第2話 彼女とは?
彼女とは、いったいなんだろう。
こんなことを以前のお俺なら絶対に考えなかっただろう。でも今は訳が違う。
非リア17年目にして、ようやく初めての彼女ができた。夢ににまで見た彼女だ。
アニメや漫画では、一緒に登下校したり、手を繋いで街を歩いたり、キスなんかもしちゃったりする。昼休みにはもちろん、彼女の手作り弁当を一緒に食べるのだ。
それが彼女、それがカップルだと俺は思い込んで生きてきた。
それが故に、彼女とは一体なんだろう。こんな馬鹿げた疑問にぶち当たっているのだ。
「なぁ、押野、石井さんと飯食わなくていいのか?」
石井さんと付き合い始めて一週間が過ぎた、昼休み。俺は席を向かい合わせにして、お昼ご飯を食べていた。
「いや、どうなんだろ?俺にも分からん」
向かいには、石井さん…ではなく、安達が座っている。
弁当も愛情がこもったもの(母親の)だ。
付き合って一週間が経ったけど、今まで一度も昼食を共にしたことはない。
「お前らって、一緒に登下校もしてないよな。てか、帰りは俺と一緒に帰ってるし」
そう。今まで想像してきた、一緒に登下校イベントもまだ発生していない。
登校は家が別々なところにあるし、皆んなに見られる危険もはらんでいるため難しいものの、下校ぐらいは一緒にできるかなと、いつも声を掛けようとするんだけど、声を掛ける前にすぐに帰ってしまっている。
徹底的に、クラスの連中にバレまいとしているのだろうか。
俺としては、一緒に下校ぐらいはしたいんだけどな……。その…、付き合ってるわけだし。
「なんだなんだ、その、付き合ってんだから下校ぐらい一緒にしたいなって顔は。はいはいいいですね、リア充は幸せな悩みができて」
全てお見通しだというニヤついた表情で、俺を煽ってきやがる。
「でも、本当にいいのか?このままで。石井さん美人だから、言い寄ってくる男は他にもいるだろ。お前みたいな冴えない男、捨てられるかもしれないぞ」
「そ、それは……」
それは絶対に嫌だ。今まで女の子にモテたこともなければ、仲の良い女の子さえいたことがないのだ。
高校に入学して、席が近いから何気に話し出した石井さん。共通のバンドが好きというところから仲良くなっていって、一緒にCDショップに行ったり、時にはライブを見に行ったり、こんな人は今までいたことがない。
初めての彼女を手放すのが惜しいんじゃなくて、俺の心を全部持っていってしまう、心から好きだと思える石井さんと別れるなんて、絶対に嫌だ。
「でも、皆に俺たちの関係を知られるわけにもいかないし。でも、一緒に下校とかしたいし……。あぁ!もう、どうすればいいんだよ!」
「いや、俺に言われても知らないよ」
本当に俺は石井さんが好きだ。でも、付き合い始めてからというもの、例の日直の時に話して以来会話がない。
LINEもしないし、これじゃむしろ付き合う前の方が仲が良かった気がする。
「でもなぁ、まだ一週間だし。恋愛のペースとしては、こんなものでいいのかな…」
そうだよ!俺たちは付き合い始めてまだ一週間しか経ってないじゃないか。
きっと、自分たちの気持ちの整理がついたら、そこから一緒に登下校したり、お昼を一緒に食べたり、どんどん仲良くなっていくんだ。
「でもさ、おしの。
安達が指さす先には、
彼らは先月、付き合い始め、休み時間にはいつも二人仲良さそうに、教室で会話をしている。それも、身体を密着させながら。
「さすがに、あれはペースが速いと思うぜ。たぶん、2か月後ぐらいには破局してる。でももな、何もないって言うのはそれはそれで問題じゃないか?」
「うーん。確かにそうだよな……。このまま何事もなく、自然消滅っていうことになったら……」
うああああああああああ!!!!どうしようどうしよう!それだけは絶対に嫌だ!絶対俺は石井さんと仲良くなって、行く行くは、結婚するんだ!
「そんなに悩むんならさ、一回一緒に帰ろうって誘ってみろよ。今までも、お前ら一緒に帰ることあったし、なんだったらライブとかも一緒に行ってたんだろ。今さら変わらないって。それに、お前らは気づいてないだろうけど、前からお前らのことはクラス中でうわさになってるぜ」
「ま、まじか…」
何それ…。恥ずかしいけど、ちょっと嬉しいかも。
「まじまじ。てか、いきなり一緒に帰らなくなる方が、怪しいだろ。なんかあったのかなぁって、それこそうわさになるぜ」
「そう言われてみれば、たしかに……」
そうだよな。今まで一緒に下校するなんて、珍しいことじゃなかったのに、いきなりそれが無くなると、かえって怪しいかも…。
「お、俺、今日誘ってみるは」
「おう。そうしろそうしろ」
放課後、6限の授業が終わったらすぐに、石井さんの席まで行って、声をかけよう。
そして放課後、6限終わりのチャイムが鳴り終わると同時に、俺は自分の席を立ち、石井さんの元へ向かおうとした。
「石井さー……あれ?」
石井さんの席に彼女の姿がない。
「あっ、押野くん。石井さんなら授業終わってすぐに帰って行ったよ」
のおおおお!!!
石井さん、それは予想外だよ!想定外だよ!早過ぎない⁉︎
「押野くんと石井さんってよく一緒に帰ってるよね。ほんと仲良いね」
クラスメイトの
ほんとに女の子って、人の恋バナが好きだよな。
「そっかぁ……。ありがとう」
甲斐さんに簡単にお礼だけ言って、トボトボと自分の席に引き返す。
今から追いかければ、下駄箱のあたりで追いついたかもしれない。
でもね、それはなんかストーカーみたいで嫌だ。せっかく付き合ってるんだから、しっかり約束して帰りたい。
「おいおい、いいのかよ。すぐに追いかければ、追いついたんじゃないか?」
「いいんだよ、もう。明日また挑戦してみるから」
席に戻ると、安達が心配そうに声をかけてきた。
そうだ、明日もう一回声をかけてみよう!
翌日、昨日のように6限終了のチャイムと同時に石井さんの席に向かう。
しかし、昨日同様その姿は既に消えていた。
「あれ?石井さん今日もいないのか?」
後ろから安達がそう言ってくる。
「なぁ、俺避けられてるのかな?」
その次の日、もう一度トライしようとチャイムが鳴ってる途中に石井さんの元に向かおうとしたが、既にその姿はなく、その翌日、翌々日、遂には一週間同じことを繰り返し、結局また一週間会話を一度もできないまま過ぎ去ってしまった。
「なぁ、押野、LINEで約束取り付けてみろよ。流石にあれじゃあ、絶対声かけられないだろ。休み時間もいつも友達とどこか行ってるみたいだし」
「やっぱり、そうかなぁ。でもなー、緊張するなー!」
「なんでだよ。今までだって、頻繁にやり取りしてたんだろ?」
「それはそうだけどさ……」
こうも避けられてると、なんだか連絡しにくいんだよな。
たぶん、皆んなに付き合ってることがバレたくないから避けてるだけだろうけど…。
「ほんとに、他の男に取られてもいいのか?付き合い始めてから、会話もろくにしてないだろ」
「うぐっ………」
「大丈夫だって。俺の見立てだと、石井さんの方もお前のことは大好きだ」
でも、告白した時『ちょっと好き』って言われたしなぁ、大好きじゃないだろ…。
「大丈夫だって。嫌だって言われたら、謝ればいいだけじゃねえか」
そんな簡単に言われてもな…。
でもそうだよな、俺から話しかけないと、ずっと喋れないままだと思うし…。
「分かった!俺、今日、石井さんにLINEしてみる」
その夜俺は、スマホを手に自室で固まっていた。
『石井さん、明日なんだけど、一緒に下校しない?』
打ち込んだ文章を眺め、送信できないでいたのだ。
今まで石井さんにLINEする時って、こんなに緊張したことはないのに…。
以前とは関係が違うんだぞ?大丈夫だ、送っても何も言われない。
「でも、こんな文章で大丈夫なのか?」
うーん。ダメな気がする。
よし!変えよう。
そうしてかれこれ、3時間ほど文章の改変を行い、最終的には
『石井さん、明日なんだけど、一緒に帰らない?』
一番最初に打ち込んだのと同じ文章になっていた。
「よし!これでいいや!送信っと……んっ!!!!!」
送信ボタンを押そうとして、時間が目に入る。
「1時じゃねぇか……」
こんな時間に送れるわけねぇよ。
失礼なうえに、絶対寝てるだろ……。
「っで、そのまま寝付けず、今日にいたったと?」
「……はい」
後悔とショックに
「ほらっ、もう直接誘っちゃえよ」
そう言って安達が、教室の扉を見て言う。
俺もつられてそちらを見ると、石井さんがちょうど登校してきたところだった。
「い、石井さんっ!!」
思わず、名前を呼んでしまった。
やべぇ、何も考えてないぞ……。
「んっ、おはよう押野くん。どうしたの?」
「えっ…、いや……えっとぉ……」
ちらっと、安達の方を見る。
『さっさと言え』
と、口パクで伝えてくる。
「あっ、あのさ!…一緒に、帰らない?」
「うん。いいよ!」
あぁ、言ってしまった、絶対断られるよな……。って、ん?
「えっ!?いいの!?」
「なんでそんなに驚いてるの?」
「だって、いつも早く帰っちゃってるから。てっきり、一緒に帰りたくないのかなって」
「そんなことないよ。だって、今までだって、示し合わせて帰ってなかったでしょ?」
…あぁ、そういえばそうだ。
いつも石井さんが先に帰ってるところに、俺が追い付いて一緒に帰ってたんだった。
「はぁ……。そういえばそうだったね」
「うん。もしかして、それで一週間悩んでたの?」
「えっ、どうして?」
「だって、授業中ずっと私の方見てたでしょ」
あうっ…。気づかれてたか。
「でも、ありがとね。私のために、そんなにそんなに悩んでくれて。ちょっと、うれしい、かな…」
そう言って、そそくさと自分の席まで走って行ってしまった。
「ひゅー。よかったじゃねえか」
「あぁ、なんで忘れてたんだろ」
ちょっと焦りすぎだな。とりあえずは今まで通り、仲が良かったんだからその行動を続ければいいだけだ。
その中で、恋人らしいことが発生出来ればいいんだよな。
「結局、石井さんも他の女の子と一緒なんじゃないか?お前が誘った時、すごくうれしそうな顔してたぞ」
まじか。緊張しすぎて、しっかり顔を見れてなかった。
でも、何はともあれよかった。これで、一緒に帰れるんだ。
しかし、その後大変なことが起こった。
彼女と一緒に下校することのハードルを舐めすぎていた________。
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