでるんじゃないですか?」
「そっか、そうだよね……」
克也に話しかけている生徒が座卓の上にあるまんじゅうを手に取り、包装をはがす。
「四人には後で俺から伝えときますから、そろそろ明日の予定についての話し合い始めましょう」
茶色いまんじゅうを半分に割りその片方を口に投げ込むと、二、三度噛んですぐに飲み込み指を舌先で舐める。
彼の名前は、
高校三年生だ。
細面で目が細く吊り上がっており、まるで狐のような顔をしていた。
内面を見ても相手をからかったり騙したりするのを楽しむような性格なので、内外共に狐のイメージそのままの人間だ。
「てわけでがっくんもスマホしまってね。始まるよ」
「だ~から~、そのがっくんて呼び方止めて下さいよ~石谷先輩~」
匠の横に座っていた男子生徒が文句を言いながらスマホをしまい、匠が割った残り半分のまんじゅうを手に取ると、素早く口の中に放り込んだ。
人懐っこく素直そうで、人好きのする、幼い少年のような顔立ちをしていた。
匠が狐のようだと言うならば、彼はまるで子犬のようだ。
それほど低身長というわけでもないのに、話していると子供と一緒にいるような気分になる。
少年は、
苗字からわかるように、彼は斗亜の弟だ。
兄と似ていないとよく言われる。
というか誰からも言われる。
「あ、そうだ。明日の予定なら俺、前にも言いましたけどどっかで少し抜けさせてもらいますね。兄ちゃんに会いに行くんで」
「言ってたねそんな事。うん、いいんじゃない。ね? 椰子先生」
「うん……その話は事前に聞いていたからね、わかっているよ。気を付けて行っておいで」
「うっし」
岳がガッツポーズをして喜んでいると、座卓の上に湯のみが四つ置かれた。
女子生徒がお茶の用意をしてくれたのだ。
「でしたらその件も含めて、明日の予定について早く話し合いを始めましょう。私早くお風呂に入りたいんです」
急須から湯のみにお茶を注ぎながら言う。
「あはは、嘘つけー。市川ちゃんは早くお風呂に入りたいんじゃなくて、早く大好きな丘野君を探しに行きたいんでしょ? バレバレなんだから照れないで正直に言っちゃえばいいのに」
「…………」
匠の分のお茶を注いでいたのだがそれを止め、少し赤くなった顔でその顔を睨むと、何も言わず岳の隣に座った。
それが彼女の名だった。
学年は二年生だ。
染めた事も今後染める気も一切無いのであろう長くて綺麗な黒髪に、会話せずとも規律の二文字が頭に浮かぶ、意志が強く真面目そうなつり目がちの目元。
多少気が強そうに見えるが美人で、体型を見ると出るところは出て締まるとこは締まっている。
男にとって正に申し分ない容姿を持つ少女だった。
だが、彼女もまた匠や岳同様見た目の印象そのままな性格の為、その生真面目さが面倒くささを感じさせ、異性からあまりモテたりはしていなかった。
「そもそも、どうして私達『オカルト研究部』がここに来たんですか? 人工島に科学と未来はあってもオカルトは無いと思うんですけど。先輩達がほとんど来てないのもそういう事ですよね?」
「うんー……そうだよね、そう思うよね」
克也が注いでくれてありがとね、とお礼を言ってからお茶をすする。
背を丸くし猫背になってちびちびとお茶を飲む姿もまた情けない。
早矢が言ったように、彼らは部活動で本州の高校から来た者達だった。
「でもね、そんな事は無いんだよ? よく考えてごらん? 地震や台風が多いこの国で、こんなに大きな人工島を――」
「ねぇねぇ、市川ちゃん真面目なのにどうしてそんなに丘野君がいいの? 相性最悪に見えるけど」
「……何の話ですか。今そんな話してないんですけど。早く明日の予定の話をしますよ」
早矢が冷たい目つきで返すが、耳が赤い。
「えー、聞きたいよー。ねぇ? がっくん?」
「え?」
お茶をすすりながらスマホを見ていた岳が顔を上げる。
「あー、丘野先輩の話ですか? 俺は大好きですよ。男同士先輩後輩として付き合う分にはすっごいいい人ですし。不真面目で女癖が悪いってのは否定できないですけどねー」
「……女癖悪いとか、困るなぁ……顧問としてそういう不純異性交遊とか……困るなぁ」
「何股したとか浮気でどうこうしたとか、女の噂には事欠かない子だよねぇ丘野君は。市川ちゃんはそんな彼のどこがいいの?」
「だ、だからそんなのどうだっていいじゃないですか! 早く明日の予定について話しましょう!」
もうメインの話題から思い切り逸れていた。
「……そう言えば丘野君もいないけど、こはるちゃんもいないんだよねぇ。……まさかこはるちゃん、丘野君と一緒にいるわけじゃないよね?」
『………………』
聞いた克也に全員が黙り込む。
「あの子、僕の学生時代の先輩の妹さんなんだよね……」
「へぇ、そうなんですか」
「うん。それでその先輩に頼まれてるんだ。妹を宜しく、って。先輩、怖いんだぁ……。もし自分の妹が浮気症の悪い男に引っかかってるって知ったらぁ……」
小声になる。
「…………僕、責任取らされて殺されちゃうだろうなぁ」
『……………………』
それを聞いて、皆は思った。
じゃあ先生、死んだよ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます