第2話
悪魔は口を開いた。
「俺は今まで色々な人間を見てきた。俺を前にして絶望し全ての感情を捨てる者、泣き叫び許しを乞う者、ただ穏やかに諦める者、崇め拝み讃える者、怒り狂える者…だが、お前はそのどれでもない。お前の様な者は実際初めて見る」
少女は物珍しそうに男の方をじろじろと見た。
「私の様な人間は案外、そこらじゅうにいると思いますよ」
「ほう、俺は余程運が良かったらしいな」
心の底から嘲るような声が男を抉った。男は何とも居心地が悪そうに目を伏せ、唇を何やらモゴモゴと動かしていた。しばらくまた沈黙が二人の間に流たが、やがて悪魔が何か思いついたように男に問うた。
「お前に何か大切なものはあるのか」
汚泥に語る悪魔 明日原 藍 @asupara118
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