第七特務白虎隊

 教室に戻って、暁先生は教室で待機と伝えただけで、そのまま一時間が過ぎた。

「四時過ぎか……」

 千子は時計を確認するとイスの背もたれに深くもたれた。

 雷は腕を組みながら貧乏揺すりをして、いら立ちを露(あらわ)にしている。

他の生徒も退屈にしている者もいれば、実力テストの疲れからか、寝ている者も居る。

 そこへ教室の扉が開く音がした。暁先生は大きな紙を一つ抱えながら現れた。

「おまたせ。実力テストの結果と班分けを行なうわ」

 その言葉に皆、姿勢を正した。

「じゃ、まずはテストの結果を紙に書いてきたから、それを見て」

 そういいながら暁先生は黒板にその大きな紙を貼った。

 皆、一斉に黒板に近寄ったが、一瞬静けさが起きた。黒板に向かわなかった千子は疑問を浮かべながら黒板に近寄り、幽子は自分の席でうつむいている。

 皆、口々にありえないと言い、驚きを隠せずにいた。

 千子は黒板の前まで行くとその紙を見て驚いた。

 『実力テスト結果発表』と書いてある紙の一番上には『死四幽子 着弾数 二十二 被弾数 一』と書いてあり、二番目は『村正千子 着弾数 四 被弾数 零』と書いてある。

 ――まさか、ここまでの着弾数があるなんて……予想はしていたが、二十二はありえない数だ。あいつが凄腕のスナイパーか。

 千子は少し幽子の方を見た。

「ありえねぇ。まさか、こいつが………」

 雷はそういうと幽子の方に振り向いた。幽子は照れくさそうにうつむいたままだ。

「はいはい、みんな見たね。じゃ、自分の席に戻りな」

 暁先生は手を二回叩くと生徒をあしらった。皆、驚きながらも自分の席に戻った。

「じゃ、次は班分けをするよ。この特務白虎隊を十個の班に分けるわ。じゃ、第一白虎隊。班長、神崎―――」

 そういって暁先生は名簿をみながら、四人一組の班を作っていった。皆、真剣な眼差しで聞いているが、千子は頬杖を突いて真剣には聞いていなかった。

「第七白虎隊。班長、東条季穂。班員、死四幽子、本田雷、村正千子」

「ちょっと待てよ! こいつと一緒なのかよ!」

 雷は『村正千子』と聞くと席を立ち上がり、千子を指差した。

「これは命令よ。私的な物を挟むんじゃない!!」

 暁先生は今までに無く、強い口調で雷を叱った。

「………チッ」

 雷は顔をしかめて席に座った。

「じゃ、第八白虎隊。班長―――」


「――これで班は決まったわ。じゃ、今日の授業は終わり。みんな寄り道せずに学生寮に行くのよ」

「あの、先生」

 帰ろうとバッグを持つ生徒が居る中、一人手を挙げた生徒が居た。

「東条、何?」

「私達の武器はどうなるんですか?」

「そうだ。俺達の武器、武器庫に仕舞ったままじゃねぇか」

 雷も季穂の問いに賛同すると、暁先生は手を叩き、思い出した。

「あ! 忘れてた。中学と違って武器は個人所有から学校所有になったから、自前の武器は専用の武器庫に仕舞ってあるわ。メンテナンスも朝にしておくことね。」

「その『専用の武器庫』ってどこにあるんだよ」

 その問いに暁先生は名簿の中のプリントを見た。

「えっとね……地下二階の『白虎隊所有武器庫』って書いてある所にあるわ。勿論、セキュリティは高いから指紋認証などをして通らないといけないわ。でも、もうあなた達の指紋は取ってあるから大丈夫よ」

「ヘッ、武器庫の南京錠とは訳が違うな」

 その言葉に暁先生はまた思い出した。

「あ、そうそう。武器庫の南京錠を開けた東条には、この実力テストにボーナスを加算してあるわ。それと武器庫は南京錠で閉めてある訳じゃないから」

 それを聞いた雷は驚いた。

「え!? くっそぉ、ならあの時俺が開けておけば……」

 雷は悔しがるが暁先生は少し笑った。

「あなたみたいに武器で破壊しようとする人は減点よ」

 それを聞いた雷は落胆した。

 ――全部監視していたのか。

 千子はその話を聞きながら先生達の行動を思い起こしていた。

「じゃ、今日の授業は終わり!」

 その言葉を合図に生徒達はバッグを持ち、教室から出て行った。


 コンビニの中、千子はドリンクを何にしようか迷っていた。

「新発売か――四ツ矢サイダーか……」

 千子の手は二つのドリンクを交互に行き来している。

「………でもやっぱ、こっちだよな」

 そういって新発売の方に手を伸ばした。

「う~ん、たらこか明太子か……」

 今度はおにぎりの陳列棚で手が泳いでいる。

 そこへ、他の客がたらこに手を伸ばした。

 ――あ!

 一瞬その客を見た後、陳列棚を見るとたらこが無くなっていた。

「………」

 千子は悔しさを胸に納め、明太子を取った。

コンビニを出ると空は赤く染まり、太陽が沈みかかっていた。

「やべっ、もうすぐ日の入りだ」

 千子は時計を確認すると駆け足で学生寮へ向かった。


「ただいま」

 誰も居ない部屋の中で、千子は無意味に呟いた。

 窓からは夕日が差しこみ、部屋を赤く照らしているが、千子はもう照明の電気を付けた。

 シングルベッド、タンスが一つに机が一脚。簡素でだだっ広い部屋の中で、千子はベッドに腰掛けて、コンビニで買ってきたおにぎりとドリンクを取り出す。

 なんとも物足りない様な夕食。千子はおにぎりを頬張りながら、向かいの白い壁をぼんやりと見つめるだけだった。

「何で行かなきゃならねぇんだよ!」

「当たり前でしょ。チームなんだから」

 隣の部屋から声が漏れている。それもどこかで聞いた事のある声だ。

 千子は最後の一口を頬張ると、ドリンク片手にドアを少し開けた。

「いいじゃねぇか、明日でも。どっち道、明日は所有武器訓練だしよ」

「私はチーム内で、所有武器を知った方がいいって言ってるの!」

 ドアの隙間から見えたのは、隣の部屋のドアの間で口喧嘩(げんか)をしている雷と季穂だった。それに影が薄い幽子も居た。

「何であんたが隣なんだよ」

 千子はドアを開けると雷に向かってぼそっと言った。

「なっ、お前! 俺の隣だったのか!!」

 雷も隣の部屋から千子が現れ、驚いている。

「あ、丁度いいわ。あなたの部屋で話しましょ」

 季穂は好都合と見ているのか、勝手に千子の部屋を指定した。

「は? 何を話すの?」

 千子にはまだこの状況が飲み込めていない。

「あなた、刀使いだったわね。これからあなたの部屋で、第七白虎隊の所有武器に関して話し合いをするわ」

 季穂は千子に近づき、状況を説明した。

「何で?」

 その素朴な質問に季穂の口調が変わった。

「班員の中で仲間の武器ぐらい知ってなきゃ、隊として機能しないじゃない!」

「まぁ、そりゃそうだ」

 千子はうなずくしかなかった。

「だったら、俺はなおさら行かねぇ」

 雷は腕を組んでその場を動こうとしなかった。

「往生際が悪いわね。行くったら行くの!」

 季穂は雷の頬をつねるとそのまま引っ張って行った。

「いててて、だったら所有武器庫に行きゃいいじゃねぇか」

「こんな時間に武器庫が開いているとでも思ったの?」

 季穂は呆れていた。そして千子の部屋に無理矢理雷を入れた。

「それじゃ、話し合いを始めましょ」

 季穂が部屋に入ると、その後を影の様に幽子が入って来た。

「はぁ……」

 ――何で俺の部屋なんだ……

「何よ、そのため息は」

「何でもない」

 こうして千子の部屋で第七白虎隊が集まった。

「それじゃ、まず私達の所有武器をおさらいしておきましょ。私はリボルバー、幽子は大鎌(サイス)だったわね」

 それに幽子はうなずいた。

「雷はライトマシンガン、そして千子は刀ね。私と雷は銃器だから、遠距離に適しているのは当たり前だけど、隠密行動には不向きよね。特に雷」

 そういって季穂は雷の方を少し見た。

「悪かったな」

 雷は嫌みたらしい言い方をした。

「雷は確か、M60E4よね?」

 その問いに雷はうなずき、自分から話し始めた。

「M60E4は重い! 使いにくい! うるさい! だけど俺は拳銃の様に扱えるぜ」

 そのあまりにも簡略化された言葉に皆、ため息を吐いた。

「もっと詳しく教えてよ。どう拳銃の様に扱えるの?」

 季穂は呆れていた。

「例えば、こいつは弾帯を運ぶのにも一苦労だ。だから一般には一人が弾帯を運んで、一人が射手になる。だけど俺は違う。俺は弾帯を五つは運びながら射手になれるぜ。それに三脚もいらねぇ。三脚無しで千五百の有効射程は出せる。オーバーヒート時の銃身交換も一人で出来る」

 雷は自慢そうに話した。

「なるほどね。一人で全てが出来るということね。制圧や防衛戦にはうってつけの人材ね。何で陸上玄武隊にならなかったのかしら」

「さぁ」

 雷も首を傾げた。

「雷の所有武器が分かった所で今度は私から話すわ。私の武器はシングル・アクション・アーミー。いわゆる西部劇に出てくる拳銃ね」

「SAAなんてリロードに時間掛かるだろ」

 雷の問いに季穂は不敵な笑みを浮かばせた。

「大丈夫、私は十秒で出来るわ」

「うそだぁ、マガジンごと取り替えるんじゃねぇんだからよ」

その言葉を雷は信じなかった。

「うそだと思うなら明日見ればいいわ。二丁で二十秒、簡単よ。それに跳弾もコントロール出来るからその時にやってあげるわ」

「跳弾も出来るなんて――本当だろうな? 出来なかったらどうする?」

 雷はまだ信じていない。

「私は男みたいに賭け事の様な事はしないわ」

「へぇ、自信無いんだ」

 雷は挑発的な言い方をしたが、季穂はそれに乗らなかった。

「いちいちうるさいわね。どう言われようと乗らないわ」

 すると、季穂は千子が持っているドリンクを奪った。

「おい!」

「ちょっと借りるね」

 季穂はドリンクを持つと片手だけを使い、ドリンクで縦横無尽にジャグリングをして見せた。

「こんな曲芸も出来るけど、戦闘にはあまり意味は無いわね。ありがとう」

 そういって千子にドリンクを返した。

「炭酸抜いてくれて、どうもありがとう」

 千子は嫌みたらしく言った。

「あら、ごめんなさい」

 季穂はあまり気にしていないようだ。

「私の武器はこんな感じね。でも隠密行動に騒音は厳禁だから、私達の武器はあまり使われないと思うわ。それじゃ今度は幽子、あなたの大鎌(サイス)教えて」

「はい……」

 幽子はもぞもぞしながら立ち上がると、恥ずかしそうに話して言った。

「わ、私の大鎌はぁ代々受け継がれて来た物なんですぅ。多分、鎌倉時代からだとぉ聞いていますぅ」

「それじゃ、優に九百年はあるわね」

 季穂は関心していた。

「そんなことよりお前、大鎌持った時にヤンデレみたいになってたけど、大丈夫なのか?」

 雷の心配に季穂と千子もうなずいた。

「あ、あれはぁ……なんというかぁ……そのぉ………」

 幽子はもじもじしながら、話しづらそうだった。その行動に雷にいら立ちが垣間見えてきた。

「………あ、あの大鎌はぁ元々暗殺用に作られたとぉ聞いていますぅ。ですのでぇ、大量の霊魂がぁあの大鎌に取り憑いているんじゃないかとぉ」

 その話に雷と季穂は鼻で笑った。

「おいおい、まさかその霊魂のせいでヤンデレになるのか?」

 雷はありえないと言わんばかりだ。

「わ、私もぉよく分からないんですけどぉ、あれを持つとぉなんだか何かに取り憑かれた様にぃ、元気になるんですぅ」

 その言葉に皆、思わず笑ってしまった。

「元気に? はははは」

 特に雷は大笑いしている。幽子は顔を赤くし、うつむいている。

「まぁ、とにかく霊魂のせいにしておこう。でも、ヤンデレになるのはその時だけじゃ無いだろ?」

 千子のその鋭い問いに幽子は驚いた。

「は、はい。大鎌の時以外もぉたまにありますぅ」

「それじゃ、霊魂のせいとは言えないぜ」

 雷は幽子の説明を否定した。

「そ、そう言われてもぉ……」

 幽子はうつむいてしまった。

「そんなことより、今は所有武器の話でしょ。その話は別の機会にしておきましょ。幽子も大鎌(サイス)に関して戦闘術とか無いの?」

 季穂はその話をさえぎり、元の話に戻した。

「あ、戦闘術ですかぁ――それならぁ首切りとかですかねぇ」

 幽子はさわやかに言ったがその言葉に皆、凍り付いた。

「首切り……」

 ――やっぱ、こいつ死神だ………

 千子も少し引いた。

「ま、まあ幽子の大鎌(サイス)も分かった所だし、それじゃ最後に千子、あなたは言うまでも無いわね」

 季穂も即座に話を切り替え、千子を見つめた。

「刀の名は不折(ふせつ)村(むら)正(まさ)。自分で作り上げた物だ。後は言わなくてもいいよな」

 するとそこへ幽子が手を挙げた。

「わ、私ぃ《ピストルブレイカー》とかぁ、よく分かんないんですけどぉ」

「おいおい、それ知らないなんてお前、最近のニュースとか見てねぇのか?」

 雷は呆れているが、幽子は少し照れて言った。

「すいません。こういう性格なのでぇ」

「雷、頼む」

 千子は説明を雷に任せた。

「何で俺がお前の話をしなきゃならねぇんだよ」

 そこへ季穂が説得した。

「千子の気持ちも察してあげなさいよ。それに、あなたお喋りじゃない」

 雷には納得出来なかったが、喋りたいという気持ちもあった。

「チッ、分かったよ。そんじゃ幽子、お村正家は知っているか?」

 雷は幽子の方を見て話し出した。

「村正というとぉ、あの妖刀で有名な村正ですかぁ?」

「そうだぜ。その村正の子孫がこいつって訳だ。で、こいつは村正家の中で刀工の技術より、剣術の方が優秀でな。小学の時から軍事学校に通ってたらしい」

「刀工の技術もちゃんと身に付けている」

 そこへ千子が訂正を加えた。

「そんじゃ、お前が話すか?」

 その質問に千子は無言だった。

「チッ、気取りやがって。そんで、中学の時に驚異的な能力を発揮させたんだ。拳銃から飛んできた弾丸を刀で真っ二つにして避けたんだ。それがニュースになってすんごい騒ぎになったんだぜ。『アニメの技が現実になった』ってな。それからマシンガン相手に刀で勝ったとか、銃に囲まれても切り抜けたとか、根も葉もない噂が飛び交って大騒ぎ。でもその噂もあながちに嘘とは言えねぇんだ。奴の身体能力はずば抜けてすごくて、その噂も可能じゃねぇかって位だったんだ。そんでついたあだ名が《ピストルブレイカー》の村正って訳」

 幽子はその話に聞き入って何度もうなずいていた。

「へぇ、そうだったんですかぁ。千子さん、すごい有名人だったんですねぇ」

 幽子は千子の方を見るが千子は目をそらした。

「これで俺の話はいいよな? それじゃ、解散」

 千子は立ち上がると皆を外に出そうとした。

「ま、大体は分かったし、帰りましょ」

 季穂の合図で皆、立ち上がり千子の部屋を後にした。

「それじゃ、おやすみ」

 季穂が最後に部屋のドアを閉めた。

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第七特務白虎隊 蚊帳ノ外心子 @BAD_END

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